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【十六】隣国
しおりを挟むお見合い自体に同席する事は無いので、私は迎賓館のあてがわれた部屋にいる素振り――をしつつ、近衛騎士団零部隊の制服に着替えて、ローブを身に纏った。最後にフードを深々と被れば、顔は完全に見えなくなる。黒づくめだ。そして他の近衛騎士達と合流した。各部隊長は、階級が上なので、階級章をつけている私に気づいた周囲は目礼してきた。お見合いがつつがなく終了し、話がまとまるまでの間は、人間もそれ以外の魔獣などの脅威も、兎に角排除しなければならない。今回は、学内とは異なり、セレフィ様の身辺警護というよりは、近衛騎士団の中の暗部であるという側面での仕事が多い。不審者が入り込まないよう、魔術で結界を構築したり、毒見が確認する前の段階で、飲食物に不審点が無いか魔術で確認をしたり……ちょっとした諜報活動を行ったりもする。零部隊は、正直色々な事をする。かゆい所に手が届かないなどがあれば、その部分も担う。
無論隣国に悟られないようにという前提であるし、慎重に注意しながらそれらは行う事になっている。今のところは、大丈夫そうだ。そんな事を考えていると、私の隣に立っていた、同じく零部隊から来ている部下が歩み寄ってきた。
「王城の南端の林に、魔獣の反応があります。サリマアベル王国の騎士団には、気づいた様子がありません」
「すぐに騎士団に報告を。こちらからも対処に向かう旨も併せてお伝え下さい」
私は淡々と答えて、現地へと向かう事にした。魔獣の魔力を探知魔術で探ったので、すぐに位置が把握できたので、気配を殺して移動を開始する。他国での討伐活動は最小限にとどめなければならないが、今回は、セレフィ様をお守りするという理由がきちんとあるから、公的に咎められる事は無いだろうという判断もしていた。
現地に向かうと、私の前世知識で言うと巨大なライオンの雌に似ている魔獣がいた。トラックくらいの大きさがある。ただ魔獣には知能は無い。生物のように見えるが、実際にはただの魔力の塊である。魔力が生き物の形を取って生じるのが魔獣だとされている。繁殖もしない。魔獣は倒すと光の粒子になって消失する。攻撃しても、血や体液が噴き出すような事は無い。代わりに、瘴気が溢れかえる事はあるのだが……。
私は魔術師なので、武器は杖が多い。普段は腕輪の形態にしてあるので、手首に触れる。すると腕輪が外れて、光を放ち、私の前で長い杖に変化した。それを握りながら、脳裏に魔法陣を思い浮かべる。魔術は、魔術媒体となる杖をはじめとした品、他には魔導書や魔導具などに触れながら、脳裏に魔法陣を思い浮かべる事で発動する。なお、私は近衛騎士団零部隊の制服も、普段はブレスレットの形にして、手首に身に着けている。だからいつでも衣装を着替える事が可能だ。全て、亡くなった父に教えられた事である。
クリソコーラ侯爵家の特技は、主に氷や水の魔術だ。私に限って言えば、完全に氷であり、クリソコーラ侯爵家に代々伝わる魔力を生まれながらに持っているので、自分では消火活動に適性があると思っている。放火は、この大陸においては、どの国でも大罪だと聞いている。
そんな事を考えながら、私はライオン型の魔獣を討伐した。
光の粒子となって魔獣が消える直前に、この国の騎士達や他の近衛騎士団の者が到着し、誰かが呟いた。
「すごい……」
うん。私も我ながら、結構頑張ったと思う。魔獣とは本来、一人で討伐する物ではないから、一生懸命頑張った! こうして、幸い怪我もなく、私は一つ、仕事をこなした。後は、セレフィ様の縁談が、上手くまとまりますようにと、心の中で祈っただけだ。清浄化魔術で体の汗を綺麗にしてから、私は他の者達と共に検分は隣国の騎士達に任せて、控室へと戻る事にした。
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