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―― 本編 ――

【二十七】目(☆)

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 誰かと、このように口づけをしたのは、まだ周囲に同性愛者だと露見する前が最後だ。四年は前の話だった。だから決して経験が無いというわけではなかったが、緊張と怯えの方が強い。

「槙永くん、口、開けて?」

 青辻の言葉に、目を閉じたままで、逆にギュッと槙永は唇を引き結んだ。すると、青辻が槙永の下唇を舌でなぞりはじめる。そうされる内に、体がフワフワとしだした。

 思わず目と唇を薄っすらと開けると、真正面にあった青辻の顔がより近づいてきて、迷いなく深々と槙永の唇を奪った。逃げようとする槙永の舌を、青辻は追い詰める。

 歯列をなぞられ、濃厚なキスで舌をひきずりだされ、甘く噛まれた瞬間、槙永の背筋を甘い快楽が駆け抜けた。

「ん、ンふ」

 しかし青辻は腰を引こうとした槙永を許さず、Tシャツの下に手を差し入れて、胸の突起を探り出し、敏感な乳頭を刺激しながら、角度を変えてキスを続ける。

「っ……ッ、ン……は」

 漸く唇が離れた時、槙永はTシャツを開けられていた。そして直後、青辻に右胸の乳首を口に含まれた。

「ぁ……ァ……」

 少し強めに乳首を吸われ、体が震える。すると左胸の尖りに手で触れながら、青辻が窺うように槙永を見た。

「勃ってる」
「!」

 その言葉に、自身の陰茎の反応を認識して、槙永は蒼褪めそうになった。これでは、同性愛に嫌悪が無い事はおろか――体が青辻を欲しているのだと、露見してしまう。

「ち、違うんです、これは……違……」
「何がどう違うんだ? 教えてくれ」
「違うんです、だ、だから……止め、止めてくれ」
「――俺が怖いか?」
「青辻さんは怖くない、でも……みんなが怖い」

 快楽と恐怖の狭間で、思わず槙永は本音を口走った。すると、ピクリと青辻の動きが止まった。

「みんな?」
「変に……変に思われる……それが怖くて……だから……」

 気づけば槙永は涙ぐんでいた。普段のどこか凛々しくさえある、内心とは乖離した無表情のかんばせが、今は紅潮し、どこか怯えた草食獣のようにさえ見える有り様だ。怯えたように震えるその姿を一瞥した青辻が、手を放して優しく槙永の髪を撫でる。

「変な事なんか無い。が――この世界に、偏見がないとも俺は言わない。ただな、槙永くん。俺は、酷い事はしないよ。大丈夫だから」
「……」
「泣かないでくれ。そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。あー、俺はダメだな。気になる麗人と二人きりで、気を良くしていた」

 微苦笑した青辻は、そう述べると槙永を抱き起し、正面から両腕を回す。

「男だから嫌なわけじゃなさそうだな」
「……っ、その……」
「何があった? 聞かせてくれないか?」

 耳元で青辻に囁かれ、思わず槙永は目を閉じる。槙永の眦から零れた涙を、青辻が指先で拭う。その優しい温度に絆され、槙永は思わず過去を口にした。


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