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――第二章:花が咲く庭――
【二】
しおりを挟む「ゼルスはゼルスのお部屋で寝るの?」
「ん? ああ、そうしようと思っているけどな。どうして? ……怖いか? 慣れない場所は」
「うん。怖い……」
正直に答えると、そんな僕を見て、ゼルスが照れくさそうに笑った。
「俺のそばは、怖くないか?」
「うん。ゼルスがいてくれたら怖くないよ」
「――今は、そうだろうな。が、今後の夜を俺は保証できない。今だって理性が焼き切れそうになってるんだ。これでも自重しているんだぞ?」
「どういう事?」
「まずは、正式にプロポーズしてから……だな。ああ、耐えろ、俺」
「?」
ゼルスが何を言いたいのか、僕はよく分からなかった。その時、彼が両手で僕の頬へと触れた。そしてじっと覗き込まれる。
「俺はキルトを守りたい。心も、体もな。だから今夜、一緒に眠る事を許してもらえるか? 誓って何もしない」
「うん? 僕は……これまで誰かと一緒に眠った事は一度も無いけど、ここに一人でいるよりは、ゼルスがいてくれた方が安心できるよ」
実際、馬車の中でも隣にある体温が心地良すぎて、僕は睡魔に飲まれたのだ。
ゼルスと一緒にいると、漂ってくる爽快な香りも相まって、僕の体からは力が抜けるみたいだ。
僕は無意識に、ゼルスの腕の袖に触れた。その布を僕が掴むと、ゼルスが目を丸くして息を呑んだ。
「そばにいて?」
「キルトの願いは全て叶えたいから、困ってしまうな。ああ……俺もそばにいたいよ。では、今夜はここに泊まると近衛に話してくる。待っていてくれ」
ゼルスはそう言って僕の額に唇で触れると、一度部屋から出て行った。僕は寝台の上に上がって、テディ・ベアを見据える。この子も、無事で良かった。ずっと一緒にいてくれた。
「……持ってろって、ベリアルが言ったんだ」
もしも暗闇の中、クローゼットに一人だったならば、僕は恐怖で今以上に震えていたと思う。血や硝煙の気配を思い出す。ゼルスは、案内人も無事だと話していたし、また会えるようではあるから、今は無事を祈るしか無いだろう。
「キルト」
そこへゼルスが戻ってきた。そしてベッドサイドに座ると、横になっていた僕の髪を撫でた。僕はテディ・ベアから視線をゼルスに向け、小さく頷く。
「これからは、一緒にいられるんでしょう?」
「ああ、勿論だ」
ゼルスは頷くと、僕の隣で横になった。そして僕を片腕で抱き寄せる。腕枕される形になった僕は、おずおずと片手をゼルスの胸板に載せた。
「キルト。まだしっかりと言ってなかったように思う」
「何を?」
「愛している、と。直接触れてからは、一度もな。ガラスが俺には、遠い隔たりに思えていた。だがこれからは、存分に言える」
「……ゼルス」
その声を聞いたら、僕の胸の中に温かい何かが満ちあふれてきた。
「好きだよ、キルト。本当に愛しているんだ。人を好きになるというのは、こういう感覚なんだな」
「僕も……ゼルスが好きだよ」
「もっと言ってくれ」
「好き」
「足りないな」
ゼルスはクスクスと笑いながらそう言って、僕の頬に唇を落とした。僕はその感触が照れくさくなって、目を閉じる。大きな窓がある寝室だったから、目を開ければいつでも夜の表情を見て取る事が出来た。
僕にとっての新しい日々の開始は、このようにして訪れたのだった。直後、僕は睡魔に飲み込まれた。
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