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―― 第一章 ――
【001】伴侶不在の輿入れはド緊張
しおりを挟むドクドクドクと、胸の音が煩い。白地に青い糸で刺繍が入った、俺には似つかわしくないにもほどがある豪奢な装束を身に纏っている俺は、現在緊張から体を強ばらせている。
というのも、今俺は、母国の隣にあるユースフェルド帝国の謁見の間にいる。平民の、俺が。唇を引き結び、余計なことを決して口にしないようにと近いながら、俺は戦々恐々としつつ、恐らく顔面が蒼白になっている。
「申し訳ございません、ライナ殿下。皇太子殿下が何処を探しても見当たらず……」
申し訳なさそうに、銀色の長い髪を一つに結った青年が、俺に頭を下げた。
俺は慌てて会釈をする。王子としてそれが正しいのかは分からないが。
俺は確かにライナという名前だ。だが、決して殿下ではない。
「どうぞ本日は、後宮のお部屋でお休み下さい」
先ほど俺に、宰相補佐官だと名乗った青年は、確かファルセと名乗っていた。
俺が母国であるダジェンダル王国から、嫁いできた時、最初に出迎えてくれた人物である。年齢は、俺と同じ年くらいだから二十代後半だろうか。俺は二十七歳だ。結婚するにしては、遅いだろう。ただ俺は、病弱な弟の世話をしていたから、恋をすることもなく、未婚で過ごしてきたのだが。
「参りましょう」
その時俺の隣にいた、俺専属の侍従になったのだというエルネが頭を下げてから、俺を促した。こちらの彼は、俺よりも年上の三十代半ば頃に見える。右も左も分からないままで、俺はその足で後宮へと連れていかれた。
書類を交わして伴侶となった皇太子殿下。
普通、顔合わせの席にやってこなかったら、落胆するか激昂するか、するのかもしれない。けれど俺の場合、安堵が勝った。なにせ俺は――偽りの側妃なのだから。
――どうして、こんなことになったのか。
それを話すと、長いようで実は短い。俺は後宮の部屋につき、あまりにもの広さと豪華さに唖然としつつ、促されるがままに一人がけの座り心地の良い椅子に座りながら、目の前に良い香りのする紅茶が置かれた時、自分の状況を改めて思い出した。
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