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―― 第一章 ――
【003】勇者召喚
しおりを挟む僕が魔王になってから、大体三百年に一度くらい、勇者はどこかの世界から召喚されてきた。それこそ、当初は恐怖し青褪めていた僕だが、最近では慣れてきた。勇者が来ても、『またか』という感想しか抱かない。
大抵召喚するのは、大陸の中心にある《聖都:ローズマリー》である。
後は持ち回りで、大陸の各国の宮廷魔術師や神官が、召喚の儀式を行うこともあるらしが、多くの場合は《聖都》が勇者を召喚するか、聖剣を抜いた者を勇者として送り込んでくる。だが圧倒的に召喚されてくる者が多い。
何故なのか、大抵召喚されてくるのは、地球は日本の人々だ。
僕が暇つぶしとして調べた限り、この大陸の古代文字と呼ばれるものは、基本的に英語と日本語だから、世界地図の陸地の位置等こそ違うものの、僕が知る嘗ての世界と何らかの関わりがあるのではないかと考えている。
――だって自称神様だって、あちらからこちらへすんなりと僕を移動させてくれたのだし。無関係の世界に移動させたとは思えない。
魔王としての僕の状況を少しだけ補足したい。
トラックに轢かれて死んで、この世界へと降り立ち、外見年齢はそのままに不老不死となった僕は、現在魔王と呼ばれていて、魔術攻撃が得意である。
だけど誓って言うが、僕は魔王になってから、〝人間〟に、何らかの攻撃を加えたことはない。それでも、定期的に僕を倒すため、地球は日本から、勇者が召喚されることは知っていた。
そして今回も――……また、新たに勇者が召喚されたのだという。
「いかがなさいますか、魔王様」
この城と魔界を包括的に収める宰相をしてくれているロビンが、淡々と言った。
ロビンは、銀とも金ともつかない髪の色をしていて、それを前髪は短く切り、残りは後ろで一つに束ねている青年だ。
青年に見えるとはいえ、実際には、千二百五十歳は越えていると思う。
なにせ、千二百年前に僕が魔王になった後、初めて部下になってくれたのがロビンだからだ。少々つり目で、毒舌だが、慣れればそれも、どうと言うこともない。わざわざデキの悪い僕のために、厳しいことを言ってくれているんじゃないのかとすら思う。
「ロビン、ごめん。僕はさ、やっぱり、勇者が魔王を倒しましたって言うようなハッピーエンドが好きなんだよ。だから、僕は倒されるよ。 今回も。なるべくこの近隣に住む魔族達の保護を優先させるべきだと思うんだ」
「最後まで此処に残ると仰っているのですか? 無謀です」
「国のけじめをつけるのも、責任を取るのも、僕だ。例えそれが無謀だとしてもね。だからさ、ロビン。君なら、何処の国でもやっていける。僕のことを売ったことにして、すぐに亡命した方が良い」
「――出来ません」
いつもは非常に理性的で論理的なロビンが、あからさまに険しい目をした。
「私の主人は、貴方だけです。貴方が魔王であろうと無かろうと。国など捨てても構わない、どうぞお逃げ下さい。貴方は、私の希望なのです。アルト様」
ああ……僕とロビンは一体何度、こうしたやりとりをしたのだったか。
二人でそんな話しをしていた時、豪奢な飴色の扉が勢いよく開け放たれた。
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