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―― 第一章 ――
【010】風に溶ける言葉
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「お前は何もしていないのに、どうして恨めると言うんだ?」
「何もしていなかったから、かな」
「っ」
「例えば僕が、人間との間に友好関係を結ぶ努力をしていたならば、こうはならなかったかもしれない。魔族が怖い存在ではないのだともっと明確に示していれば、結果は違ったかもしれない。恨もうと思えば、いくらでも恨む余地はあるんじゃないかな」
僕がそう言うと、何度か勇者が目を丸くして瞬きをした。
「お前……なんでそんなに」
「ん?」
「……俺に倒されたいのか? 恨まれたいのか?」
「別にそう言う訳じゃないんだけどね」
長いこと生きてきすぎたから、僕は多分、勇者に倒されるという確固たる未来以外の目標や生きる活力を見失っているのだと思う。我ながら、面倒くさがりなのかもしれない。
「じゃあ――俺に殺されたいのか?」
その言葉に、ザワリと胸の奥で何かが蠢いた。
ああ、僕の方こそこの世界に、何が為に生まれたのか。
あの時の僕は、何故不老不死など望んでしまったのだろうか。
だけど。
だけどだ。
何となく合点がいった気がした。
「そうかもしれないね」
「どうして笑うんだ?」
「ううん。すっかり、みんなは兎も角、自分が死ぬって言うのがどういうことだか忘れていたからさ――うん、そうだね、僕は殺されたいのかもしれない」
僕がそう言うと、勇者が静かに俯いた。
「じゃあ俺が恨んで恨んで恨み倒して、お前を倒して、殺してもいいって事か?」
「うん」
「俺にはもう居場所がない。だから、お前の近くから、命を狙っても良いか?」
「近く?」
確かに《聖都:ローズマリー》を始めとした、人間の国には帰りづらいだろうとは思う。僕は、この魔族の土地にある人間街のことを想起しながら、改めて勇者を見た。
「しばらく魔王城で、お前の命を狙っても構わないか? 本当に、俺に殺されても良いと思っているんなら、俺を魔王城においても不都合はないだろ?」
「え、あ、まぁ……別に構わないけど」
「それにまだ俺は、お前のことをよく知らない。知らない相手は、殺せない……もう、な」
ポツリと呟いた勇者の言葉が、風に溶けていった。
「何もしていなかったから、かな」
「っ」
「例えば僕が、人間との間に友好関係を結ぶ努力をしていたならば、こうはならなかったかもしれない。魔族が怖い存在ではないのだともっと明確に示していれば、結果は違ったかもしれない。恨もうと思えば、いくらでも恨む余地はあるんじゃないかな」
僕がそう言うと、何度か勇者が目を丸くして瞬きをした。
「お前……なんでそんなに」
「ん?」
「……俺に倒されたいのか? 恨まれたいのか?」
「別にそう言う訳じゃないんだけどね」
長いこと生きてきすぎたから、僕は多分、勇者に倒されるという確固たる未来以外の目標や生きる活力を見失っているのだと思う。我ながら、面倒くさがりなのかもしれない。
「じゃあ――俺に殺されたいのか?」
その言葉に、ザワリと胸の奥で何かが蠢いた。
ああ、僕の方こそこの世界に、何が為に生まれたのか。
あの時の僕は、何故不老不死など望んでしまったのだろうか。
だけど。
だけどだ。
何となく合点がいった気がした。
「そうかもしれないね」
「どうして笑うんだ?」
「ううん。すっかり、みんなは兎も角、自分が死ぬって言うのがどういうことだか忘れていたからさ――うん、そうだね、僕は殺されたいのかもしれない」
僕がそう言うと、勇者が静かに俯いた。
「じゃあ俺が恨んで恨んで恨み倒して、お前を倒して、殺してもいいって事か?」
「うん」
「俺にはもう居場所がない。だから、お前の近くから、命を狙っても良いか?」
「近く?」
確かに《聖都:ローズマリー》を始めとした、人間の国には帰りづらいだろうとは思う。僕は、この魔族の土地にある人間街のことを想起しながら、改めて勇者を見た。
「しばらく魔王城で、お前の命を狙っても構わないか? 本当に、俺に殺されても良いと思っているんなら、俺を魔王城においても不都合はないだろ?」
「え、あ、まぁ……別に構わないけど」
「それにまだ俺は、お前のことをよく知らない。知らない相手は、殺せない……もう、な」
ポツリと呟いた勇者の言葉が、風に溶けていった。
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