魔王の求める白い冬

猫宮乾

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―― 第一章 ――

【004】記憶に無い罪

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「魔王だな?」

 入ってきた青年が短く呟く。大剣を構えている姿から、彼が剣士であると分かる。聖なる気配がするから、きっと彼が勇者なのだろう。背が高く、整った顔立ちをしていて、小金色の髪に同色の瞳をしている。どことなく既視感があったが、すぐに類似した顔の持ち主に会ったことは無いと思い直した。

 その背後には、杖を持った魔術師や十字架状の槍を持った聖職者の姿が見える。

「世界を混乱に叩き落とした罪の償い、しかとしてもらう」

 身に覚えのないことで糾弾された僕は、ただ自嘲気味に笑うことにした。

 僕が死ねば、勇者達は英雄で、ロビン達だってある日パッと出て現れた僕とは違う、心底尊敬できる新しい上司――新しい魔王と出会えるだろう。どう考えても、これが世界のために良い。無力な僕よりも、きっと、ずっと。

 ――これも、繰り返し考えてきた事柄だ。僕は生に執着がない。

 そう思ったから、僕は床へと、杖を投げ捨てた。

「相手にしてやる、さっさと来い」

 僕が淡々と告げると、勇者パーティの総攻撃が始まった。

 頬と肩に、勇者から裂傷を受けたけれども、圧倒的なレベル差があるせいか、大した問題だとは感じなかった。

 ――僕が勝つのは、時間の問題だ。

 そう思った瞬間、勇者が音速で剣を揮い、刀が僕の首の真横へと突き当てられた。
 何度か瞬きをして、現状理解に努めようとしていると、唐突に床の上へと引き倒された。

「っ」

 鈍い痛みに目を眇めると、正面から僕の顔を覗き込みつつ、勇者が僕の首にぴたりと刀身を当てる。そのまま無言で、まじまじと僕を見下ろしていた。

 なにやら僕の言葉を待っている様子だ。僕の反応を窺っているのが分かる。

「まぁ、なんとかなるかな。勇者、君は僕を倒すには弱すぎる」

 僕にはそれ以外の模範解答が見つからなかった。
 他に勇者の敵意を煽る言葉が見つからない。

「なんとか、だと……俺の家族――両親も妹弟も、魔王が配下に命じて村を陥落させたせいで亡くなったんだ。火を放たれて、村は燃えて潰えた」

 しかし僕の言葉を耳にとめた、勇者は、再度僕の首筋へあてがった剣に力を込めた。

 ――このまま斬られれば、数日は動けないだろう。不老不死効果で、すぐに治癒するとはいえ、痛みは残る。

 けれどそれ以上に僕は唇を噛んだ。

「僕は、どこか特定の村を、襲うようになんて指示を出した覚えはないけど……」

 僕に心当たりがない以上、僕の配下の誰かが気を回したか、全く別の団体によるテロ行為だろう。そう、僕には記憶に無い罪だ。



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