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―― 本編 ――
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――夜には、そんな壮絶な交わりをしたけれど、目を覚ませば俺の体は綺麗になっていた。春木は紳士だ。それどころか、俺の首に絆創膏まで貼ってくれた。
「俺はシャワーを浴びてくる」
「……一度、着替えに戻り、部屋の外でお待ちしております」
「うん。今日も宜しくね」
にこり、と。また俺の好きな顔で笑った春木。
胸が疼く。疼いて疼いて苦しいほどだ。今では春木を見ているだけで、俺の鼓動は早くなる。
その後、俺は自分にあてがわれた部屋へと戻り、シャツを着替えてから、春木の部屋の前へと戻った。そして出てきた春木の前で頭を下げる。ここからは、朝の時間だ。夜のことなんてまるで嘘のように、俺達は雇用主とボディーガードという関係に戻る。
今日の春木は、取引先のガーデンパーティーに出席するので、俺はそれに伴う。なるべく存在感を消し、目立たないように。インカムの位置を調整しつつ、俺は春木が向かうホテルの 庭へと向かう。十一時開始なので、ブランチとして春木はそちらで今日は朝食を兼ねると聞いていた。
春木が主催者達と話を始めたので、俺は端による。
するとそばの立食式のテーブルのところにいる二名の客の話し声が聞こえてきた。見ればそこには、着飾っている可愛らしいオメガの青年が二人いた。首に洒落たネックガードを身につけているから、オメガだというのはすぐに分かる。ただどちらも値がはりそうな首輪の形状で、ダイヤやサファイヤがはめ込まれていた。
「春木社長、本当に格好良いよね」
「アルファ中のアルファって感じ」
「僕、オメガに生まれてよかった。だって、ねぇ? もしかしたらって思うじゃない」
「そんなの僕も一緒。あーあー、春木社長にうなじ噛まれたいなぁ」
二人のやりとりに、俺は視線を下げた。オメガからアルファたる春木の貞操を守るのも仕事の一環――だからではない。俺も似たようなことを考えたことがあったからだ。
もしも俺も、この二人のように可愛いオメガだったならば……そうだったならば、体だけでなく、春木の心が俺に向くことがあったのだろうか、と。うなじは噛まれているが、それは本能だろう。噛まれたところで、俺は 番いにはなれない。
「あ」
その時、オメガの青年の声がしたので、顔を上げた。二人がじっと春木の立つ方向を見ているので、俺も自然とそちらへと視線を向ける。すると――にこり、と。春木が俺に視線を合わせた途端に微笑した。不意打ちの笑顔に、俺の胸がドクンと啼く。気のせいだろうかと目を見開いていると、片手をあげた春木が、小さく手を振った。横のオメガに大してだろうかと考えた時、二人が今度は俺を見た。焦って俺が春木に視線を戻すと、また手を振られる。これ、は。俺に手が振られている。遊ばれている、のだろうか? 反応に困っていると、春木が顎を少し持ち上げて、俺を軽く睨んだ。そして手招きした。俺は息を呑みつつ、そちらへと向かう。すると春木が少し屈んで、俺の耳元で囁いた。
「ちゃんと手を振り替えしてくれないと、拗ねるよ?」
「ッ」
「隣に随分と愛らしいオメガが二人いて、君が取られちゃうんじゃないかと不安だった俺を、これ以上拗ねさせるのは得策かな? 君は彼らをチラチラと見ていたけれど」
「え、あ、いえ……その……」
「ねぇ、七瀬? 君は、誰のもの?」
「俺はシャワーを浴びてくる」
「……一度、着替えに戻り、部屋の外でお待ちしております」
「うん。今日も宜しくね」
にこり、と。また俺の好きな顔で笑った春木。
胸が疼く。疼いて疼いて苦しいほどだ。今では春木を見ているだけで、俺の鼓動は早くなる。
その後、俺は自分にあてがわれた部屋へと戻り、シャツを着替えてから、春木の部屋の前へと戻った。そして出てきた春木の前で頭を下げる。ここからは、朝の時間だ。夜のことなんてまるで嘘のように、俺達は雇用主とボディーガードという関係に戻る。
今日の春木は、取引先のガーデンパーティーに出席するので、俺はそれに伴う。なるべく存在感を消し、目立たないように。インカムの位置を調整しつつ、俺は春木が向かうホテルの 庭へと向かう。十一時開始なので、ブランチとして春木はそちらで今日は朝食を兼ねると聞いていた。
春木が主催者達と話を始めたので、俺は端による。
するとそばの立食式のテーブルのところにいる二名の客の話し声が聞こえてきた。見ればそこには、着飾っている可愛らしいオメガの青年が二人いた。首に洒落たネックガードを身につけているから、オメガだというのはすぐに分かる。ただどちらも値がはりそうな首輪の形状で、ダイヤやサファイヤがはめ込まれていた。
「春木社長、本当に格好良いよね」
「アルファ中のアルファって感じ」
「僕、オメガに生まれてよかった。だって、ねぇ? もしかしたらって思うじゃない」
「そんなの僕も一緒。あーあー、春木社長にうなじ噛まれたいなぁ」
二人のやりとりに、俺は視線を下げた。オメガからアルファたる春木の貞操を守るのも仕事の一環――だからではない。俺も似たようなことを考えたことがあったからだ。
もしも俺も、この二人のように可愛いオメガだったならば……そうだったならば、体だけでなく、春木の心が俺に向くことがあったのだろうか、と。うなじは噛まれているが、それは本能だろう。噛まれたところで、俺は 番いにはなれない。
「あ」
その時、オメガの青年の声がしたので、顔を上げた。二人がじっと春木の立つ方向を見ているので、俺も自然とそちらへと視線を向ける。すると――にこり、と。春木が俺に視線を合わせた途端に微笑した。不意打ちの笑顔に、俺の胸がドクンと啼く。気のせいだろうかと目を見開いていると、片手をあげた春木が、小さく手を振った。横のオメガに大してだろうかと考えた時、二人が今度は俺を見た。焦って俺が春木に視線を戻すと、また手を振られる。これ、は。俺に手が振られている。遊ばれている、のだろうか? 反応に困っていると、春木が顎を少し持ち上げて、俺を軽く睨んだ。そして手招きした。俺は息を呑みつつ、そちらへと向かう。すると春木が少し屈んで、俺の耳元で囁いた。
「ちゃんと手を振り替えしてくれないと、拗ねるよ?」
「ッ」
「隣に随分と愛らしいオメガが二人いて、君が取られちゃうんじゃないかと不安だった俺を、これ以上拗ねさせるのは得策かな? 君は彼らをチラチラと見ていたけれど」
「え、あ、いえ……その……」
「ねぇ、七瀬? 君は、誰のもの?」
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