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【11】(★)

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 朝食後、今日はリュートが街を見に行くと言って出かけて行った。
 手錠の端っこを、本日はミスカが手首に付けている。時刻は午前十時だ。
 二人でダイニングテーブルで向かい合い、静かに珈琲を飲んでいる。

 俺は、ミスカの銀色の髪と、黒い瞳の周囲で輝く銀の輪を見た。日蝕みたいで綺麗だ。切れ長の瞳をカップの中に向けて褐色の液体を見ているミスカは、特に何も言わない。

 ――実を言うと、俺とミスカは、ヤっている時を除いては、あまり話をしたことがないのだ。話す場合も、その多くはリュートを交えてである。気まずいとまでは思わないが、まだあまり俺は、上手くミスカの事が分からないでいた。

 しばらく二人で無言のままお茶を飲んでいると、ミスカが不意に頬杖をついた。

「リュートの兄と付き合っていたのか?」

 単刀直入の声だった。短く息を飲み、俺は両手でカップを支えて下ろす。

「あ、ああ……その、昔……」

 口ごもった俺は、なんとか話を変えたいと思った。必死で話題を探す。アイツのことを思い出したくなかった。

「ミスカには、兄弟っているのか?」
「――血の繋がりの無い弟がいる。戸籍上も無関係だから、弟というのは正確ではないだろうが」
「そうなのか。立ち入った事を聞いて悪い。ええと……ミスカってそういえば、何歳だ?」
「別に構わない。俺か? 俺は、二十七歳だ。リュートの二つ上。バジルは二十一だったか?」
「ああ」

 俺は話したのだっただろうかと、動揺する頭で考えたが思い出せなかった。とにかく話を変えたい。そう思ったのだが、頬杖をついたままでミスカが内容を戻した。

「現実でも会っていたんだろう? どこで最初に会った?」
「――新宿だよ。お金を貯めて会いに行った」
「貧乏だったのか? その割には課金額が……」
「あ、いやその……」

 課金に注ぐ保険金は、俺には大量にあった。だが、そうではなくて、俺は当時”カノジョ”に、自分で稼いだ金で会いに行きたかったのだ。そのため、初めてバイトをしたのである。それに引きこもり廃人という印象を払拭したかったから、バイトをしているというのは都合も良かった。ちっぽけな見栄である。ごくごく短期だが、俺は会いにいく前の夏、小さなカフェのホールでバイトをした。修学旅行が一緒だったクラスメイトの実家だ。

「……自分の力で、養ってみたいと思ったんだ。相手の交通費も出してさ。馬鹿みたいだよな」
「別に」

 短く答えて首を振ったミスカが、少し頬杖の位置を崩した。すると腕輪が手首に見えた。手錠とは逆側の手首に、少し太めの赤茶色い腕輪が見える。そこには白い九重角の一つ目鶏が描かれていた。鶏のトサカが九つで、目がひとつ、そんな感じの白いデフォルメの模様があったのだ。俺は、どこかでそのマークを見た事があるように思ったのだが、どこで見たのかは思い出せない。聞いてみようかと改めてミスカを見た時――不意に既視感に襲われた。なんだろう。誰かにとても良く似ている気がした。だがその相手も思い出せない。

「今も好きなのか?」
「いや……」
「それなら良い」

 俺はミスカの声で我に返った。何が、だろう? 何が良いのだろう?

「恋敵は一人で十分だ」

 本当に何の話か分からず、首を傾げる。

「バジル、俺はお前の――」

 ミスカが何かを言いかけた。扉が勢いよく開いたのは、その時のことである。扉を激しく手で叩きつけて開いたようで、バーンと音がした。驚いてみれば、そこにはリュートが立っていた。

「おいおいおいミスカ。抜け駆けは許さない」
「――やっぱり聞き耳を立てていたんだな。気配がしたから遊んでみた。ほう。抜け駆け、か」

 リュートを見ると、ミスカが清々しい笑顔を浮かべた。立ち上がり、ミスカが俺の隣に立つ。そして手錠の鎖を引いた。椅子から転げ落ちそうになった俺を、ミスカが抱きとめる。それから、俺の唇に触れるだけのキスをした。

 するとリュートが足早に中へと入ってきた。

「よこせ」

 俺をミスカから奪うようにし、続いて今度はリュートが俺の唇に触れた。

「ん」

 リュートのキスは深い。顎を持ち上げられて、俺は口を貪られる。
 ミスカが床の上に静かに座り、俺を抱き抱えた。その俺の顎を相変わらず掴んだままでリュートが深々と口付けを落とす。そうしてしばらく、ミスカの腕の中で、リュートにキスをされた。


 そのまま――寝台へと移動した。


 なんだか、いつもよりも感覚がリアルに感じる。より、現実に近づいた感じがするのだ。快楽の感じ方などは変わらないが、触られる感触が生々しい。服を剥かれた俺は、ミスカの膝に頭をのせている。その状態で、ミスカが俺の両方の胸を捏ねくり回す。人差し指と親指で時折つまんでは乳頭を擦る。指がもたらす刺激の細部が、いつもよりも繊細に感じるのだ。

 一方のリュートは、俺の太ももを折って持ち上げ、ずっと菊門に舌を這わせている。襞の一本一本をなぞるようにし、時折中央の窄まりを舌先で刺激してほぐすようにする。

「ぁ、ぁあっ、あ……」

 とっくに反応している俺の先端からは、たらたらと透明な蜜が溢れている。
 何故なのか、二人共、いつもより丁寧だ。それが俺には、焦れったい。
 燻る熱に前を張り詰めさせていたその時、キュッとミスカが胸の突起を強めに摘んだ。

「ひっ」

 それだけで、俺が果てるには十分だった。快楽の感受に慣れきっている体が白い液を吐き出した。するとリュートがそれを掬って指に絡め、俺の中へと二本差し込んできた。一気に二本だが、VRの体だからすんなりと入る。ミスカがその時俺の口へと指を突っ込んできた。そして舌を指で蹂躙する。俺は口の中だけでも感じる体にされてしまっているから、口と中への同時の刺激に体を震わせた。しばらく舌を弄んだ後、ミスカもまた、俺の体を少し引き寄せてから、俺の中へと指を進めた。今度は、ミスカに抱き抱えられ、正面からリュートに右の太ももを持ち上げられる形で、俺は指を受け入れることになった。ふたりの、それぞれの合計四本の指が、俺の中でバラバラに蠢き出す。

「あ、ああ、あ!」

 その状態で、リュートが俺の陰茎を口に含んだ。指も、俺の最も感じる場所を強く突き上げてくる。強い快楽がいきなり襲いかかってきたから、俺はギュッと目を閉じる。生理的に浮かんだ俺の涙をミスカが舐めとった。ミスカの硬いものが、俺の背中に当たっている。わざと当てているらしく、それを俺に擦りつけているらしい。その時、リュートが俺の太ももを下ろして、口を離した。するとイきたくて震えながら思わず俺は足を閉じる。すると俺の足の間にミスカが陰茎をあてがった。股でミスカのものを挟む形になった時、二人が俺から指を引き抜いた。ミスカが腰を動かすたびに、俺の陰茎と彼のものが擦れる。そのままで俺は達した。ミスカは体を離すと、俺の背中にタラタラと精をかける。

 薄く笑ってから、リュートが俺の中へと入ってきた。

「あっ、激しっ!! ああああ」

 そしてそれまでの丁寧さとは一変して、ガンガン突き上げ始めた。逃れようと俺が腕を動かすと、背後からしっかりとミスカが手でつかんで阻止してくる。

「あっ、ああ! あああっ、ン――!! ひっ、うあ、ああっ」

 俺は前立腺を強く刺激され、三度目の精をすぐに放った。
 リュートは陰茎を引き抜くと、俺の腹に放つ。
 全身を、俺はドロドロに染められた。自分と二人の精液が、肌をタラタラと流れる。
 いつもだったらこの程度では疲れないのだが――俺は、その時、泥のような睡魔に襲われた。ぐったりと体をミスカにあずけ、正面からはリュートの体重を感じながら、そのまま俺は意識を落とした。

 ――睡眠欲や疲労度も、現実と同じになっているらしかった。だが、射精できる回数はVR仕様らしい。おぼろげにそんな事を考えたのが最後だった。
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