世界に二人は、自分に似た人がいるらしい。

猫宮乾

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―― 第一章 ――

【002】半年前の記念の花と、捜索と ―― バース性 ――

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 ことは、約半年前に遡る。

「お兄ちゃーん!」
「ヨシュー、今日は調子がいいのか?」
「うん! さっきお兄ちゃんが頭を撫でてから、ずっと気分が良いんだよ」

 弟のヨシューは、まだ八歳だ。俺が二十一歳の時に生まれた。産後の肥立ちが悪くて母は没してしまったし、父は誰なのか不明だが、俺の大切な異父弟だ。俺の実父は、病で亡くなった。生まれつき病弱なヨシューは、家の二階で寝て過ごすことが多い。そして今、俺達がいる一階は、母が遺してくれた花屋を営んでいる。オリビアという店だ。

「綺麗なお花」
「そうだな」

 俺は微笑を浮かべる。この花は、少し前まで萎れていたのだが、俺が世話をしていたら再び元気になった。何故なのか、俺が世話をすると、植物は元気になることが多い。たまに怪我をした仔猫がすぐに元気になったり、それこそヨシューも体調がよくなると話してくれるから、もしかしたら俺には少し魔力があるのかも知れない。俺の父は元々神官だったそうで、ちょっとした神聖魔術が使えたと、在りし日の母から聞いたことがある。

「そろそろ店じまいをしてくる。夕食はシチューだ。キノコがたっぷりだ」
「うん! お兄ちゃんのシチュー、大好き!」

 そんなやりとりをしてから、俺は店から出た。既に日が傾いている。今は冬の終わりだ。シャツ一枚と黒いエプロンでは少し肌寒かったが、俺は外に並べている花を中にしまっていく。その作業を繰り返していた時、じゃりっと砂を踏む足音が聞こえた。この村は、土が塗り固められて作られている。

「花屋か」
「は、はい。ただもう閉店です」

 声をかけられた方を見ると、ダークブロンドの髪に緑色の瞳をした青年が立っていた。俺と同じくらいの年齢だ。ただ俺より身長が高い。俺も鍛えている方だが、肩幅も相手の方が広かった。なにより、俺は鍛えても腰回りに筋肉が付きにくいのだが、青年は綺麗に筋肉が付いた体躯をしている。思わずそのように観察してしまったのは、とても端正な容姿をしていると思ったからだ。

「なんだか、騎士団がざわついているみたいだなぁ」
「え?」

 青年が後ろに振り返ったので、俺もそちらを見た。するとこの小さく辺鄙な街には似つかわしくない、上質な騎士団の服を纏った者達が、ぞくぞくと馬車から降りてくるところだった。

「誰かを探してるみてぇだな。心当たり、あるか?」
「さっぱりないな。一体、誰を?」
「それが知りたくて、騎士団の馬車を追いかけてきたんだよ。ふらっとこの国に遊びに来たら、何やら騒がしかったもんだからな」

 それを聞いて、異国から訪れたのかと、俺は小さく頷いた。そして手元の花を見て、俺はこの国にだけ咲いているルルラーナ花を一本手に取った。

「よかったら」
「ん?」
「この国に来た記念だ」

 俺が両頬を持ち上げると、目を瞠ってから、青年がにやっと笑った。

「ありがたく貰っておく。お前、名前は?」
「ライナだ。ライナ・ファレル」
「そうか。俺はジェフリー。宜しくな」

 ジェフリーはそれから花を一瞥し、嬉しそうな目をした。喜んでもらえるのは俺もまた嬉しい。

「騎士団の連中が来るな。さぁて、俺は宿に引き上げる。またな、ライナ」
「ああ」

 手を振ったジェフリーと別れて、俺は花屋の中へと戻った。
 そして店じまいを終えてから、キッチンへと向かう。そこには日中に作っておいたシチューがある。母もよく作ってくれた品だ。既にテーブルの前には、ヨシューが座っている。

「お腹空いたー!」
「今、用意をするから、待っていろ」

 こうして俺達はその後、長閑に食事をした。そして穏やかに夜は休む。俺は寝室に入ってすぐ、魔法薬の発情期ヒート抑制剤を見た。俺は、オメガだ。この世界には、男女の他に第二の性別があり、それがアルファとベータ、そしてオメガだ。俺のようなオメガには、発情期が訪れるので、月に一度は魔法薬の抑制剤を傾向で摂取することが多い。発情期は三ヶ月に一度訪れるのだが、抑制剤をきちんと飲んでいれば、アルファにうなじを直接触られでもしないかぎり、発情期は訪れないと言われている。

 オメガは、アルファの子供を男性でも産むことが出来る。そのためなのか、アルファとオメガには運命の番いという関係性があって、特別な絆があるという伝承が、この大陸の宗教であるエンドノワール聖教には伝わっている。エンドノワール聖教は、このエンドノワール大陸を創ったとされる、創造神アルマシェルを称えて創られたとされ、お伽噺として小さい頃に聞いたことがある。

 俺は魔法薬をぐいっと飲み込んでから、ゆっくりと眠った。


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