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―― 本編 ――
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俺は貧乏だ。
というのは、仕事を干されたからで、最近はずっと日雇いをアプリで見つけて、なんとか食費とスマホ代と水道光熱費、そしてたまに遅れる家賃を払っている。かなり生活が苦しい。俺は、これでも一応専業作家である。小説を書いている。
「……」
だが、仕事が来ないのに小説家を名乗って良いのか? という葛藤もゼロではない。
しかし俺は生涯の仕事を作家だと思っているし、それが多分、アイデンティティなんだと思う。何をしてでもしがみつきたくて、仕事で疲れきって帰ってからも、ちょっとずつだが小説を書き進めて、最近は公募に出したりしている。営業もかけている。
「ん?」
すると――ある出版社の編集さんからメッセージが来ていた。仕事の依頼かと期待したが、曰く、
『実はとある作家さんが、住み込みの助手を探してるんだけど、どう? 日給二万円で、食住は保証されてるよ。取材の手伝いと原稿チェック、あとは家事をお願い出来る人を探してるんだけど、砂原くんだったら適任かと思って。前にハウスキーパーのバイトしてたでしょ?』
それを見て、俺は日給二万円に惹かれた。
家賃を払わなくていいことにも、食費を払わなくていいことにも惹かれた。
『やります。作家さんって、どなたですか?』
『砂原くんならそう言ってくれると思ったよ。ええとね、行永先生』
俺はきょとんとした。行永晴信は、俺と同じ頃にデビューした売れっ子作家だ。
『なんで昌波さん経由で?』
『なんかねぇ……難しいんだけど、行永先生のお子さんが、あまり外部業者とあわなかったり、過去にもこちらで紹介した助手がいたんだけど、行永先生と揉めちゃったりしてね。信頼できる男性を探してるんだよ』
『男性?』
『ほら、行永先生モテるから。女性関係のトラブルだね』
大変だなぁと俺は思った。
子供がいると言うことは、不倫だろうか? 俺はそういうのは好きじゃない。
だが、生活がかかっている。
そのまま俺は仕事を引き受けた。
「こんにちは、砂原先生」
いざ、行永の家へと行くと、にこやかに出迎えられた。俺は身長178cmなのだが、行永は見上げるくらい背が高かった。かつ俺は見切り品のお弁当ばかりの生活なので貧弱だが、とても筋肉質に見えた。もう一人、そっくりな顔の、大学生くらいの青年がいる。
「こちらは息子の青真」
「宜しくお願いします、砂原です」
俺がそう言うと、ぺこりと青真くんが頭を下げた。
「敬語じゃなくて構わないよ、砂原先生」
「行永先生こそ、俺のこと『先生』なんて呼ぶのやめてください」
「じゃあお互い気楽にいこうか、砂原くん」
「そうか? 宜しく、行永……さん」
「呼び捨てでもいいよ?」
「……はぁ」
俺は曖昧に笑った。それから家の中の一通りを案内され、最後に俺の自室をあてがわれた。既に俺はアパートを解約済みだったので、今後出て行けと言われたら、路頭に迷う。
「じゃあ家事とかよろしくね」
そう言うと、行永は仕事場だという部屋に消えた。
青真くんは欠伸をして二階にのぼっていった。
「……」
とりあえず、食事の用意や作り置きをするかと考える。俺は実家が料理店なので、多少は料理が出来る。それから色々と作っていると、二時間半ほどした時、行永が出てきた。
「ちょっと出てくるよ」
「おう、分かった。あ、え、あ、えっと、分かりました」
「だから敬語じゃなくていいよ」
「何時頃帰る? 飯の用意――」
「今夜は帰らないかも」
「はぁ。取材か?」
「違うよ、風俗」
「――へ?」
「妻が亡くなってから、色々と寂しくてね」
にやっと笑った行永は、そのまま出て行った。
「……」
事実なのだろうか?
それとも冗談か?
俺は、金も無いし、なんというかあんまり興味もなくて、風俗には行ったことがない。なお……彼女がいたこともない。生粋の童貞だ。もう三十四歳なのに。別に後悔とかはないが……過去に機会はなくはなかったが、俺は乗り気では無かったりしたり、色々とあった。たしか行永は三十代後半だったと思う。俺より少し年上だったと聞いたことがある。同じ出版社で出していたから、誰かの雑談で聞いた。
その後俺は料理を終えたので、青真くんに声をかけた。
「後で食べるんで。これからもずっと。呼ばなくていいです」
「あ、わかった……」
ぴしゃりとそう言われた。
俺は自分でも食べていいことになっていたので、一人で夕食をとり、残りは冷蔵庫に入れた。
というのは、仕事を干されたからで、最近はずっと日雇いをアプリで見つけて、なんとか食費とスマホ代と水道光熱費、そしてたまに遅れる家賃を払っている。かなり生活が苦しい。俺は、これでも一応専業作家である。小説を書いている。
「……」
だが、仕事が来ないのに小説家を名乗って良いのか? という葛藤もゼロではない。
しかし俺は生涯の仕事を作家だと思っているし、それが多分、アイデンティティなんだと思う。何をしてでもしがみつきたくて、仕事で疲れきって帰ってからも、ちょっとずつだが小説を書き進めて、最近は公募に出したりしている。営業もかけている。
「ん?」
すると――ある出版社の編集さんからメッセージが来ていた。仕事の依頼かと期待したが、曰く、
『実はとある作家さんが、住み込みの助手を探してるんだけど、どう? 日給二万円で、食住は保証されてるよ。取材の手伝いと原稿チェック、あとは家事をお願い出来る人を探してるんだけど、砂原くんだったら適任かと思って。前にハウスキーパーのバイトしてたでしょ?』
それを見て、俺は日給二万円に惹かれた。
家賃を払わなくていいことにも、食費を払わなくていいことにも惹かれた。
『やります。作家さんって、どなたですか?』
『砂原くんならそう言ってくれると思ったよ。ええとね、行永先生』
俺はきょとんとした。行永晴信は、俺と同じ頃にデビューした売れっ子作家だ。
『なんで昌波さん経由で?』
『なんかねぇ……難しいんだけど、行永先生のお子さんが、あまり外部業者とあわなかったり、過去にもこちらで紹介した助手がいたんだけど、行永先生と揉めちゃったりしてね。信頼できる男性を探してるんだよ』
『男性?』
『ほら、行永先生モテるから。女性関係のトラブルだね』
大変だなぁと俺は思った。
子供がいると言うことは、不倫だろうか? 俺はそういうのは好きじゃない。
だが、生活がかかっている。
そのまま俺は仕事を引き受けた。
「こんにちは、砂原先生」
いざ、行永の家へと行くと、にこやかに出迎えられた。俺は身長178cmなのだが、行永は見上げるくらい背が高かった。かつ俺は見切り品のお弁当ばかりの生活なので貧弱だが、とても筋肉質に見えた。もう一人、そっくりな顔の、大学生くらいの青年がいる。
「こちらは息子の青真」
「宜しくお願いします、砂原です」
俺がそう言うと、ぺこりと青真くんが頭を下げた。
「敬語じゃなくて構わないよ、砂原先生」
「行永先生こそ、俺のこと『先生』なんて呼ぶのやめてください」
「じゃあお互い気楽にいこうか、砂原くん」
「そうか? 宜しく、行永……さん」
「呼び捨てでもいいよ?」
「……はぁ」
俺は曖昧に笑った。それから家の中の一通りを案内され、最後に俺の自室をあてがわれた。既に俺はアパートを解約済みだったので、今後出て行けと言われたら、路頭に迷う。
「じゃあ家事とかよろしくね」
そう言うと、行永は仕事場だという部屋に消えた。
青真くんは欠伸をして二階にのぼっていった。
「……」
とりあえず、食事の用意や作り置きをするかと考える。俺は実家が料理店なので、多少は料理が出来る。それから色々と作っていると、二時間半ほどした時、行永が出てきた。
「ちょっと出てくるよ」
「おう、分かった。あ、え、あ、えっと、分かりました」
「だから敬語じゃなくていいよ」
「何時頃帰る? 飯の用意――」
「今夜は帰らないかも」
「はぁ。取材か?」
「違うよ、風俗」
「――へ?」
「妻が亡くなってから、色々と寂しくてね」
にやっと笑った行永は、そのまま出て行った。
「……」
事実なのだろうか?
それとも冗談か?
俺は、金も無いし、なんというかあんまり興味もなくて、風俗には行ったことがない。なお……彼女がいたこともない。生粋の童貞だ。もう三十四歳なのに。別に後悔とかはないが……過去に機会はなくはなかったが、俺は乗り気では無かったりしたり、色々とあった。たしか行永は三十代後半だったと思う。俺より少し年上だったと聞いたことがある。同じ出版社で出していたから、誰かの雑談で聞いた。
その後俺は料理を終えたので、青真くんに声をかけた。
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