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――第一章:籠の中の鳥――
【十五】
しおりを挟む「大変です、ベリアル様!! テロリストの急襲――ッ!!」
入ってきた青年が、大きな声で叫んだ直後、ダンという音がした。初めて聴く音は、ずっと耳の中で残響していた。その場で床に倒れた青年の体から、赤い血が広がっていく。
僕が呆然としていると、室内に新たな人物が入ってきた。その時、僕を庇うように案内人が前に出て、腕を伸ばして僕を後ろに下がらせた。もう一方の手には、僕が見た事の無い物を持っていて、それが次の瞬間、先程聴いた音によく似たダンという音を立てた。
「……この部屋は、完全防音だからな。外の喧噪に気づけなかった。迂闊だった」
案内人がそう言うと、新しく入ってきた人物が床に倒れた。
「手に持っているのは、何……?」
「魔導銃だ。後ろからテロリストが、同僚を撃ったのを見て、防衛のために使用した。私の銃には気絶させる能力しか無いが、先方は本気で殺しにきているようだな」
「テロリストって何?」
「魔力持ちのΩを国が不当監禁していると唱えながら、各地の塔を襲っている連中だ。よりにもよって、何故今日……」
低い声で述べた案内人は、ソファからテディ・ベアを手に取ると、僕に渡した。
「本当に大切なのは、それくらいだろう? それだけを持っていれば良い」
「うん……?」
「貴方を守る事もまた、私の職務だ。だが、守りきれるとは断言できない。もしもテロリスト達に連れ去られる事があったら、生き残る事を優先するように。キルト、死ぬな」
僕は案内人に、初めて名前を呼ばれた。それから、最初に聴いた声を思い出した。
「ベリアル……?」
「なんだ?」
「……助けてくれて有難う」
「私は仕事をしているだけだ。礼は不要だ」
そんなやりとりをしていると、複数の足音が聞こえてきた。直前で、ベリアルが扉に向かって施錠する。それから戻ってきた彼は、温室へ続く扉を開けてから、僕を寝室に促した。そして壁のクローゼットを見ると、険しい顔をして、その扉を開ける。
「入っていろ。隠れる場所が他には無い」
「温室に行くんじゃないの?」
「行ったように見せかける。後は私が対応するから、ここで大人しくしていろ。息を潜め、存在を気づかせるな」
僕はテディ・ベアを抱きしめながら、頷いた。先程、異変を知らせに来てくれた青年から、流れ出ていた血を思い出す。すると震えがこみ上げてきた。
「気をつけてね」
「ああ。私には問題は無い。自分の心配をしていろ」
クローゼットの扉が閉まる。その後寝室の扉の閉まる音も響いてきた。
じっと外の気配に耳を傾けていると、リビングの扉が蹴破られる音がし、大勢の足音が聞こえた。ダンという音――銃声が谺している。ギュッと目を閉じて、僕は震えていた。
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