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しおりを挟むギルドメンバー候補が見つかったという知らせが届いたのは、そうした日々が一ヶ月ほど過ぎてからの事だった。これから来るという話で、先に戻ったミスカに促されて、俺はお風呂に入った。手首から手錠が外れたのは、久方ぶりのことだった。ずっと俺は、抱かれっぱなしだったのである。
お風呂から上がって少ししてから、リュートが新しいギルメン候補を連れてギルドホームに戻ってきた。
「はじめまして――あれ? 夜凪?」
俺はその声に、硬直した。夜凪ヤナギというのは、俺の苗字だ。
見ればそこには、嘗てのクラスメイトが立っていた。俺のバイト先だったカフェのオーナーの息子の、常磐トキワである。修学旅行でも同じ部屋だった。
「常磐……」
「わ、わ、嘘!? お前、大丈夫だったのか!? 心配してたんだぞ!?」
その言葉に、俺は曖昧に頷くしかない。
そして――この世界では、一度も浮かべたことのない、作り笑いを浮かべた。高校時代までは常に貼り付けていたものと同じである。口角を少し持ち上げて、目を細めて微笑むのだ。
「有難うな」
俺の声に、常磐が息を飲んだ。何故なのかリュートとミスカも息を飲んでいる。
「い、いや、だってほら、友達だろ? あ、今の名前は? 俺はキャラクターもトキワなんだ。今ってほら、キャラ名で呼び合う風潮だろ?」
曖昧に笑うしかできなかったが、俺は小さく頷いた。
「バジルだよ」
「へぇー……ん? お前、MMOから移行したの?」
「うん、まぁ」
「うわぁ! じゃあ最強のプレイヤー、復活だな!」
トキワはそう言うと満面の笑みを浮かべた。MMO時代には、一緒に遊んだこともあるのだ。トキワも昔からサンセット・グリードで遊んでいたのである。ただ、剣道部の主将をしていたから、あまりインする時間は取れなかったようだが。トキワは元々、ゲームをやるよりもリアルの交友関係を重視するタイプで、クラスでも中心にいた事をよく覚えている。人好きのする性格をしているのだ。明るい。
「知り合いだったのか?」
リュートに聞かれたので、俺は微笑したまま頷いた。リュートやミスカの前で作り笑いをしているというのが、なんとなく自分の中では不協和音をもたらしている。思えば、俺は二人の前だと、自然体でいられたらしい。
「高校の同級生だったんだ」
「そうなんです。けど、夜凪――あ、バジル! そう、バジルのお母さんが刺殺されてから、バジル学校に来なくなっちゃったからなぁ……変な宗教にハマった父親の本妻が刺殺したとかって、すごいニュースで! みんな心配してたんだからな!」
心がひやりとした。トキワに悪気が無いのは、分かる。そして事実だから、怒ることも違うだろうが――俺は、この話を、アイツにさえ、レイトにさえしたことがなかったのだ。だからリュートもミスカも知らなかったはずで……率直に言って、反応が怖かった。必死で笑顔を浮かべたまま、俺はリュートとミスカの様子を伺った。
「お喋りだな。長生きしそうにない」
ミスカがその時、音もなく大剣をトキワの首筋につきつけた。
「俺は今、リアルには興味がない」
続けてそう言ったミスカは、ぐっと切っ先をトキワの首に押し付ける。
「黙ることを覚えろ」
「は、はい……!」
真っ青な顔になってトキワが小さく頷いた。その前で、リュートが俺を抱き寄せた。
「気にすんな。大変だったみたいだけどな――今は、忘れろ。俺も聞かない」
その温もりが、俺には嬉しかった。気づくと作り笑いが、崩れていた。瞬きをすると、瞳が潤んでいることが分かる。
「――仕切り直しだ。余計な話は、非常事態につきしないように。それで? お前は、このギルドに入るのか? リュート、なんて誘ったんだ?」
「おう、剣道部の元主将だそうで、ローレライよりは少なくとも腕が立ちそうだったから連れてきた。レベルは135。この現状じゃ高い」
「なるほどな。別に俺は構わない。バジルは?」
「え、お、俺もいいと思うけど……トキワ、強かったしな」
「ありがとうバジル! それにミスカさんも!」
すると立ち直ったようで、パァっとトキワの顔が明るくなった。俺はそれを、リュートの腕の中で見ていた。トキワはそんな俺を見たあと、リュートに視線を向けた。
「えっと、おふたりは付き合ってるんですか?」
「まだ付き合ってない」
その言葉に、俺は思わずリュートの足を踏んだ。『まだ』とは何だ。語弊があるだろう……。
こうして、新しいギルドメンバーが一人増えたのである。
俺に来客があったのは、その日の午後だった。コンコンとノックの音がした後、鍵をかけていたはずの扉のノブが、するっと回ったのである。全員が硬直した。見守っている前で、軋んだ音を立ててから扉が開き――入ってきたのは、一人の盗賊(職業)だった。
「あ!! バジル! やっぱりバジルだ! ローレライが叫んだ日に見かけたという情報を聞いて、あちこち探したんだよ!」
その声に、俺は息を飲んだ。
「――ユフテス?」
「さすが。一発で分かってくれるなんて」
俺の声に深々と被っていたローブのフードを取ったのは、ユフテスという名の、嘗てのフレンドだった。俺に駆け寄ってきたユフテスを見ると、リュートとミスカが息を飲んだのが分かる。トキワは首を傾げていた。
「元気だった? いや、いいや。今が元気ならそれで」
ユフテスはそう言うと、青い瞳を細めて笑った。頭部には同色の長いキツネ耳がついている。尻尾もある。どちらも課金アバターだ。MMO時代と同じである。
俺とユフテスは、メインシナリオが更新されるたびに、一緒に攻略していた仲である。地下迷宮を踏破した時のパーティにも、彼がいた。
「単刀直入に言うんだけど、僕達と一緒に地下迷宮の攻略に行って欲しいんだ。どうしてもバジルに来て欲しい。僕達っていうのは、ローレライが集めた中の一部と、僕のギルメン。みんな、信用できる人ばっかりだから――リュートとミスカの事も誘いに来たんだけど、そちらは?」
「ああ、トキワは今日ギルドに入ったんだ」
「へぇ。腕が立つならご一緒に」
「待ってくれ、俺の一存では決められない」
俺はそう伝えて、最初にギルマスのリュートを見た。それから隣にいるミスカを見る。
すると二人は、目を細めて視線を交わしあっていた。
「いつかは誰かが攻略しないと、外に出られないんだよ。それなら、早いうちが良い。できる人間がいるんだから。僕は、そう思ってる。良い返事、待ってるからね」
そう言うと、俺にフレンド申請をして、ユフテスが踵を返した。申請に許可をして、俺はフレンドリストを一瞥する。そうして扉が閉まる音を聞いた。いつでもユフテスは、突然来て突然帰っていくのである。直感が非常に鋭い、優秀な罠解除技能の持ち主でもある。
「どうする?」
ミスカがリュートに聞いた。するとリュートは、小さく首を捻った。
「パーティの編成による。パーティは四人までだ。そして今の話ぶりだと、おそらく地下迷宮には、グループレイド形式で入るんだろう。とすると、最大人数は五十だ。攻略組の人数としては悪くないし、現時点では人選をバジルとするくらいなんだから、ローレライよりは信用できそうな相手でもある――なにより、ユフテスといえば、サンセット・グリードの情報ならばなんでも知っているという噂だからな」
こうしてその後、俺達は攻略に参加するかを話し合う事になった。
入ったばかりのトキワも、率先して口を開いていて、寧ろ彼が一番攻略参加に乗り気である。結果、夜になる頃、俺達は一つの結論を出した。
――攻略当日までは、トキワのレベル上げをする。
そして、地下迷宮の攻略に臨む、と。
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