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ブラックベリーの霊能学
【五十二】火朽桔音の復讐③(SIDE:紬)
しおりを挟む翌日、僕は動揺を収めようと――卒論のテーマの選択に集中する事にして、大学へと向かった。僕と同じような考えの学生も多いようで、普段よりは人が少ないが、それなりの学生が歩いていた。部活やサークル活動で来ている学生もいるみたいだ。
無意識に僕は、いつも火朽くんが座っているベンチの方を見た。
今日も火朽くんの姿は見えない。
もっとも今日は、来る可能性すらあまりないから、気にしないで通り過ぎようとした。
「そうなんだ、火朽くん」
その時――声がした。
見れば、数人の同じ学科の女子達が、ベンチの……人が一人分空いている場所に向かって話しかけていた。そこは、火朽くんが座っている事が、特に多い場所だった。え?
驚いていると、すぐに女子達が僕を見た。
それから挨拶されたので返すと、彼女達は再び空きベンチを見て、その後また僕を見た。
沈黙が訪れる。僕の言葉を待っているのが分かる。
「え、えっと……? 玲瓏院くん?」
「何?」
「な、何って、紬くん……あの、火朽くんが今……」
するとまた、沈黙が降りた。火朽くんが、何だろう……?
「え!?」
「嘘、また?」
「何の心当たりもないの?」
その後、彼女達は小声でそんな事を囁きあっていた。
僕に聞こえないようにしているつもりらしかったが、僕はそちらを凝視していたから、しっかりと耳に入ってきた。
何が、「また」なのだろう? 心当たりとは、何なのだろう?
よく分からないままだったが、彼女達が引きつるような笑顔を浮かべてから立ち去ったので、僕は誰も座っていないベンチを少しの間眺めてから、図書館へと向かった。
嫌な動悸がする。
その後の日々も何度か大学へと足を運んだのだが、日増しに同じ学科の学生達が、僕を見ると、以前のように、心なしか硬い表情になり、離れていくようになった。
そして迎えた翌週の特別講義の時間――僕は、歩いていると、時岡に呼び止められた。
火朽くんが不在のベンチの前を通り過ぎて、少ししてからの事だった。
「な、なぁ、玲瓏院」
「何?」
「火朽と一体何があったんだ? 挨拶まで、スルーするとか……」
僕は短く息を飲んだ。僕には、火朽くんの姿が、道中で一度も見えなかったし、挨拶をされた記憶もない。
「この一週間でも、学科の奴らの間で、お前が無視してるって広まってるぞ?」
「……」
「喧嘩か……?」
困るような時岡の声に、僕は俯いた。
僕はその日――特別講義を欠席し、家へと帰った。自主休講だ。出席義務は無いのだし。
時岡に、なんて答えたのかは、思い出せない。
それから僕は、何度も何度も、大学へと足を運ぶたびに、火朽くんの姿を探した。
周囲の会話に耳を澄ませ、火朽くんがいるらしき所を何度も見た。
けれど、僕には火朽くんが見えない。
火朽くんがいそうな所で名前を呼んでみた事もあるが、何の反応も無かった。
トークアプリで数度連絡をしてみたが――『存在しません』という表示が出た。
嫌な胸騒ぎが広がっていく。
次第に周囲もよそよそしくなっていく。
火朽くんがいなければ、僕は人の輪には入れない。
だがそれ以上に、初めて出来た大切な友人の喪失に、息が詰まりそうになる。
「どうして……」
どうして見えなくなってしまったのだろう。
存在しませんというあのアプリの表示はなんだろう?
ブロックされているのだろうか?
僕は両手で顔を覆った。胸が痛い。ジクジクと痛む。
僕の世界からだけ、火朽くんが、消えてしまった。
――もうすぐ、一緒に行こうと約束した、夏祭りの日が近づいてくる。
このままもう、僕は二度と、火朽くんと会う事は出来ないのだろうか?
誰もそんな僕の疑問には、答えてくれない。
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