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――第一章:籠の中の鳥――
【四】
しおりを挟むきっと今日も同じなのだろうと思いながら、朝食をとりつつ、僕は天井の魔導灯を見上げた。現在魔導灯は、朝を示す白い光を放っている。本日の朝食は、蒸し鶏のサラダとパンだった。付け合わせは、イチゴジャムだ。
食後、身支度を調え終えた時、螺旋階段側の鍵が回り、扉が開いた。振り返れば、案内人が立っていた。僕の姿を頭から爪先まで視線を動かして確認した案内人は、それから小さく顎を動かした。
「行くぞ」
頷いて、僕はその後に従う。手すりに触れて螺旋階段を降りながら、本日も見学される事を疑っていなかった。いつもの通りに、ガラスの壁の前に座る。すると案内人が、珍しく口を開いた。
「失礼が無いように」
いつも僕は無言で座っているだけであるし、失礼など働きようがない。不思議に思っていると、案内人が出て行った。青い花が溢れる室内で、僕は俯き両膝の間に組んだ手を置く。そうして暫く座っていると、鐘の音が十回響いた。見学が始まる時間だ。
コンコンと音がしたのはその時で、視線を上げると、そこには昨日見た青年が立っていた。驚いて目を丸くした僕は、それから何度か瞬きをした。
「おはよう、キルト」
「ゼルス……?」
「名前を覚えていてくれたんだな。嬉しいよ」
過去には、一度訪れた見学者が、再度やってきた事は無い。
「どうしてここに?」
「君に会いに来たんだ。迷惑だったか?」
「ううん、そういうわけじゃ……」
答えながら、僕は他の見学者の姿を探した。だが本日、ガラスの向こうにいるのは、ゼルスだけだ。いつもならば解説をする案内人の姿も、どこにも見えない。
「キルトの話を沢山聞きたいんだ」
「僕の話?」
「ああ。そして俺の事も、色々知って欲しいんだ」
「例えば、何?」
「そうだな。キルトは、普段は何をして過ごしているんだ?」
僕は言葉に窮した。何もしていないに等しいからだ。Ωの隔離先の塔の内部は、案内人や塔の仕事に従事する人々しか知らないようだ。ゼルスも当然、知らないのだろう。
「……花を見たり、読書をしたり、その……」
上手く説明が出来ない。困ってしまい、僕は温室に咲き乱れる草花へと視線を彷徨わせた。それから改めてゼルスへと視線を戻すと、彼は優しい顔で僕を見ていた。
「花はキルトによく似合うな。本は、どんな内容が好きなんだ?」
「昨日は王都の本を読んだよ。水路があるんでしょう?」
漸く見つかった話題に、僕は内心で安堵していた。通常は、誰も僕に直接話しかけてくる事が無いから、上手く会話が思いつかなかったのだ。
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