堕落した淫魔は夢を見る

雪之丞 親実

文字の大きさ
101 / 189
淫魔と感情

04

しおりを挟む
  身体がダルい。
  久々の倦怠感だが、妙に心地よい。
  身体は綺麗にされているが、まだ胎の中に千皇が入っている様だ。
  カグヤは何気に腹を摩る。

(……俺、千皇に抱かれたんだよな……)

  一方的に抱かれた感がある。
  背後から抱かれて、顔さえ見れなくて。
  
(俺だって、いろいろしたかったのにな……)

  カグヤを抱いている時、どんな顔をしているかすら分からなかった。

(……口付けも、してくれなかった)

  身体は何となくすっきりしている。
  ただ抜くだけよりは、全然満たされていた。
  
(……あんなにされたのはハジメテだ)

  一方的だったとは言え、あれ程まで前戯も丁寧で優しかったのは初めてだった。
  いろいろしたかったとは言え、今まで数多く抱かれて来た中で一番満たされている自分がいる。
  他の相手にもそうだったのか、と思うとモヤモヤするのだが、今は念願の千皇に抱かれたと思えば、少しだけ気は楽になった。
  精を取るのが使命だとか、その場を乗切る為の手段だとか、そんな事も考える必要もなく、千皇とすればただ抱いただけかも知れないが、目が覚めても余韻が残るくらいには、身体が喜んで居るのが分かった。
  最後は苦しくてあまり覚えて居ないが、今までで一番気持ち良かったのは否めない。

(……アイツ、気持ち良かったかな)

  ふと、不安が過ぎった。

(……次は、あるのかな。……もし、あれば……)

  カグヤはふぅっと一息着いた。
  シャワーでも浴びて飯でも食うか、と上半身を起こした時だった。
  腰がビキっと音を立てた気がすると同時に、激痛が走った。

「な、……んだ?」

  自分に何が起こったか分からなかった。
  取り敢えず、腰が痛い。
  下半身が特に重い。
  そう言えば喉も痛い。

「俺、……淫魔、なのに……」

  奥の更に奥が疼く。
  ゆっくりベッドから降りて立ち上がろうとするも、腰がガクガクした。

「マジか……。あんにゃろ……」

  腰を抑えながら何とか立ち上がった。
  脚がプルプルなりながら、ベッドルームを出ると、ソファーに人影が見えた。

「……あー、シャワー……」

  ちょっと気まづい気もするが、一応その背後に声を掛けた。

「ん?」

  振り返った人物は、千皇の様で千皇とはちょっと違う。
  目付きは同じだが、小柄で髪の毛が長い。
  男の様で女にも見える。

「あ、あれ?……千皇、じゃねぇ、気がする」

  頭が混乱する。

「俺はアイツの兄貴だ」
「……あ、あにき?」
「兄貴の百瀬。……それより、頭のソレと背中のソレは本物か?」

  百瀬と名乗った人物は、カグヤの背中を指さした。

「へ……?あっ!」

  カグヤは羽やらを出しっぱにして居た事を思い出した。
  見られたっ!カグヤは頭を抱えながら座り込んだ。

「何を見ても驚くなって言われたが、……なるほど」

  百瀬は驚く訳でも無くそう呟いた。

「別に誰かに言いふらす気はねぇから安心しろ。起きたら飯食わせろって」

  カグヤは恐る恐る顔を上げた。

「……それに、高熱が続いてんだろ?君の弟君。……俺なら診てやれるぞ」
「……熱?……ルシカか?」
「名前は知らん。姫神の彼氏君では無いみたいだ」
「……ヨゾラ?」

  カグヤの表情が険しいものに変わった。

「まぁ、人外っての?診るのは初めてだけどさ。何とかなるかも知んないけど、何とかならねぇかも知れねぇ。けど、何もしねぇよりはマシ」

  こっちおいでー、と百瀬は手招きした。
  カグヤは戸惑う。

「千皇に似てんからドキドキしてんのか?」

  それもあるが、本当に信用して良いのだろうか。
  不安も心配もある。

「あの鉄仮面の何考えてんか分からない奴が俺を頼ったんだ。信用してやれよ」

  確かに、千皇が楼依以外を頼るのは初めてだ。
  しかも、兄弟がいるのは知って居たがこうして会うのも初めてだ。

「ヨゾラっつったっけ?俺、その子とも会ってる」
「……へ?」
「黒槌の連中に喧嘩売られて、俺の友達が助けたの。そんでな」 
  
  初見だ。
  それなら大丈夫なのだろうか。
  カグヤは立ち上がると、ゆっくり百瀬に近づいた。

「弟の奴は店に行った」
「……そうか」

  百瀬の横に座る。
  間近で見ると、千皇にますますそっくりで落ち着かない。

「名前は?」
「……カグヤ」
「姫さんか」

  久々に言われた。
  何だかちょっと腹が立つ。

「で、ビッチ君は……」
「びっち?」
「セックス好きであちこち食い散らかしてたんだろ?弾ともセフレでお気に入りって聞いたし」

  弾とも知り合いだったとは、世の中狭い。

「で、千皇とはどうだった?」
「……どう?」
「抱かれたんだろ?」

  百瀬は普通に無表情で聞いて来たが、思えば質問がストレート過ぎて恥ずかしい。

「あ……、ぇ?」

  今までなら、カグヤも戸惑う事無くすんなり答えられて居た。
  アイツはこーだ、ドイツはあーだと恥ずかしげもなく言えた。
  だけど、どう説明して良いか分からない。

「説明つかないくらい気持ち良かったのか?」

  百瀬はにっと笑った気がした。

「……大抵の奴は気持ち良かったって言うけど」

  そうだとは思う。
  気持ちは良かった。

「俺より、……アイツだろ」

  ぶっちゃけ、そっちのが気掛かりだ。
  弾を含め大抵は行為中、終わった直後はこっちが聞かなくても気持ち良いとか、良かったと言ってくれる。
  抱き合ったり、口付けしたり、フェラチオや騎乗位何かは当たり前にしていただけに、そう言ってくれるのも当然だろう。
  しかし、千皇とはそう言う触れ合う様な行為はさせて貰えなかった。
  行くなと言わせといて他に行った奴だ。
  他と同じは嫌だと言っても、もしかしてアレが通常かも知れない。

「アイツ次第ねぇ……」

  百瀬は立ち上がるとキッチンへと行った。
  何かを作業すると、キッチンの椅子に座った。
  百瀬の目線はオーブンレンジに向いている。
  沈黙が流れる。  
  ジーと言う小さい電子音が微かに聞こえるだけで、何だか落ち着かない。
  こっちから話しかけるべきなのだろうと思っても、話題が見付からない。
  それにしても、チーズが焦げるいい匂いがする。
  そわそわしてる間に、チーンと音が部屋に響いた。
  百瀬は立ち上がると、鍋つかみをはめるとオーブンレンジからグラタンを取り出す。
  カグヤの目が輝いた。
  百瀬はカグヤの目の前にグラタンを置いた。
  
「これ、食っていーのかっ!?」

  輝いた目線を百瀬に向ける。

「……なるほどな」

  百瀬は呟いた。

「何?」
「いや、食って良い。味の保証はねぇが」

  カグヤは眩しいぐらいに目を輝かせると、両手を合わせていただきます!と元気よく叫んだ。
  スプーンを取り、一掬いすると息で冷ますと、それを口に入れた。
  幸せそうに口を動かすと、それを表すかのようにしっぽがユラユラ揺れた。
  そのシッポを百瀬はギュッと握った。

「みぎゃっ!?」

  驚いたカグヤは、変な声を上げ背中をピンと伸ばした。

「やっぱり本物か……」

  カグヤのシッポを引っ張ってみたり、左右に動かしたりした。

「ちょっ……」
「あー、悪ぃ。初めて見るもんだから」
  
  そりゃそうだろう。
  ファンタジーの生き物なのだから。
  
「で、千皇が気持ち良いか、だっけ?」

  百瀬はカグヤのシッポから手を離した。
  話は続いていたのか、と思うとスプーンが止まった。

「俺は千皇じゃねぇから分かんねぇ」

  そりゃそうだ。

「ビッチ君は、今までそう思ってセックスしてた?」

  百瀬に聞かれて、スプーンを下ろすとカグヤは首を横に振った。

「相手が言ってたから、そうなんだなって。……でも、アイツ……、言わねぇし、どんな顔してんかも分かんなかったし……」
 
  ボソボソとカグヤは答えた。

「……ふーん」
「それでなくてもさ……、モヤモヤしてたから、仕方なくだろうし……」
「モヤモヤ?」
「他の奴、相手にしに行ってたんだ。……行くな、って言ったけど、聞いてくんなかったし。俺が言えた義理はねぇんだけど」

  ゆっくりとグラタンを掬った。

「……俺が思うに。アイツ、顔とか態度に出さねぇから読めねぇけど。今、ビッチ君をここに居させているっての、まぁまぁの奇跡なんだよな」
「……奇跡?」
「まずは誰かを入れるって、余程信頼してねぇと入れねぇし、誰かの事で俺に話すっつー事もなかった。誰かとセックスする時はホテルか知り合いのSMバーでヤってた」
「ここに俺を置いてるのは、……成り行きで」
「それに、……付いてる」

  百瀬はカグヤの首筋を指差した。

「ここ……、濃厚な痕」

  カグヤはそっとその首筋に手を当てた。

「見える位置にわざわざ付けるって、今まで無かったんだよなー。興味無さそうに見えて、結構独占欲強いのな」
   
  独占欲、その言葉に身体が熱くなる。
  魔王や弾も強そうだが、けして他とセックスをするな、とは言わない。
  翠も独占欲が強そうだが、あくまでもお気に入りのセフレ程度だろう。

「珍しい事ばっかで、結構戸惑ってんの、コレでも」

  千皇と同じで、百瀬からも感情を読み取れない。

「百瀬君は……」
「モモちゃんと呼べ」

  その無表情でちゃん呼びはないだろう、とカグヤは思った。
  でも、そう呼んでやらないと面倒になりそうだ。

「……モモちゃんは」
「おう」
「アイツがどうなって欲しいの?」

  戸惑いながら、カグヤがそう聞くと百瀬は宙を見て首を傾げる。

「どうなって欲しいっつーか、……産まれた瞬間から鉄仮面だったんだ。そんな奴が人並みに感情あんなら、どんな面で相手を見るか見てみてぇだけ」
「……感情」
「ビッチ君だって、弟の幸せを願うだろ?俺も幸せまでは大袈裟だけど、……それなりにな」
「……」
「それに、あー言う奴が君見たいなビッチに振り回されるとか、面白い」

  ククッと百瀬は笑った。
  その笑いは若干不気味だ。

「惚れた相手がビッチとは思わなかったけど」
「……俺は、イマイチ良く分からねぇんだ。好きだ、とか、惚れたとか。……こっちに来る前から、アイツと会って余計に」

  カグヤはグラタンを口に入れると、モグモグと口を動かし飲み込む。
  
「最初はヤケだったと思う。誘ってもしてくんねぇし。それでも、いろいろ教えてくれて、楽しいのも嘘じゃねぇ」
「……」
「こっちに来て、ルシカが楼依君と出逢って、お互い本心でそう言う関係になって、……すげぇ羨ましくて、悔しくて……。初めて弟を恨んじまって……」
「……」
「何度もアイツからの手ぇ振り払ったのに、……それでも、アイツが迎えに来てくれた時に、……嬉しかった。でも、モヤモヤが増えた」
「モヤモヤの原因は……?」
「分からねぇ……。けど、アイツが他の奴を抱くのに、俺は……」

  ふーんと、百瀬は呟いた。

「……そんなにいろいろ感情があるなら、答えは出て居るんだけどな……」
「……答え?」
「まぁ、二人の心の問題だから、俺からは言えないけど、自信持っても良いんじゃねぇか、って話だ」

  百瀬はカグヤの肩をポンポンと叩いた。
  カグヤはスプーンを咥えると、それでも俯いた。
  そう言われても、どうして良いか分からない。

「簡単じゃねぇけどな。アイツの周りは厄介な奴ばかりだ。でも、俺が知る限り、ここまで目を向けているのはビッチ君が初めてだ」

  百瀬は頬杖を付くと、少しだけ表情を緩めた。
    
  


  
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...