魔王の求める白い冬

猫宮乾

文字の大きさ
19 / 84
*** 過去:Ⅰ ***

【019】過去――魔王一日目③

しおりを挟む

 次に宰相のワースさん。黄緑色の髪に白髪が交じっていて、長い髪を後ろで一つに結んでいる。体のラインがしっかり出ている黒い服の上に、深い紫とも焦げ茶色ともつかないマントのようなものをつけている。そのマントの裏は――あれ、どうして正面に立っているのに、マントの裏側を見てみたいと思ったら、脳裏にそれが過ぎったんだろう――双頭のドラゴンに、剣が一本突き刺さった黒いマークが見て取れた。何のマークだろう。

 最後にロビンさん。きっと僕より少し年上なんだろう。少しと言っても他の二人に比べたらで、二十代半ばとか後半なんじゃないかと思う。金とも銀ともつかないの髪に、白い肌をしていて、目は緑色だ。彼はシモンさんと同じ服の上に、ワースさんと同じマントのようなモノをつけている。

 では、僕は?

 おずおずと視線を下げると、僕はゆったりとした白いボトムスを穿いていて、インナーは首まで覆う感じで、その上から、すっぽりと、黒いローブのようなモノを着ていた。いつの間に着替えたんだろう……いや、このファンタジックな場所に、学校の制服で来るよりは良かったのだろうか? もこもこと白い毛が付いているマントがちょっと暑い。

 暑い……?

 そこで僕は気がついた。

 確か僕は、真冬に交通事故にあったわけだが、どういう事なのか、この大きな部屋の中は暑い。それこそ夏のように暑い。エアコンが恋しい、涼しくならないかな――と考えていたら、急に僕の体の周囲が、スッと涼しくなった。何故だろう――周囲を見回してみる。

 床は石造りで、僕が座っているのは、十段ほど階段を上った場所に設えられた玉座のようである。そこから、真正面に見える巨大な扉までには、赤く細長い絨毯が敷かれている。壁もまた石造りで、何処にも窓はない。天井は高いが、それも石で出来ているようだった。

 静かにグラスを置く。するとメイドの少女が、伺うようにこちらを見た。

「あ、もう大丈夫。グラスの中身は、後で飲むので、下がっていただいて大丈夫です。本当に有難うございました」
「い、い、い、いえ、っあ、きょ、恐縮です……!」

 それだけ言うと少女は、逃げるように去っていった。
 やはり僕は何故なのか、怖がられているらしい。

「あの」

 正面に向き直り、僕は声を上げた。

「ハッ」

 シモンさんが反応してくれる。

「今は何年何月何日何曜日で、季節はいつですか?」

 今更だが、言葉が通じているのが有難い。

「魔王様が顕現なされた本日より、魔王歴一年、一月一日、日曜日となります。季節とは……なんのことでしょうかな?」

「え、いやあの、昨日まで使ってた暦は?」
「前魔王歴四千二百三十五年、十二月二日、木曜日でした」
「その暦を使い続けた方が、混乱しなくて良いんじゃないですか?」
「いえ、陛下。以前の魔王様が亡くなって以後、この土地で意味をなすのは曜日だけで、誰も日時など気にしません。この際一新いたしましょう」
「……そうなんですか。ええと季節というのは、春夏秋冬と言って、暑い季節や寒い季節などです」
「この土地は、常に同じ気候です。強いて言えば、暑いのでしょう。外界の変化と言えば、豪雨か霙か曇りか雷か、と言ったもので、空は大概紫色か緑色です」
日本――地球とは、あまりにも違いすぎたため、僕は正直驚いた。


 その時の僕はまだ、気候や天気を、己の魔術で変えることが出来ることも、先程涼しくしたことが、無詠唱魔術と呼ばれる、使える者が限られたものであることも知らなかった。知らなかったのだった。そしてまさか、思考するだけで気温を変えることになるだなんて。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる

レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。 ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。 死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。

処理中です...