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―― 本編 ――
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こうして日々が始まった。青真くんは出てこない。行永は仕事をしているか、出かけてばかりだ。あまり二人とは接点がないが、掃除をしたり洗濯をしたりと、やることはあるので、それらをこなしつつ――充分に執筆時間が取れるようになったので、俺は小説を書いている。
この日も没頭していると――……
「砂原くん、ってばぁ」
「!」
急に肩を叩かれて、俺はビクリとした。驚愕しながら振り返ると、そこにはあきれ顔の行永の姿があった。
「今日は家で夕食を取るから、用意してもらえる?」
「あ、ああ……分かった」
ブツンと集中力が途切れた俺は、上書き保存してからパソコンを消した。
そして部屋を出ると、行永がついてきた。
「小説、順調かい?」
「あ……ま、まぁな」
「今は何処の出版社の仕事受けてるの? 守秘義務を厳守するなら別に言わなくていいよ」
「……公募の原稿だよ」
俺が乾いた笑い声を出すと、行永が何度か頷いた。
「ふぅん。まだ干されたままなんだ」
「っ」
第三者に直接的に言われると、クるものがある。俺が唇を引き結びながら歩くと、行永が俺の隣に並んだ。
「有名だもんね。きみがあの大物作家笹猶静佳のお誘いを断ったっていう話」
「っ、え? な、なんで知って……どういうことだよ……?」
「ん? ああ、笹猶先生がきみを気に入って誘ったのに、きみが『自分を大事にしろ』って説教して『そういうのは恋人とだけやるべきだ』とご高説を――それで、笹猶先生が『どうせ私はビッチですよ』って激怒して、きみが出す出版社ではもう書かないって大声で言って回った話。他の先生がたは、笹猶先生と寝て、仕事紹介してもらってたのに。いやぁ、潔癖だねぇ」
行永がにやにやした。そんなことは全然知らなかった俺は驚愕してから青ざめた。
確かにその事件はあった。内容もそのままだ。
それが過去に俺が童貞を捨てる機会があったが気が乗らなかった件だ。だって、そうではないか。SEXは本来、恋人とするものだ。
「……」
だが、だとすると俺にはもう、仕事は来ないのだろうか?
いいや、俺に実力が無いから来ないだけかもしれない。
都合の良い言い訳に縋るべきではないだろう。
「今夜は、急だから作り置きと、冷凍しといた料理でいいか?」
「うん。いやぁ、助かるよ。僕も息子もアレルギーが多いから、市販品選びが大変でね」
こうして、この日は行永と一緒に俺は食べた。行永は、俺がスルーした内容については、それ以上語らなかった。
その三日後、行永の亡き奥さんの七回忌があった。
俺は出席するといったことはなかったので、朝、出かけていく行永と青真くんを見送ってからは、掃除をして過ごした。夕暮れ時に二人は帰ってきて、青真くんは部屋に行った。行永は俺がいたリビングでソファに座ると、はぁっと溜息をついた。
「なんだかな」
「行永?」
やはり、奥様を亡くしたというのは、悲愴がつきまとうのだろうか。いつもより表情が暗い行永を見て、俺は声をかけてみた。
「寂しいものだね」
「そうか……」
しかし俺には、語彙力がなかった。なんと声をかければいいのか分からない。
「こういうときは、人肌が欲しくなる」
「っ、なんというか……法事の日くらい、風俗とか女遊びは止めたらどうだ?」
「そうだね。そういう部類のところで発散する気にはなれない。でも無性に寂しいな」
「そっか……」
俺が俯くと、立ち上がった行永が、俺の隣に立った。窓を拭いていた俺が振り返ると、俺の隣のガラスに、トンっと行永が手をついた。
「鈍いね、砂原くんって」
「え?」
「誘ったんだけど、きみを」
「――へ?」
俺は何を言われているのか分からなくて、目を見開いた。
「ねぇ、砂原くん。癒やしてよ」
「……、……いや、俺男だし」
「それが? 男女だって後ろでする人、いるでしょ」
「え……そ、それは、そうかもしれないけど……俺が、お前を抱くのか?」
「冗談。僕がきみを抱きたいって話」
「!? 冗談だろ、それこそ。法事の日に不謹慎な」
「本気だよ。ねぇ、砂原くん、同情してくれないのかい?」
「いや、その……で、でも、だから、そういうのは心から愛する人と――」
「僕は寝る相手は、その時、その夜は、全力で愛するよ?」
「……」
俺は唇を震わせたが、何も言葉が出てこない。すると、顎を軽く持ち上げられ、少し屈んで顔を覗き込まれた。
「お願い」
「……」
「寂しいんだよ」
「……」
「――合理的に言って、僕は女性じゃないから、別に体を大切にする必要性はない」
「えっ」
「でも、きみのことはきちんと優しく抱くよ」
この日も没頭していると――……
「砂原くん、ってばぁ」
「!」
急に肩を叩かれて、俺はビクリとした。驚愕しながら振り返ると、そこにはあきれ顔の行永の姿があった。
「今日は家で夕食を取るから、用意してもらえる?」
「あ、ああ……分かった」
ブツンと集中力が途切れた俺は、上書き保存してからパソコンを消した。
そして部屋を出ると、行永がついてきた。
「小説、順調かい?」
「あ……ま、まぁな」
「今は何処の出版社の仕事受けてるの? 守秘義務を厳守するなら別に言わなくていいよ」
「……公募の原稿だよ」
俺が乾いた笑い声を出すと、行永が何度か頷いた。
「ふぅん。まだ干されたままなんだ」
「っ」
第三者に直接的に言われると、クるものがある。俺が唇を引き結びながら歩くと、行永が俺の隣に並んだ。
「有名だもんね。きみがあの大物作家笹猶静佳のお誘いを断ったっていう話」
「っ、え? な、なんで知って……どういうことだよ……?」
「ん? ああ、笹猶先生がきみを気に入って誘ったのに、きみが『自分を大事にしろ』って説教して『そういうのは恋人とだけやるべきだ』とご高説を――それで、笹猶先生が『どうせ私はビッチですよ』って激怒して、きみが出す出版社ではもう書かないって大声で言って回った話。他の先生がたは、笹猶先生と寝て、仕事紹介してもらってたのに。いやぁ、潔癖だねぇ」
行永がにやにやした。そんなことは全然知らなかった俺は驚愕してから青ざめた。
確かにその事件はあった。内容もそのままだ。
それが過去に俺が童貞を捨てる機会があったが気が乗らなかった件だ。だって、そうではないか。SEXは本来、恋人とするものだ。
「……」
だが、だとすると俺にはもう、仕事は来ないのだろうか?
いいや、俺に実力が無いから来ないだけかもしれない。
都合の良い言い訳に縋るべきではないだろう。
「今夜は、急だから作り置きと、冷凍しといた料理でいいか?」
「うん。いやぁ、助かるよ。僕も息子もアレルギーが多いから、市販品選びが大変でね」
こうして、この日は行永と一緒に俺は食べた。行永は、俺がスルーした内容については、それ以上語らなかった。
その三日後、行永の亡き奥さんの七回忌があった。
俺は出席するといったことはなかったので、朝、出かけていく行永と青真くんを見送ってからは、掃除をして過ごした。夕暮れ時に二人は帰ってきて、青真くんは部屋に行った。行永は俺がいたリビングでソファに座ると、はぁっと溜息をついた。
「なんだかな」
「行永?」
やはり、奥様を亡くしたというのは、悲愴がつきまとうのだろうか。いつもより表情が暗い行永を見て、俺は声をかけてみた。
「寂しいものだね」
「そうか……」
しかし俺には、語彙力がなかった。なんと声をかければいいのか分からない。
「こういうときは、人肌が欲しくなる」
「っ、なんというか……法事の日くらい、風俗とか女遊びは止めたらどうだ?」
「そうだね。そういう部類のところで発散する気にはなれない。でも無性に寂しいな」
「そっか……」
俺が俯くと、立ち上がった行永が、俺の隣に立った。窓を拭いていた俺が振り返ると、俺の隣のガラスに、トンっと行永が手をついた。
「鈍いね、砂原くんって」
「え?」
「誘ったんだけど、きみを」
「――へ?」
俺は何を言われているのか分からなくて、目を見開いた。
「ねぇ、砂原くん。癒やしてよ」
「……、……いや、俺男だし」
「それが? 男女だって後ろでする人、いるでしょ」
「え……そ、それは、そうかもしれないけど……俺が、お前を抱くのか?」
「冗談。僕がきみを抱きたいって話」
「!? 冗談だろ、それこそ。法事の日に不謹慎な」
「本気だよ。ねぇ、砂原くん、同情してくれないのかい?」
「いや、その……で、でも、だから、そういうのは心から愛する人と――」
「僕は寝る相手は、その時、その夜は、全力で愛するよ?」
「……」
俺は唇を震わせたが、何も言葉が出てこない。すると、顎を軽く持ち上げられ、少し屈んで顔を覗き込まれた。
「お願い」
「……」
「寂しいんだよ」
「……」
「――合理的に言って、僕は女性じゃないから、別に体を大切にする必要性はない」
「えっ」
「でも、きみのことはきちんと優しく抱くよ」
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