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――第一章:籠の中の鳥――
【十】
しおりを挟む「俺は、自分がこんなにも独占欲が強いとは思っていなかった。正直自分に驚いているんだ」
ゼルスはそう言うと、ピタリと掌をガラスに当てた。そして髪を揺らしながら首を傾ける。じっと見据えられて、僕は不思議な気持ちになった。胸が何故なのか、ドキリとしたのだ。ゼルスのくすんだ緑色の瞳を見ていると、目が離せなくなる。
「あのね、ゼルス。僕は沢山、ゼルスと何を話そうか、考えたんだよ」
「俺の事を考えていてくれたのか?」
「うん。ずっと考えてたよ」
「嬉しいな」
僕が素直に告げると、ゼルスが唇の両端を持ち上げた。その表情があんまりにも綺麗に見えた時、僕の胸が再びドクンと啼いた。
「今日はどんな話をしようか?」
「ゼルスは何歳?」
「二十四歳だ。周囲は早く結婚しろと煩い」
「結婚?」
「ああ。俺の家では皆、早く婚姻し、沢山の子を設ける事が推奨されているんだ」
それを聞いたら僕の胸が、今度は少しだけ痛んだ。僕は欠陥品だから、子供が産めない。僕はどこかで、ゼルスに選ばれたら良いのにと、ゼルスが唯一だったら良いのにと、考えていたみたいだ。自分の気持ちに気がついて、僕は俯いた。そもそもゼルスには、好きな相手がいるというのだから、ゼルスが僕を購入するはずもない。
「どうした? 俺は何か悲しませるような事を言ったか?」
「あ……ううん。そんな事は無いよ」
ゼルスの困ったような声を聞いて、僕は慌てて顔を上げた。考えてみれば、こうして話していられるだけでも幸せでは無いか。この時間は僕にとって、紛れもなく大切だ。わざわざゼルスが僕の時間を買ってくれたと言うのだから、僕はそれに甘えて楽しんでも良いだろう。それくらいは、許されるだろう。
「ゼルスのお父さんとお母さんは、どんな人?」
僕は会話を捻り出した。両親がいた事を僕は覚えているから、きっとゼルスにも家族がいるはずだと考えたのだ。
「父は母を溺愛している。母上は、それが重すぎるとたまに苦笑する。ただ仲が良い。俺も将来結婚するならば、仲睦まじく暮らしたいと、ずっと考えていた。それは俺の兄弟姉妹も同じ考えだ」
「兄弟がいるの?」
「ああ。兄と姉が一人ずつ、弟が二人、妹が三人だ。七人兄弟の三番目が俺だ。大家族だよ。俺の両親は、十六で結婚してから、何人もの子供に恵まれたとして、みんなに祝福されている。今度、キルトにも会わせたいな」
その全員が、見学に来るという事だろうか? 見学者は大体五人ずつくらいだから、一気には難しいように思った。何せゼルスの両親を入れたら九人だ。二回に分けた方が良いだろう。そこで僕は思い出した。
「全員αなの? そうじゃないと見学出来ないよ」
「――母は、Ωだ。キルトと同じ、魔力持ちのΩだ。その母と同じ身分の者を、俺の父は心配しているから……少し行きすぎた保護をしがちだ」
「Ωの保護をしているの? 国策の隔離以外で」
「その仕事の関係者だと理解して欲しい」
国の政策は、王侯貴族の中でも、高位の人々が決定していると本で読んだ。ゼルスのお父さんは、きっとものすごく偉いのだろう。案内人も、ゼルスが特別な立場だと言っていたから、ゼルス自身が高位の貴族の家の生まれという事なのかもしれない。
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