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*** 過去:Ⅰ ***
【019】過去――魔王一日目③
しおりを挟む次に宰相のワースさん。黄緑色の髪に白髪が交じっていて、長い髪を後ろで一つに結んでいる。体のラインがしっかり出ている黒い服の上に、深い紫とも焦げ茶色ともつかないマントのようなものをつけている。そのマントの裏は――あれ、どうして正面に立っているのに、マントの裏側を見てみたいと思ったら、脳裏にそれが過ぎったんだろう――双頭のドラゴンに、剣が一本突き刺さった黒いマークが見て取れた。何のマークだろう。
最後にロビンさん。きっと僕より少し年上なんだろう。少しと言っても他の二人に比べたらで、二十代半ばとか後半なんじゃないかと思う。金とも銀ともつかないの髪に、白い肌をしていて、目は緑色だ。彼はシモンさんと同じ服の上に、ワースさんと同じマントのようなモノをつけている。
では、僕は?
おずおずと視線を下げると、僕はゆったりとした白いボトムスを穿いていて、インナーは首まで覆う感じで、その上から、すっぽりと、黒いローブのようなモノを着ていた。いつの間に着替えたんだろう……いや、このファンタジックな場所に、学校の制服で来るよりは良かったのだろうか? もこもこと白い毛が付いているマントがちょっと暑い。
暑い……?
そこで僕は気がついた。
確か僕は、真冬に交通事故にあったわけだが、どういう事なのか、この大きな部屋の中は暑い。それこそ夏のように暑い。エアコンが恋しい、涼しくならないかな――と考えていたら、急に僕の体の周囲が、スッと涼しくなった。何故だろう――周囲を見回してみる。
床は石造りで、僕が座っているのは、十段ほど階段を上った場所に設えられた玉座のようである。そこから、真正面に見える巨大な扉までには、赤く細長い絨毯が敷かれている。壁もまた石造りで、何処にも窓はない。天井は高いが、それも石で出来ているようだった。
静かにグラスを置く。するとメイドの少女が、伺うようにこちらを見た。
「あ、もう大丈夫。グラスの中身は、後で飲むので、下がっていただいて大丈夫です。本当に有難うございました」
「い、い、い、いえ、っあ、きょ、恐縮です……!」
それだけ言うと少女は、逃げるように去っていった。
やはり僕は何故なのか、怖がられているらしい。
「あの」
正面に向き直り、僕は声を上げた。
「ハッ」
シモンさんが反応してくれる。
「今は何年何月何日何曜日で、季節はいつですか?」
今更だが、言葉が通じているのが有難い。
「魔王様が顕現なされた本日より、魔王歴一年、一月一日、日曜日となります。季節とは……なんのことでしょうかな?」
「え、いやあの、昨日まで使ってた暦は?」
「前魔王歴四千二百三十五年、十二月二日、木曜日でした」
「その暦を使い続けた方が、混乱しなくて良いんじゃないですか?」
「いえ、陛下。以前の魔王様が亡くなって以後、この土地で意味をなすのは曜日だけで、誰も日時など気にしません。この際一新いたしましょう」
「……そうなんですか。ええと季節というのは、春夏秋冬と言って、暑い季節や寒い季節などです」
「この土地は、常に同じ気候です。強いて言えば、暑いのでしょう。外界の変化と言えば、豪雨か霙か曇りか雷か、と言ったもので、空は大概紫色か緑色です」
日本――地球とは、あまりにも違いすぎたため、僕は正直驚いた。
その時の僕はまだ、気候や天気を、己の魔術で変えることが出来ることも、先程涼しくしたことが、無詠唱魔術と呼ばれる、使える者が限られたものであることも知らなかった。知らなかったのだった。そしてまさか、思考するだけで気温を変えることになるだなんて。
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