図書室ピエロの噂

猫宮乾

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【SeasonⅠ】―― 序章:図書室のマスク男の噂 ――

【002】図書室のマスク男②

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 放課後、ぼくが帰ると、りょうにいちゃんが、洗濯物にアイロンをかけていた。

「おかえり、えい

 顔を上げて笑った亮にいちゃんは、ぼくにとってじまんのお兄ちゃんだ。
 きさらぎ市立山都未来高校の二年生で、帰りが遅いお父さんに代わって、多くの家事をしてくれる。そのほかにアルバイトをしていて、時々ぼくや、兄弟で一番下の、弟のなずなに新作のゲームを買ってくれる。

 ぼくたちのお母さんは、五年前に死んじゃった。急性の白血病って言っていた。
 あっという間だった。

 ぼくは悲しさよりも、驚いてしまった。もうお母さんが、この世にいないなんて、思えなかった。三歳年下の薺はぼくとはぎゃくで、声をあげて泣いていた。薺の手をぎゅっと握りながら、ぼくはお葬式をはじめて体験した。

 薺は、生まれつき体が弱く、今も入院している。心臓の病気だ。ただ、原因は不明らしい。

「ただいま」
「今日は父さん、夜勤を代わったから帰れないって」

 亮にいちゃんはそう言うと、別のシャツにアイロンをかけはじめる。

「そうなんだ」

 ぼく達のお父さんは、看護師だ。今は〝しゅにん〟をしているって言ってた。
 しゅにんがなんだか、ぼくは知らない。

「晩ご飯はカレー?」

 いいにおいがするから、ぼくは聞いた。

「おう。カツを買ってきたから、カツカレーにしようと思ってる」
「カツ! やったぁ!」

 亮にいちゃんは料理上手だ。ぼくは、亮にいちゃんの料理が大好きだ。
 この日の夜は、二人でカレーを食べた。


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