昔MMOで最強だった俺、性的に最弱となる。

猫宮乾

文字の大きさ
16 / 19

【16】

しおりを挟む

 ギルドメンバー候補が見つかったという知らせが届いたのは、そうした日々が一ヶ月ほど過ぎてからの事だった。これから来るという話で、先に戻ったミスカに促されて、俺はお風呂に入った。手首から手錠が外れたのは、久方ぶりのことだった。ずっと俺は、抱かれっぱなしだったのである。

 お風呂から上がって少ししてから、リュートが新しいギルメン候補を連れてギルドホームに戻ってきた。

「はじめまして――あれ? 夜凪?」

 俺はその声に、硬直した。夜凪ヤナギというのは、俺の苗字だ。
 見ればそこには、嘗てのクラスメイトが立っていた。俺のバイト先だったカフェのオーナーの息子の、常磐トキワである。修学旅行でも同じ部屋だった。

「常磐……」
「わ、わ、嘘!? お前、大丈夫だったのか!? 心配してたんだぞ!?」

 その言葉に、俺は曖昧に頷くしかない。
 そして――この世界では、一度も浮かべたことのない、作り笑いを浮かべた。高校時代までは常に貼り付けていたものと同じである。口角を少し持ち上げて、目を細めて微笑むのだ。

「有難うな」

 俺の声に、常磐が息を飲んだ。何故なのかリュートとミスカも息を飲んでいる。

「い、いや、だってほら、友達だろ? あ、今の名前は? 俺はキャラクターもトキワなんだ。今ってほら、キャラ名で呼び合う風潮だろ?」

 曖昧に笑うしかできなかったが、俺は小さく頷いた。

「バジルだよ」
「へぇー……ん? お前、MMOから移行したの?」
「うん、まぁ」
「うわぁ! じゃあ最強のプレイヤー、復活だな!」

 トキワはそう言うと満面の笑みを浮かべた。MMO時代には、一緒に遊んだこともあるのだ。トキワも昔からサンセット・グリードで遊んでいたのである。ただ、剣道部の主将をしていたから、あまりインする時間は取れなかったようだが。トキワは元々、ゲームをやるよりもリアルの交友関係を重視するタイプで、クラスでも中心にいた事をよく覚えている。人好きのする性格をしているのだ。明るい。

「知り合いだったのか?」

 リュートに聞かれたので、俺は微笑したまま頷いた。リュートやミスカの前で作り笑いをしているというのが、なんとなく自分の中では不協和音をもたらしている。思えば、俺は二人の前だと、自然体でいられたらしい。

「高校の同級生だったんだ」
「そうなんです。けど、夜凪――あ、バジル! そう、バジルのお母さんが刺殺されてから、バジル学校に来なくなっちゃったからなぁ……変な宗教にハマった父親の本妻が刺殺したとかって、すごいニュースで! みんな心配してたんだからな!」

 心がひやりとした。トキワに悪気が無いのは、分かる。そして事実だから、怒ることも違うだろうが――俺は、この話を、アイツにさえ、レイトにさえしたことがなかったのだ。だからリュートもミスカも知らなかったはずで……率直に言って、反応が怖かった。必死で笑顔を浮かべたまま、俺はリュートとミスカの様子を伺った。

「お喋りだな。長生きしそうにない」

 ミスカがその時、音もなく大剣をトキワの首筋につきつけた。

「俺は今、リアルには興味がない」

 続けてそう言ったミスカは、ぐっと切っ先をトキワの首に押し付ける。

「黙ることを覚えろ」
「は、はい……!」

 真っ青な顔になってトキワが小さく頷いた。その前で、リュートが俺を抱き寄せた。

「気にすんな。大変だったみたいだけどな――今は、忘れろ。俺も聞かない」

 その温もりが、俺には嬉しかった。気づくと作り笑いが、崩れていた。瞬きをすると、瞳が潤んでいることが分かる。

「――仕切り直しだ。余計な話は、非常事態につきしないように。それで? お前は、このギルドに入るのか? リュート、なんて誘ったんだ?」
「おう、剣道部の元主将だそうで、ローレライよりは少なくとも腕が立ちそうだったから連れてきた。レベルは135。この現状じゃ高い」
「なるほどな。別に俺は構わない。バジルは?」
「え、お、俺もいいと思うけど……トキワ、強かったしな」
「ありがとうバジル! それにミスカさんも!」

 すると立ち直ったようで、パァっとトキワの顔が明るくなった。俺はそれを、リュートの腕の中で見ていた。トキワはそんな俺を見たあと、リュートに視線を向けた。

「えっと、おふたりは付き合ってるんですか?」
「まだ付き合ってない」

 その言葉に、俺は思わずリュートの足を踏んだ。『まだ』とは何だ。語弊があるだろう……。


 こうして、新しいギルドメンバーが一人増えたのである。

 俺に来客があったのは、その日の午後だった。コンコンとノックの音がした後、鍵をかけていたはずの扉のノブが、するっと回ったのである。全員が硬直した。見守っている前で、軋んだ音を立ててから扉が開き――入ってきたのは、一人の盗賊(職業)だった。

「あ!! バジル! やっぱりバジルだ!  ローレライが叫んだ日に見かけたという情報を聞いて、あちこち探したんだよ!」

 その声に、俺は息を飲んだ。

「――ユフテス?」
「さすが。一発で分かってくれるなんて」

 俺の声に深々と被っていたローブのフードを取ったのは、ユフテスという名の、嘗てのフレンドだった。俺に駆け寄ってきたユフテスを見ると、リュートとミスカが息を飲んだのが分かる。トキワは首を傾げていた。

「元気だった? いや、いいや。今が元気ならそれで」

 ユフテスはそう言うと、青い瞳を細めて笑った。頭部には同色の長いキツネ耳がついている。尻尾もある。どちらも課金アバターだ。MMO時代と同じである。

 俺とユフテスは、メインシナリオが更新されるたびに、一緒に攻略していた仲である。地下迷宮を踏破した時のパーティにも、彼がいた。

「単刀直入に言うんだけど、僕達と一緒に地下迷宮の攻略に行って欲しいんだ。どうしてもバジルに来て欲しい。僕達っていうのは、ローレライが集めた中の一部と、僕のギルメン。みんな、信用できる人ばっかりだから――リュートとミスカの事も誘いに来たんだけど、そちらは?」
「ああ、トキワは今日ギルドに入ったんだ」
「へぇ。腕が立つならご一緒に」
「待ってくれ、俺の一存では決められない」

 俺はそう伝えて、最初にギルマスのリュートを見た。それから隣にいるミスカを見る。
 すると二人は、目を細めて視線を交わしあっていた。

「いつかは誰かが攻略しないと、外に出られないんだよ。それなら、早いうちが良い。できる人間がいるんだから。僕は、そう思ってる。良い返事、待ってるからね」

 そう言うと、俺にフレンド申請をして、ユフテスが踵を返した。申請に許可をして、俺はフレンドリストを一瞥する。そうして扉が閉まる音を聞いた。いつでもユフテスは、突然来て突然帰っていくのである。直感が非常に鋭い、優秀な罠解除技能の持ち主でもある。

「どうする?」

 ミスカがリュートに聞いた。するとリュートは、小さく首を捻った。

「パーティの編成による。パーティは四人までだ。そして今の話ぶりだと、おそらく地下迷宮には、グループレイド形式で入るんだろう。とすると、最大人数は五十だ。攻略組の人数としては悪くないし、現時点では人選をバジルとするくらいなんだから、ローレライよりは信用できそうな相手でもある――なにより、ユフテスといえば、サンセット・グリードの情報ならばなんでも知っているという噂だからな」

 こうしてその後、俺達は攻略に参加するかを話し合う事になった。
 入ったばかりのトキワも、率先して口を開いていて、寧ろ彼が一番攻略参加に乗り気である。結果、夜になる頃、俺達は一つの結論を出した。

 ――攻略当日までは、トキワのレベル上げをする。
 そして、地下迷宮の攻略に臨む、と。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

処理中です...