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【二十】魔獣の出現
しおりを挟む学部が違っても、私とセレフィ様の繋がりは、王族と裏の護衛という関係を除いてもひっそりと続いている。今も一緒に、学食で食事をしている。毎週木曜日に、一緒に食事がしたいと言われた結果だ。曜日指定があるからなのか、毒見も楽らしい。
「――そんなわけで、リュフェル殿下は非常にマメにお手紙を下さるの。楽しいのだけれど、段々お返事するネタが無くなってきて困ってしまって」
実に嬉しそうにセレフィ様が語っている。上手くいっているのだなぁと考えながら、私はパスタを見た。このパスタは、ご婚約の内定と同時に、隣国からの輸入が増えて、最近このエイデルカイン王国でも流行している品だ。私はたらこパスタが好みだ。
「あと一年半したら、結婚するのかと思うと……不安もありますが……リュフェル殿下とならば、幸せになれる気がしていて」
「きっと……大丈夫です」
私はそう告げてから、フォークを口へと運んだ。
――轟音がしたのは、その時の事だった。ハッとして、私は目を見開く。慌てて音の方向に探知魔術を放てば、膨大な魔力を感知した。これは、魔獣の放つものだ。慌てて立ち上がり、セレフィ様の隣に立つ。
「何の音でしょうか……?」
まだ事態に気づいた様子もなく、セレフィ様は純粋に疑問だといった声を放った。視線を険しくした私は、騎士団の情報網に、異変を伝える緊急の連絡魔術を放った。だが、日程として、現在近衛騎士団の半数以上が、国王陛下の視察に同行している事は知っていたし、主に魔獣対応をする第二騎士団が、昨日から王都近郊に出現した魔獣討伐に出ている事も理解していた。現在、王都の警備は手薄である。そうでなくとも、王宮から王立学園までには、それなりに距離がある。
「お下がりください、私が必ずお守りいたします」
私がそう断言した時、再度轟音が響いた。大地が揺れているような感覚だ。
避難しなければと判断し、私はセレフィ様を促して、取り急ぎ食堂がある建物から外へと出た。すると校門側の結界が破られていて、巨大な腐竜の姿が三体見えた。魔獣の中でも危険な部類である。学園全体に結界魔術が張り巡らされているのだが、その内側に時空の割れ目が出現しているのが確認できた。ほぼ同時に、三体が進み始めた所で、その歪みは消失した。結界の内部に歪みを生じさせるには、内部での手引きが必要になる。例えば、媒体となる魔石などを設置する必要がある。だがそうした調査は後ででも可能であるし、今は人命を守る事が最優先だ。
「あれは……っ、リリア、逃げましょう」
「……」
セレフィ様の言葉に、それは適切だと考えた。私の職務は、セレフィ様をお守りする事であるから、退避するセレフィ様の隣にいる事こそが、私の成すべきことである。だが、その時、私は発見してしまった。事態に気づいた大学の騎士科の学生や、高等部の生徒が前に出ている事に。教師や警備の騎士の姿もある。
――私は、自分で言うのもなんだが、彼らよりも強い。その上で繰り返し考えるが、魔獣の排除は、私の仕事では無い。
「セレフィ様!」
その時声がしたので、視線を向けると、ユイレ様が歩み寄ってきた。
普段おしとやかなユイレ様の険しい声音を、私は初めて耳にした。
「エドワード様が、お逃げ下さいと」
「!」
セレフィ様が息を飲んでいる。それからセレフィ様は頷いた。私はそのやりとりを聞きながら、眼前にいるエドワード殿下と――グレイルの姿を確認した。ここ、エイデルカイン王国は、魔術大国である。貴族は例外なく魔力を保持しているのだが、その筆頭……尤も強力な魔力を代々受け継いでいるのは、王家だ。魔力は男女の別なく受け継がれるが、主に戦うのは男子だ。男尊女卑と呼ばれる事もあるが、戦うことを理由に、男子は一定の権利を保障されている。例え強い魔力を持っていようとも、クリソコーラ侯爵家の私のような事情が無ければ、女子は戦う事は少ない。だが、私には、そう言う意味で、戦う理由がある。魔力量はエドワード殿下に劣るにしろ、私は、王族の皆様をお守りする義務がある。
「セレフィローズ王女殿下」
振り返り、私は膝をついた。するとセレフィ様が驚いた顔をした。
「私は、クリソコーラ侯爵家の人間です。これまで、セレフィローズ王女殿下の護衛の任にありました。そしてそれは、今も変わりません。全ては、セレフィローズ王女殿下のお心のままに、行動いたします。即ち――セレフィ様のご命令が無ければ、おそばを離れる事は叶いません。ですが、今この学園において、騎士団が到着するまでの間、魔獣被害に対処できる者を、私は、私以外に知りません。どうぞ、エドワード殿下達の加勢に参る事、お許しいただけませんか?」
一気に私が述べると、セレフィ様がハッとした顔をした。
「リリア、それは……っ……」
「高等部においでのフォルド第二王子殿下や第三王子殿下も、必ずお守りいたします」
一人でも王族が生き残っていれば、この国は安泰であるが、念には念を入れて、私はそう告げた。何よりフォルド殿下はセレフィ様の同母弟殿下であるし、第三王子殿下に関してはすでに、クリソコーラ侯爵家の魔力を感知しているから、マルスが横にいるのだと分かってはいるが。
「……許可します。ですが、フォルド第二王子とジェフ第三王子の護衛は不要。第一王女として、命じます。王太子であるエドワードの護衛をお願いいたします」
「御意」
「――そして、これは親友としてのお願いです。リリア、生きて戻るように」
セレフィ様の言葉に、私は思わず瞬いた。それから、小さく頷いた。本当にお優しい方だと思う、私の親友は。私は、友達との約束を破りたくはない。
そのまま腕輪に触れて、私は服装を変化させ、近衛騎士団零部隊の装束姿で、踵を返した。
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