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―― 第三章 ――
【五十二】初雪
しおりを挟む王領であるこのセンベルトブルクに初雪が降ったのは、収穫祭が終わって二週間ほどが経過した時の事だった。秋の気配を一瞬で塗り替えた降雪は、すぐに溶けてしまったけれど、僕は窓から見える庭園を白に染めた雪を見て、感激していた。
執務室の暖炉からは、バチンと時折火にくべられた炭や薪が音を立てている。
気温はぐんと低くなり、寒さが増しているはずなのに、ここのところ穏やかに変わった僕の心の中は、とても暖かい。そう考えながら執務を終えた時、バーナードが僕を見た。
「ルイス様、クライヴ様より先ほど伝言を承りました。集中していらしたご様子なので、今お伝えしますが」
「クライヴから? なんて?」
「今日のお茶の時間帯を開けてほしいとのことです」
「……幸い仕事が終わっているからよかったけれど、もっと早く聞きたかったよ」
「ルイス様ならば、午前中には終わると信じておりました。実際に終わられたのでは? もうすぐ昼食ですが」
無表情の執事は、僕を買い過ぎではないかとたまに思う。ただ幸い終わっているので、僕は頷いた。誰かに信用されるというのは、とても嬉しい事だと、最近これも一つ僕は覚えた。
「どんな話かな? 朝は何も言っていなかったけど」
「さぁ、そこまでは伺っておりませんので」
「そう」
「昼食の準備はすでに整っております。少し早いですが、一度休憩なさっては?」
「そうだね。そうしようかな。茶会の準備をしておいた方がいいかな?」
僕は伴侶の義務として、そう尋ねた。するとバーナードは珍しく思案するような瞳に変わる。
「通常の来客であれば、私はそれをお勧めいたしますが、本日は不要と存じます」
「誰か来るの?」
「ええ。客室の準備も仰せつかっておりますので。ただ、これ以上は、私の口からはお伝えしないべきだと感じております。どうぞご容赦ください」
普段から余計なことは言わないバーナードだが、以前よりは口数が増えたと思う。それは僕も同じなのだろうけれど。だから、そんな彼がそう言うのならばと、僕は頷いた。
こうして昼食をとってから、僕は茶会時に備えた。
一度私室へと戻り、来客用の服に着替える。クライヴに恥をかかせないように、という考えから、僕は執務時には自分の楽な服を好むけれど、来客があると耳にした際には、過去に母に勧められたような、王都やルベールの都で流行しているという装束の袖に腕を通すことが多い。商人は定期的にこのコーラル城へと訪れる。
クライヴは、僕に服を贈る事が好きらしい。いつも『服を贈るのは、この手で脱がせたいからだ』と笑っていて、『着ている時には、常に俺を思い出すように』と《命令》される。仮に《命令》がなくても、僕の胸にはいつもクライヴがいるから、守っているのかいないのか、自分では判断が難しい。
「クライヴ様がお帰りです。お客様もお見えです」
バーナードが僕を呼びに来たのは、僕が丁度着替え終わった時だった。
姿見の前で踵を返し、僕は頷いた。微笑しながら。僕の表情筋は、もう働き方を忘れないらしい。
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