鳥籠のΩは青銅色の夢を見る。

猫宮乾

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――第二章:花が咲く庭――

【三】

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 次に僕が目を覚ましたのは、瞼越しに白い光が顔に触れたのを実感した時の事だった。うっすらと目を開けると、白いレースのカーテンが引かれている窓から、陽光が差し込んできていた。

「おはよう、キルト。目が覚めたか?」
「……ゼルス」

 その声にまだぼんやりとしている視線を向ければ、ゼルスが優しい顔で笑っていた。僕の髪を撫でている。

「起こしてしまったか?」
「ううん。朝が来たんだね。魔導灯の白とは、全然違う」
「ああ。俺にとってはこちらの方が自然だから、いちいち意識した事は無かったが――朝だよ。これからは毎日来る」
「うん。ゼルスは起きていたの?」
「つい先程な。それで、腕の中にいるキルトを見ていた」

 僕を抱きしめるように腕枕をしていたゼルスが、不意に僕の頬に口づけた。その柔らかな感触に、僕の胸がツキンと疼いた。僕はゼルスにキスをされると嬉しいみたいだ。

「あちらの部屋に、既に朝食は運んできてある。先程侍従達が用意をしていく気配がした。一緒に食べよう」

 考えてみれば、僕は昨夜は食事をしていない。いつも規則正しく食べていたからなのか、実感してみれば非常に空腹だった。僕が頷くと、ゼルスが微笑し、上半身を起こした。僕もそれに合わせて起き上がる。

「着替えをしなきゃ」
「衣類は今日にでも商人を呼ぶから、新しく仕立てよう。今日の分は持参した品を着てくれ。それらも、いつもよく似合っていた」
「そう? 塔から渡されていたんだよ」
「管理者が選んでいたようだな。今後は俺にも選ばせてくれ。俺が贈った服を身につけて欲しい」

 ゼルスが苦笑を零した。小さく頷いて、僕は隣室へと行き、鞄に手をかける。中から真新しいシャツを取りだした。その場で着替えようとすると、ゼルスが慌てた顔をした。

「ま、待て。着替えは浴室脇の脱衣所で」
「どうして?」
「俺の理性を試すつもりか?」
「理性? 僕はいつもお部屋で着替えていたけど……?」
「いつもの部屋には、俺がいなかっただろう? 今後は無防備にしすぎてはダメだ」

 よく分からなかったが、僕はゼルスのお話はいつも勉強になると思っていたから、これもまた僕が知らない規則なのかもしれないと考えて、頷く事にした。僕が着替えに行く姿を、心なしか頬を染めて、ゼルスが見送っていた。

 着替え終わってから、僕は部屋へと戻った。すると侍従の人が二人、室内に入ってきていた。ゼルスはソファに座っていて、テーブルの上には、先程も料理が並んでいたのだが、それらから湯気が出ていた。冷めていたように見えたし、塔では基本的に冷たくなり始めた料理しか食べた事が無かったから、僕は温かそうなスープを見て、目を丸くした。

 大きなお皿があって、そこには見た事の無い果物が並んでいる。とても甘い匂いがする。

「これは、果物でしょう?」
「ああ。魔力量を高める魔法植物の果物だ。特にキルトのように強い魔力の持ち主は、多く摂取した方が、魔力が安定する。そうでなくとも、この桃色梨ももいろなしは美味しいぞ」
「このスープはポタージュでしょう?」
「ああ。ジャガイモのポタージュだ」
「温かいんだね」
「? スープは、冷製の品を除けば、大体温かいだろう?」

 僕の普通とゼルスの普通は、やっぱり大分違うようだ。この日僕は、人生で初めて、フワフワのパンを食べた。いつもの硬く質素なパンとは全然違った。何も塗らなくても、パン自体からバターの風味がした。
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