堕落した淫魔は夢を見る

雪之丞 親実

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淫魔と感情

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  ずっとしがみついて泣いていた。
  何度か、ごめんなさい等訳の分からない謝罪を繰り返した。
  洗うのも一苦労だ。
  黒いモヤモヤも何とか薄くなったが、若干まだ黒い。
  洗い終わってからもグズグズとしているが、身体を拭いて服を着させる。
  ベッドルームで休ませる訳には行かず、抱き上げると書斎の様な部屋に連れて行った。
  部屋を片付けて来る、と言うと手を掴んだまま離そうとはしない。
  軽く抱き寄せて頭を撫でると、少し落ち着いたのか手を離した。
  ベッドは即買い替えよう、等と思いながら部屋を出てリビングに行くとソファーに弾が座って居た。
  帰ろ、と言ったのにとあからさまにうんざりとした表情を浮かべ、キッチンの棚からゴミ袋と手袋を取り出すと、無言でベッドルームに行こうとした。

「翠ちゃん、泣いてたよー」

  にっと笑いながら弾はそう言った。
  知るか、と思った。

「俺も、神代が必死なのがびっくり。今まで一切顔に出さなかった男がねぇ……」

  だったら諦めろや、と言ったところで聞くヤツでは無い。
  カグヤの事も千皇の事も困らせたい奴だ。

「カグヤちゃんも神代に必死。おもしろ……」

  ククッと弾は笑う。
  
「そー言えばさ……。黒い羽やらシッポやらが生えたって黒槌の奴等が言ってたんだよねー……」

  ポツリとそう言った。

「……クスリの常習犯だろ、アイツら」

  ボソッと千皇が答えた。

「そうだろうけどさ。……フェラの後は萎えないし、カグヤちゃん抱いたうちの連中がかなりへばる当たりさ、やっぱり淫魔ちゃんなのかなー」
「ヤり過ぎて頭までイカれたか」
「……それなら、神代の顔奪ったって、繋がるんだよな」

  くだらねぇ、と千皇は呟いた。

「もし仮に、そんなファンタジーな生き物だったとして、……どうしてぇの?」
「そうだねぇ……。黒槌に送りこんで、自滅とか?キリトやヒカル君を考えるとさ、魂持って行くんだろうし。俺的にカグヤちゃんを抱けなくなるのは嫌だけどさ」
「馬鹿らしい。アイツが淫魔とやらなら、弟達もだろ?姫神はピンピンしてるぞ」

  そう言うと、千皇はベッドルームに行った。
  手袋を嵌めると散乱したゴミとなったものを袋に投げ入れ、汚れたシーツや枕も丸めて袋に詰め込んだ。 
  口を結んで、ベッドルームを出るとまだ弾はいる。

「淫魔ちゃんだから、神代は抱かないのかな?」
「……何の話だ」

  千皇はついでにキッチンのダストボックスも、片付け始めた。

「まぁ、横取りすんなよー、って言ったのは俺だけどさ。お前は関係ないだろ?そんな事」

  ダストボックスのゴミ袋を床に置くと、新しい袋をダストボックスの中に入れた。
  手袋を外してまだ閉じてないゴミ袋に入れると、冷蔵庫を開ける。

「あんだけ泣いて嫌がっててもさ、お前がキスした時に締め付けがエグいの。カグヤちゃんのチンコも勃ってたし。あ、もしかして身体洗うフリして、抱いちゃった?」
「抜いてはやった」

  泣いてずっと謝られていたんだ、抱く気も失せる。
  冷蔵庫から適当に食材を取り出す。

「ホントかなー?あんだけ可愛く泣きじゃくられたら、もっとぐちゃぐちゃに抱きたくなるじゃん」
「テメェと一緒にすんな」

  食材を切る包丁の音が響く。
  
「お前って、そんなにクリーンだったっけ?」
「テメェよりはマシだ、昔から」
「カグヤちゃん抱いてる時の神代の顔、久々にゾクゾクしちゃった。あれが俺の下だったら……、監禁したくなっちうね」

  慣れた手付きで食材を切ると、炒め始める。
  玉ねぎとバターのいい匂いがして来た。

「俺さ、神代に邪魔されて不完全燃焼なんだよなー」
「……」
「バニラでもいーからさ、……ヤらねぇ?」

  千皇は無言で手を動かした。

「抜き合いって考えりゃいーし?」
「……」

  溜息しか出ない。
  
「かーみーしーろ?」
「……もう帰れ。俺は疲れてんだ。テメェ程、暇してるわけじゃねぇ」
  
  一切弾を見ようとしない千皇は、ひたすら何かを作っている。
  
「でもほら、カグヤちゃん返してもらいたいし?」
「俺はテメェを含めて、ちょっかい出すなっつったんだけど」 
「先に見つけたのは俺でしょ。……まだまだ稼げるんだしさ」
「アイツはもう、商売道具にはならねぇぞ」
「嫌がったってさ、そー言うの好きな奴だって居るんだし。ヤってたら、元のセックス好きに戻るだろ?」
「そう思ってるのはテメェだけ」

  棚から深めの皿を取り出す。

「……もう、十分楽しんだだろ」
「神代が本気なら……、余計に手放したくねぇなぁ。お前を抱かしてくれるなら、1万歩譲って考えてやる」
「そればっかだな」
「本気なら出来るだろ?」

  深めの皿に、鍋の中の物を入れる。
  たっぷりのチーズを乗せて、オーブンに入れた。
  そして、弾に近づく。

「その気になってくれた?」

  弾は千皇を見上げるとニコッと笑った。
  眉間に皺を寄せ、弾の胸倉を掴むとソファーから引きづり降ろした。
  
「……人のモン奪おうとして、自分は無傷とか有り得ねぇだろ」
「散々巻き込んどいて良く言う」

  千皇は胸倉を掴んだまま弾を立ち上がらせると、引きづる様に歩き出した。
  玄関を開けると、廊下に弾を放り投げ出す。

「追いかけても、テメェにはやらん」

  弾の靴も放り投げると、千皇は玄関を閉めた。
  こんな事のあった現場なんか、さっさと引き払いたいが、結界があるとなるとまだ引っ越せない。
  とりあえず、管理会社に文句を言ってベッドは新しく買い替えよう、等と考えた。
  室内の廊下を歩き出すも、書斎の扉を見詰める。
  呻く様な泣き声がまだ聞こえた。
  千皇は扉を開けた。
  床に蹲って、カグヤは泣いている。

「……飯、もう少しで出来るから泣き止め」

  そう言って、千皇はカグヤの肩を掴んだ。

「もう、……ヤダよ、こんな身体……」

  グズグズと鼻を啜りながら、カグヤは呟いた。

「……嫌なのに、シたくねぇのに、……簡単に、身体が反応する。前みてぇに、出来ねぇよ……」
「んな事言っても仕方ねぇだろ。……そう仕込まれてんだ」
「お前が、誰かに突っ込んでるのも、イヤだっ」

  千皇はカグヤの上半身を引っ張り上げた。
  少なからず、感じてしまった事にカグヤは酷く後悔しているようだ。

「羽やら出さなかっただろ。我慢させていたのは分かった」
「だって……、出したら、困るだろぉ……」
「そうなったらなっただ。何とかするし。とりあえず、自分がどうしてぇか考えろ」

  千皇はそう言うと、立ち上がった。

「俺だって抱きたくて抱いた訳じゃねぇ」
「……でも、勃ったじゃん」
「興奮して勃った訳じゃねぇよ。俺だって早く終わらせてぇんだ。だから……、ヤる時にそー言う薬を飲んで居るんだ」

  さっき口にしていたのは、それだろう。
  昨夜、カグヤを抱いた時にはカグヤ自信混乱して居た為、訳が分からず抱かれたのだが。

「インポじゃねぇが、……昨夜もお前を抜きに徹して居た時も飲んでねぇから安心しろ」
「……」
「昨夜はアイツを抱く気はなかった。意識飛ぶまで弄り倒すだけだから必要なかったし。……安心しとけ」

  カグヤを抱いた時は薬は飲んで居なかった。
  それは少なからずとも、カグヤに興奮してくれていたと言う事だろうか。
  思い返すも、カグヤからは何もしてない。
  初めてあんなに優しくて激しい愛撫をされたのに、自分からは千皇に何もしていない。
  フェラチオどころか、触る事さえも。
  ノリだけのセックスではなかった。
  カグヤの黒い感情を消す為のセックスだった筈なのに、今までよりも気持ち良かった。
  愛だとか恋だとかはまだ掴めていない。
  カグヤの前だったからか、確かに翠を抱いた時の千皇には感情すら感じられなかった。
  だが、翠は今までのカグヤと同じだった気がする。
  無感情丸出しの相手でも気持ち良く感じていたからこそ、弾には拒絶した。
  自分だけが気持ちいいセックスと、お互いをを想うセックスが違うのだけは、分かってしまった。 
  気持ちいいに関しては、弾にしろ魔王達や客にしろカグヤとは同じだろうけど、何か違う。
  それを知ったからには、前の様な気持ちいいだけのセックスはもう出来ない。
  淫魔として、生きていく自信がない。
  もし、完全に千皇以外に抱かれなくなったら、ルシカやヨゾラにまで罰が下るかもしれない。
  それはある程度覚悟はあった。
  だからこそ自分は……。
  自分がどうしたいか考えろ、そう言われても考えはまとまらない。
  したい事があっても、叶わない事くらい分かっている。
  でも、少しだけで良い。
  夢を見たい。
  きっと、一度でも夢を見たら、引き返せない。
  弟達を幸せに出来るなら、自分の事なんて何時でも捨てるべきだ。
  最終的に家族を守るのは、長男である自分の役目だ。
  いざとなれば真っ先に犠牲にならなければならない。

(どうしてぇかなんて……)
「お前は、酷ぇ奴だ……」

  カグヤは俯くと、ポツリと呟いた。
  


  
  

  
  


  
  





  

    
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