堕落した淫魔は夢を見る

雪之丞 親実

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知識とハジメテと

06

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  真幸は悩んでいる。
  コンビニの前まで来たものの、あからさまな未成年にローションを売ってくれるのか、を。
  そして、買ったとしてヤるタイミングは何時か?下手過ぎて嫌われたらどないしょ?などとグルグル頭の中に巡っては、コンビニに入るのを躊躇った。
  
「何か困り事かしら?」

  いきなりオネェ口調の野太い声に話しかけられた。
  入口でウロウロしていた真幸は足を止め、声の方を向いた。

「あらいやだ、可愛い坊やね」

  目の前に現れた、筋肉隆々で真幸よりも10cm以上はある大男は頬に手を当てポッと赤くなった。
  真幸の背中がゾワッとした。

「な、なんやオッサンっ。俺は間に合ってんでっ!」

  腕を擦りながら、真幸は数歩下がってそう言った。

「もう、未成年に手は出さないわよぉ~。でも、困っている坊やには手を貸すわよ」

  笑いながら話すそのオカマちゃんは、真幸には恐怖だった。
  もう一歩下がる。

「何か買いたいけど買えないものでもあるの?……まさか、罰ゲームかなにかでタバコでも買いに来たのかしら?」
「……それやったらどんなにえぇか」

  思わず漏らした真幸の発言に、オカマちゃんは今度は両手に頬を当てた。

「まさか……、愛を育む為のラブグッズが欲しい、……とか?」 

  思わぬオカマちゃんからの質問に、真幸の顔は真っ赤になった。

「そそそ、そないなモンやないねんッ!!」
「あらあら、お相手は女の子?男の子?」
「違う言うとろーがっ!!」

  真っ赤な顔で全力否定する真幸に、オカマちゃんは口元に手を当て上品に笑った。

「ふふっ、あまりにも可愛いから、ついいじめちゃったわ」
「……タチの悪い大人や」
「ワタシはまだまだ勃つわよぉ~。凄いんだから」
「アホか、そー言うところやねん」

  真幸は溜息を吐いた。

「でも、これも何かの縁よ。お姉さんが手を貸してあげる」
「……えぇねん。後でなんかあったら嫌やし。見ず知らずのオカマなんて怖いで」
「もぉ、取って食べちゃおうなんて思ってないわ。困ってる可愛い子はほっとけないだけよ」

  オカマちゃんはちょっと心配げだ。
  真幸はチラッとオカマちゃんを見ると、肩を落としてスマホをポケットから取り出した。

「知り合いに助けて貰うから気にせんでえぇよ、ほんじゃ……」

  そう言いながらスマホに耳を当て、横のベンチに歩み寄った。

「おはようございます……、姫神兄さん」

  そう真幸がスマホに言った時だった。

「姫神?アナタ、姫神ちゃんの知り合いなのっ!?」

  オカマちゃんは驚いて声を上げた。

「誰っ!?楼依ちゃん!?瑠依ちゃん!?」

  鬼気迫る勢いで、オカマちゃんは真幸に向かって来た。
  真幸はビクッと身体を縮こませた。

「な、何やねんっ!?こっちゃ話し中やぞッ!!」

  慌てて、真幸は受話器の話口を指で抑えた。

『おい、どーした?』

 指で抑えては居るものの、スマホからは楼依の声が聞こえた。

「その声……、楼依ちゃんじゃないのぉっ!!」

  オカマちゃんは嬉しげに、声を上げた。

『……何でゴローがいんだよ』

  間を開けて聞こえた楼依の声は、何だかとっても低い。

「さっきから取り憑かれとんねん」
『まぁ、しつけぇだろうが悪い奴じゃない。神代先輩の兄貴のマブダチだ』

  そう言う楼依に、ゴローは真幸に向かってウィンクをした。
  真幸はゾワゾワと鳥肌が立ち、更に身体を縮こませた。

『末っ子の事だろ?ゴローが居るならゴローに聞いたら良い。その道のエキスパートだ』
「そない言うても、初対面に話せるかいっ!」
『まぁ、……ゴローに代われ』

  そう楼依に言われ、恐る恐るスマホをゴローなるオカマ向けた。

「……代われって」

  なるべく目を合わせない様に、真幸は言った。
  スマホを差し出す手が震えている。
  ゴローは小指を立て、軽くつまむようにスマホを真幸から受け取った。

「あらぁ~、久しぶりっ!ラブいちゃバッコンしてる?」

  スマホを耳に当てるや否や、直ぐにそうゴローが笑いながら言った。
  
「……、そうなの、ルシカちゃんの弟ちゃんの、ね……。……えぇ、分かったわ。安心してちょうだい。……もう、そんな事はしないわよぉ~。あ、チオちゃんにたまにはお店に顔出て、って言っといてぇ~?ワタシからの電話、出てくれないのよォ~……。それじゃ、また……」

  そう言うと、ゴローは楽しげに通話を切った。
  そして、スマホを真幸に返した。

「自己紹介がまだだったわね。ワタシは水嶋ゴロー、会員制SMクラブのオーナーしてるの。楼依ちゃんがアナタの話を聞いてやれって」 
「……何で知り合いやねん」
「友人のモモちゃんの弟ちゃんの後輩でしょ。モモちゃんと弟ちゃんは仲良しだから、知り合ったの」
「世の中狭すぎひんか……」

  ゴローはクスッと笑うと、真幸の横にちょこんと座った。
  ちょこんとが可愛くない。

「……ワタシは面白がって聞いたりはしないわよ?ルシカちゃんの弟ちゃん……、ヨゾラちゃんだったかしら?一度、助けた事があったのよ」
「せやから、狭すぎやわ……」
「だから安心して?」

  そう言うゴローは、真幸の横顔をマジマジと見つめた。

「……何やねん」
「アナタ、たまにストリートでギターしてない?」
「……ちょっと前に少しだけや」
「ワタシもちょっと見た事があったの。ミステリアスで可愛い子ね、と思ってて。そうそう!ヨゾラちゃんもストリートでギターやってる子を探しに来ていて、黒槌に喧嘩売ってたの。そこでワタシが間に入ってね」

  ヤバい奴らに喧嘩を売るな、とあれ程言ったのに、と真幸は心の奥で呟いた。

「アナタが、……そう」

  ゴローは微笑ましく、真幸を見つめた。
  
「ヨゾラちゃん、あの時いろいろあって、アナタに話を聞いて欲しかったみたい」

  まだ、真幸がヨゾラの家に世話になる前だろう。

「ヨゾラちゃんもルシカちゃんも知っているんだもの、アナタの力になれると思うわ」

  そう言っても、ヨゾラもルシカもお人好しだ。
  優しそうな奴にはホイホイ着いて行きそうだ。
  唯一の楼依を信じるべきだろうか。

「……相手、初めてやねん。実際、どないしてえぇかも分からん」
「ヨゾラちゃんは、アナタで良いって言ってるんでしょう?」
「……多分」
「何を怯えて居るの?失敗?」

  失敗したら、先が無くなる。
  ヨゾラは我慢するだろうけど、だからと言って無理はさせたくない。
  性行為が正解か分からないが、失敗程後々に傷になるのも分かっている。

「まぁ、やってみないと分からないわよねぇ。どっちがどっちか分からないけど、ネコちゃんの方は辛い思いをしてしまうもの」

  そうよな、と真幸は呟いた。

「性行為が全てではないのだけど……」
「そないな事、分かっとんねん。せやけど、やらないかん状況や」
「大袈裟ねぇ。まずは心を溶かして行かなくちゃ」

  それが出来たら一番良い。
  そんな時間がない。
  時間がないからこうしてローションを買いに来た。
  ヨゾラが起きる前にせめて準備はしておきたい。
  ついでに心の準備もしておきたい。

「大人やないから考えてまうんや」
「や~ねぇ、大人だって考えるわよ~」
「ほんまかい」
「でも、アナタは坊やなのに深く考えるのねぇ。こんなに想われてるなんて、ヨゾラちゃんに妬いちゃう」

  深く考えたくもなる。
  相手はファンタジーな人物だ。
  簡単に説明出来れば良いのだが、そうもいかない。

「若い子ってもっとガッツリしてると思ったわ」
「慎ましく生きとる若者も居るんや」

  ふぅっと一息着くと、真幸は膝に肘を着いて頬杖を着いた。

「……俺かて大事にしたいんや。二番目兄さんと姫神兄さん見とったら羨ましい思うし」
「楼依ちゃん、マトモに恋愛したの見た事なかったけど、一度愛したら大事にしそうよねぇ」
「二番目兄さんが一番やろが、兄弟丸ごと大事にするんや。俺の事やて、くだらん相談にも乗ってくれる。どっちか言うたら、神代兄さんより頼りになるし」
「そぉねぇ……、チオちゃんが人をマトモに愛する想像が付かないわねぇ」

  今はカグヤが側に居る。
  気があるのは分かるが、もし付き合うとしたらどうなるんだろう。
  楼依の様にデロデロで甘やかすとかの想像が出来ない。
  出来るのは、カグヤがペットになるくらいだ。

「神代兄さんは、昔からあんななん?」
「ワタシが知り合ったのは中学後半だったかしら。もう……、出来上がっていたわ」

  ゴローの眼差しは遠くを見ている。
  
「モモちゃんが言うには、生まれた瞬間からあんな感じだったみたいよ」
「……は?」
「あんまり泣かないし、笑わないし、大人しくてぽや~としてたらしいわ」

  何となく想像は出来てしまう。
  
「でも、今はミステリアスで良い男よねぇ」
「あないな大人にはなりとうないな」

  真幸はそう呟いた。
  千皇のやり方が好きな人への態度かも知れないが、俺様主義は相手を傷つけそうで嫌だ。
  信頼関係が生まれない気がする。

「アナタは慎重そうね。相手を知ろうとして苦労しそう」
「知らんよりはマシや、何もしてやれへんもん」
「若い子はもっとガッツリしてなんぼかと思ってたわ」
「ガッツリしたくともムードとかも考えてまう。ただ押し倒すんも、流す流されるは何か嫌やしな。俺かてこない悩む日が来るとは思うてなかったわ」

  ただでさえ、本当に自分で良いのかさえ分からないのに。
  当のヨゾラだって、真幸をどう思ってるか実際は分からない。
  真幸が居ないと生きられない、それはどの範囲までかも分からない。

「でも、若いんだもの。勢いも必要よ」
「失敗したないねん」
「……仕方ないわねぇ。ちょっと待ってて」

  ゴローはそう言うと立ち上がった。
  そして、コンビニの中へと入って行ってしまった。
   ローションを買いに来ただけなのに、何故ゆえこんなに時間がかかって居るのだろうか。
   確かに勢いで何とかなるかもしれない、とコンビニに来たのに。
  自分がヘタレな事に呆れた。

「お待たせ」

  そう言いながら、ゴローが戻って来た。
  真幸が顔を上げると、目の前に紙袋がぶら下がっている。

「お店に戻ればまだ良いモノがあるのだけど」

  はい、と真幸に押し付けた。 
  中身を見ると、ローションのボトルが入っていた。

「ゴムは持っているでしょう?サイズがあるから買ってないわ」 
「悩める幼気な少年にこないなもんを……」

  と、言いつつも真幸は財布を取り出した。

「ワタシからのプレゼントよ」
「借りは作りたないねん」
「坊やが遠慮する事はしないの。いいから素直に貰いなさい」

  そう言うとゴローはにっこり笑って、真幸の頭を撫でた。
  ゴツゴツした大きなオッサンの手だ。

「じゃぁワタシは帰るわ。あまり考え過ぎないでね」

  真幸から手を離すと、そのまま手を振って軽い足取りでその場を去って行った。
  真幸はローションの入った袋を見ながら、小さく溜息を吐いた。

  

  
  
  
  

  
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