魔王の求める白い冬

猫宮乾

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―― 第一章 ――

【014】不意打ちの温もり

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「一人で――いや、そうか、ロビンという魔族がいるのか……二人で、か。頑張ってきたんだな」
「……っ、あのさ」
「なんだ?」
「頑張るってさ、無意味なんだよ。知ってた? 結果を出せなかったら、なんの意味もないんだよ」
「……そんなこと、無い」
「あるんだよ、あるんだ。君よりずっと長い時間を僕は生きてきた。だから分かる。亀の甲より年の功って言うだろ」
「だけど――……俺には、伝わった」
「なっ」
「だから。そんなことを言うな。俺は恨んでばかりの人間だ。お前を見ていると、自分が小さく見える。お前こそ、世界を恨みたくてしかたがないはずだと、そんな気がする」
「別に僕は――っ」

 その時不意に柔らかな感触が降ってきたものだから、僕は目を見開いた。
 気がつけば端正な勇者の顔が、正面にあった。
 瞬きをする間に、舌が口腔へと入ってくる。

「ぁ」

 思わず声混じりの吐息を漏らすと、一度唇を離してから、角度を変えて再び勇者に口を貪られた。僕は、こんな経験などあまり無かったから、ただ肩で息をするしかない。

「な、なにを……」
「悪い」
「……」
「お前のことがどうしようもなく儚い雪みたいに見えたんだ。いつか、消えてしまうような」
「そんな、何を馬鹿なことを言って――」

 僕が声を上げると、勇者の腕に再び力がこもり、抱き寄せられた。

「……お前がいなかったら、俺は何も知らないままだった。何も知らないまま、お前を手にかけるところだった」
「それ、が。勇者の役目だよ」
「……そうかもしれない」
「全部僕らの策略かも知れないよ? 君達の決意を揺るがすための」
「お前はそんなことをしない。これまで騙されて生きていた俺でも、それくらいは、そう思った自分の心くらいは、信じたいんだ」
「勇者……」
「オニキスだ」
「……」
「魔王。お前の名前は?」
「アルトだよ」
「アルト、か」
「うん」

 本当は僕の名前は、日本人の漢字の名前なのだが、この世界では発音のせいなのかそう呼ばれている。

「オニキスは、宝石の名前だよね」
「ああ。両親の結婚指輪にはまっていたものが、オニキスだったらしい」
「そうなんだ」

 そんなやりとりをしてから、僕はオニキスの胸を押した。

「そろそろ離して」
「――嫌だと言ったら、どうする?」
「どうって……」
「俺を殺すか?」
「そんな事するはずがないだろ」
「だろうな」

 僕らのそうしたやりとりを、ただ月だけが見守っているようだった。



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