23 / 84
―― 第一章 ――
【二十三】《命令》を乞う
しおりを挟む月が照らし出す馬車で、僕達は帰路に就いた。隣に並んで座りながら、僕はチラリとクライヴ殿下の横顔を窺う。すると気づいた殿下が小首を傾げて、僕に優しい眼差しを向けた。紫色の瞳が、僕を捉えている。
「祝祭は盛大だっただろう? 来年もまた来よう」
「はい……あ、あの……」
そこで僕は、意を決して続けた。声が喉で閊えたようになったけれど、このままではいけないと、伝える事を決意する。
「ん?」
「……お願いがあるんです」
「ルイスの望みならばなんでも叶えたいというのが本心だ。どんなお願いだ?」
優しい表情のままで、クライヴ殿下が僕を見ている。僕は両手で膝の布地をぎゅっと握り、俯いた。声が震えてしまいそうになる。
「《笑え》と……」
「うん?」
「《笑え》と、《命令》して欲しいんです……」
「――何故?」
穏やかな声が返ってきたので、僕は一度息を詰めてから、強く目を閉じて続ける。誰かに何かを頼んだ事なんてほとんどないから、緊張と動悸が酷い。ドクンドクンと煩い胸の音に、僕はそれを自覚しただけで、体が震えそうになった。
「……《命令》されないと、僕は笑う事が出来ないから……それが、心苦しいんです。今日だって、僕は笑えなかった。楽しかったんです、本当に。なのに……笑い方を、忘れてしまっているんです」
僕が必死で告げると、クライヴ殿下が僕の肩を抱き寄せた。突然の事と軽い衝撃に、僕の体から幾ばくか、緊張感が抜けた。
「今日は、楽しかったんだろう?」
「は、はい」
「ならば、それでいいと俺は思う。俺は、ルイスの心からの笑みを見たい。だから、そのお願いは、叶えてやれない。悪いな。ただ、ルイス。覚えておいてほしい。無理に笑う必要は、ないんだ。その事を、忘れないでほしい」
「でも……」
目を開けて、僕は不安になりながら、クライヴ殿下を見る。するとより強く抱き寄せられた。長い指先が、僕の肩に触れていて、そこに力が込められる。
「なにも笑顔だけが、楽しさの表現ではないからな。俺には、今日のルイスが、きちんと楽しんでいるように見えた。俺としては、それで十分満足だよ」
「クライヴ殿下……」
その言葉に、僕の胸の中に穏やかな気持ちが、満ちてきた。幸せ過ぎて、涙腺が緩みそうになる。この夜僕は、クライヴ殿下が、本当に僕の事を、よく見てくれているのだと改めて感じた。だから殿下の肩に、自分の頭を隣から預けてみる。温もりが、愛おしい。
こうして馬車は、コーラル城へと帰還した。
230
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
死に戻りした僕を待っていたのは兄たちによる溺愛モードでした
液体猫(299)
BL
*諸々の事情により第四章の十魔編以降は一旦非公開にします。十魔編の内容を諸々と変更いたします。
【主人公(クリス)に冷たかった兄たち。だけど巻き戻した世界では、なぜかクリスを取り合う溺愛モードに豹変してしまいました】
アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、十三年前へと戻っていた。
前世でクリスに罪を着せた者への復讐は『ついで。』二度目の人生の目的はただ一つ。前の世界で愛し合った四男、シュナイディルと幸せに暮らすこと。
けれど予想外なことに、待っていたのは過保護すぎる兄たちからの重たい溺愛で……
やり直し皇子、クリスが愛を掴みとって生きていくコミカル&ハッピーエンド確定物語。
第三章より成長後の🔞展開があります。
※濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭、ちょっとだけ重い展開あり。
※若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります
ナナメ
BL
8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。
家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。
思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー
ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!
魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。
※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。
※表紙はAI作成です
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる