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―― 本編 ――

【二十六】緊張

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 しかしテレビを見たままの青辻は、それには気づいた様子も無く、つらつらと続ける。

「去年まで付き合ってたのも男だ」
「……」
「槙永くんみたいな男前の美人は、俺にとってドストライクだから、本当に気をつけろよ。ま、無理強いは趣味じゃないが、隙だらけの姿を見ると、押し倒したくなるというのは本音だ。そのTシャツ、ちょっと大きすぎるんじゃないか? いつもきっちりした制服だし、この前の撮影の時だってそこそこ洒落たシャツだったのに、今見える鎖骨は目に毒だ」

 なんでもない事のように、青辻が述べた。唖然とした槙永は、それからゆっくりと二度、大きく瞬きをした。

「……本当に、バイなんですか?」
「おう。気持ち悪いか?」
「いえ……」
「そりゃあ良かった。槙永くんに嫌われたら悲しいからな」
「嫌ったりしません。そういうのは、個人の個性で自由で、その……」
「フォローして欲しいわけでもないぞ?」
「本当に違うんです。そうじゃなく……」

 己も同じであるからと言いかけて、槙永は口を噤んだ。青辻の言葉が、ただの冗談でない保証は無い。青辻が無駄な嘘をつくような人間には思えなかったが、自分の性癖を公言する事は、槙永にとっては恐怖だった。

 その為言葉を探していると、青辻がテレビの画面から槙永へと視線を向けた。そして短く息を呑んだ。

「顔、真っ赤だぞ。ひかれるかもしれないとは思ったが、意識されるとは思わなかった」
「べ、別に俺は――」
「意外と槙永くんは、無表情に見えて顔に出るんだな」

 指摘され、より一層槙永は赤面してしまった。上気した頬が熱い。自分自身でもそれが分かるほどで、思わず俯く。青辻がそっと槙永の肩に触れたのは、その時だった。

「そんなに緊張するな。傷つくだろ。別に取って食おうとしているわけじゃ――拒まれ方次第では、無いぞ。俺に触られるのは嫌か?」
「な、何を言って……」
「気持ち悪いか?」
「気持ち悪くないです。嫌じゃないです!」

 自分が仮に拒絶されたら、絶対に傷つくからと、そう思って大きな声で槙永は反論してしまった。すると青辻が喉で笑う。

「ふぅん。槙永くんは、男もイけるのか?」
「……っ」 
「その沈黙は肯定と取る。今、恋人は?」
「いません」
「それは事実みたいだな。田辺さんと澤木くんにもリサーチ済みだから根拠もある」
「はい?」
「キスしたい。俺にキスされるのは嫌か?」
「何を言って――……ッ」

 ソファの端まで逃げた槙永の後頭部に手をまわし、青辻が掠め取るように唇を奪った。驚いて反射的に槙永が目を閉じる。すると一度唇を離してから、青辻が再び啄むようにキスをした。槙永は唇に力を込めて、その感触に怯えていた。


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