ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

文字の大きさ
31 / 42

【二十】魔獣の出現

しおりを挟む



 学部が違っても、私とセレフィ様の繋がりは、王族と裏の護衛という関係を除いてもひっそりと続いている。今も一緒に、学食で食事をしている。毎週木曜日に、一緒に食事がしたいと言われた結果だ。曜日指定があるからなのか、毒見も楽らしい。

「――そんなわけで、リュフェル殿下は非常にマメにお手紙を下さるの。楽しいのだけれど、段々お返事するネタが無くなってきて困ってしまって」

 実に嬉しそうにセレフィ様が語っている。上手くいっているのだなぁと考えながら、私はパスタを見た。このパスタは、ご婚約の内定と同時に、隣国からの輸入が増えて、最近このエイデルカイン王国でも流行している品だ。私はたらこパスタが好みだ。

「あと一年半したら、結婚するのかと思うと……不安もありますが……リュフェル殿下とならば、幸せになれる気がしていて」
「きっと……大丈夫です」

 私はそう告げてから、フォークを口へと運んだ。
 ――轟音がしたのは、その時の事だった。ハッとして、私は目を見開く。慌てて音の方向に探知魔術を放てば、膨大な魔力を感知した。これは、魔獣の放つものだ。慌てて立ち上がり、セレフィ様の隣に立つ。

「何の音でしょうか……?」

 まだ事態に気づいた様子もなく、セレフィ様は純粋に疑問だといった声を放った。視線を険しくした私は、騎士団の情報網に、異変を伝える緊急の連絡魔術を放った。だが、日程として、現在近衛騎士団の半数以上が、国王陛下の視察に同行している事は知っていたし、主に魔獣対応をする第二騎士団が、昨日から王都近郊に出現した魔獣討伐に出ている事も理解していた。現在、王都の警備は手薄である。そうでなくとも、王宮から王立学園までには、それなりに距離がある。

「お下がりください、私が必ずお守りいたします」

 私がそう断言した時、再度轟音が響いた。大地が揺れているような感覚だ。
 避難しなければと判断し、私はセレフィ様を促して、取り急ぎ食堂がある建物から外へと出た。すると校門側の結界が破られていて、巨大な腐竜の姿が三体見えた。魔獣の中でも危険な部類である。学園全体に結界魔術が張り巡らされているのだが、その内側に時空の割れ目が出現しているのが確認できた。ほぼ同時に、三体が進み始めた所で、その歪みは消失した。結界の内部に歪みを生じさせるには、内部での手引きが必要になる。例えば、媒体となる魔石などを設置する必要がある。だがそうした調査は後ででも可能であるし、今は人命を守る事が最優先だ。

「あれは……っ、リリア、逃げましょう」
「……」

 セレフィ様の言葉に、それは適切だと考えた。私の職務は、セレフィ様をお守りする事であるから、退避するセレフィ様の隣にいる事こそが、私の成すべきことである。だが、その時、私は発見してしまった。事態に気づいた大学の騎士科の学生や、高等部の生徒が前に出ている事に。教師や警備の騎士の姿もある。

 ――私は、自分で言うのもなんだが、彼らよりも強い。その上で繰り返し考えるが、魔獣の排除は、私の仕事では無い。

「セレフィ様!」

 その時声がしたので、視線を向けると、ユイレ様が歩み寄ってきた。
 普段おしとやかなユイレ様の険しい声音を、私は初めて耳にした。

「エドワード様が、お逃げ下さいと」
「!」

 セレフィ様が息を飲んでいる。それからセレフィ様は頷いた。私はそのやりとりを聞きながら、眼前にいるエドワード殿下と――グレイルの姿を確認した。ここ、エイデルカイン王国は、魔術大国である。貴族は例外なく魔力を保持しているのだが、その筆頭……尤も強力な魔力を代々受け継いでいるのは、王家だ。魔力は男女の別なく受け継がれるが、主に戦うのは男子だ。男尊女卑と呼ばれる事もあるが、戦うことを理由に、男子は一定の権利を保障されている。例え強い魔力を持っていようとも、クリソコーラ侯爵家の私のような事情が無ければ、女子は戦う事は少ない。だが、私には、そう言う意味で、戦う理由がある。魔力量はエドワード殿下に劣るにしろ、私は、王族の皆様をお守りする義務がある。

「セレフィローズ王女殿下」

 振り返り、私は膝をついた。するとセレフィ様が驚いた顔をした。

「私は、クリソコーラ侯爵家の人間です。これまで、セレフィローズ王女殿下の護衛の任にありました。そしてそれは、今も変わりません。全ては、セレフィローズ王女殿下のお心のままに、行動いたします。即ち――セレフィ様のご命令が無ければ、おそばを離れる事は叶いません。ですが、今この学園において、騎士団が到着するまでの間、魔獣被害に対処できる者を、私は、私以外に知りません。どうぞ、エドワード殿下達の加勢に参る事、お許しいただけませんか?」

 一気に私が述べると、セレフィ様がハッとした顔をした。

「リリア、それは……っ……」
「高等部においでのフォルド第二王子殿下や第三王子殿下も、必ずお守りいたします」

 一人でも王族が生き残っていれば、この国は安泰であるが、念には念を入れて、私はそう告げた。何よりフォルド殿下はセレフィ様の同母弟殿下であるし、第三王子殿下に関してはすでに、クリソコーラ侯爵家の魔力を感知しているから、マルスが横にいるのだと分かってはいるが。

「……許可します。ですが、フォルド第二王子とジェフ第三王子の護衛は不要。第一王女として、命じます。王太子であるエドワードの護衛をお願いいたします」
「御意」
「――そして、これは親友としてのお願いです。リリア、生きて戻るように」

 セレフィ様の言葉に、私は思わず瞬いた。それから、小さく頷いた。本当にお優しい方だと思う、私の親友は。私は、友達との約束を破りたくはない。

 そのまま腕輪に触れて、私は服装を変化させ、近衛騎士団零部隊の装束姿で、踵を返した。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...