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――第一章:籠の中の鳥――
【二】
しおりを挟むそのまま座っていると、仕事を終えた案内人が、温室へと入ってきた。彼は、βだ。この世界で最も多い、第二性の持ち主である。
世界には、αとβとΩが存在するそうだ。王侯貴族たるαが最上位にいて、世界を牽引している。支配されているのが、βである民衆だ。減少傾向にあり、保護されているΩの立ち位置は少し特別だ。αの子供は、Ωしか産む事が出来ないためである。αの数が減らないのは、βからもαが産まれる場合があるからだ。αは、αとして産まれた段階で、上流階級に入る事が約束されているらしい。一方、時折βからΩが産まれる場合もある。しかしその数は非常に少ない。だから僕のように、βを両親に持つΩは、国に引き取られる事になる。正確には、売り飛ばされて、このように保護という名目の元、隔離・軟禁されるのだ。
「そろそろ、部屋に戻る時間だ。もう見学会は終わりだからな」
案内人の声に、僕は頷いてから立ち上がった。温室の奥には螺旋階段があり、それが二階にある僕の部屋に繋がっている。Ωには、一人一つ、三階建ての塔が与えられるそうだ。窓は何処にもない。だから僕は、もう太陽がどんな姿だったのかも、月の表情も、本当に覚えていないのだ。
先導されて階段を上り、僕は居室に入った。生活スペースであるこの二階には、リビングのほかには、浴室とトイレ、寝室が存在する。水回りは、王侯貴族だけが触れている科学技術により整備された下水道に繋がっているらしい。僕がリビングのソファに座ると、案内人が、温室側の階段に繋がる扉に、外から鍵をかけた。こうなると、この二階は、完全な密室となる。食事は、リビングの端のドアの下部についた小さな扉から、三食同じ時間に運ばれてくる。栄養管理もされていて、質素なものである事が多い。代わり映えのしないメニューばかりだ。
その時、鐘の音が十七回響いた。午後の五時だと分かる。食事の時間だ。見ていると小さな扉が開いて、蝶番の軋む音がした。トレーが差し出されると、すぐに閉まった。立ち上がり、食事を取りに行って、まじまじと見る。
「今日は、パンか。チーズを塗ると、結構美味しいんだよね」
呟きながら、僕はコーンクリームスープや、レタスとゆで卵のサラダも見た。傍らには、栄養剤である小瓶が置いてある。運動をする機会も無い僕が、筋肉を維持していられるのは、この飲み物のおかげらしい。
座ってから、僕はローブを羽織り直して、銀色の匙を手に取った。まずはスープを一口食べる。食後は、自分で小さな扉を開け、トレーを出しておくのだ。後は、入浴して眠るだけ。これが、僕の一日の流れだ。いつも、同じだ。
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