魔王の求める白い冬

猫宮乾

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*** 過去:Ⅰ ***

【018】過去――魔王一日目②

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「紹介させていただいても宜しいですか?」
「よろしくお願いします」
「では。こちらは、魔王様がご不在の間、そして魔王様がおられる場合でも少しでもご負担を減らすためにと、この魔族の地《ソドム》の宰相を務めているワースです」
「お初にお目にかかります、陛下。宰相のワースです」
「はじめまして」

 会釈を返すと、ワースさんは、あからさまに安堵したような顔で、細く息をついた。

「そして後ろに控えておりますのは、将来的に城の管理や宰相職を任せようと考えていた、ロビンです。ですが魔王様が顕現なさった今、彼は貴方の腹心の部下になってくれることでしょう」
「畏れ多いことです。尽力いたします、陛下」
「よ、よろしくお願いします」

 僕は座ったまま、そう言った。
 頭が完全に混乱していた。

 まず、自称神様が言っていたことを思い出す。

 ――職業は《魔王》、種族は《魔神》、メイン技能は《魔術》
 ――他の世界に転生して、生きて欲しい。

 なるほど、僕が先ほどから、魔王と呼ばれたり、陛下と呼ばれたりするのは、職業的に魔『王様』だからなのだろう。また、顕現した、と言っているから、赤ちゃんからやり直さなくて良い理由も、種族的に都合が良かったのかも知れない。きっと魔王とは、急に現れる存在なのだろう。

「駄目だ、喉が渇いた」

 混乱のあまりそう呟く。
 すると即座に、僕の右隣に丸いテーブルが設置され、その上にポットが置かれた。

「何をお飲みになりますか?」

 メイド服のようなものを着た少女が、僕にそう言った。
 なんという速さだろう。

「え、あ、良いんですか?」
「なんなりとお申し付けください、魔王様」
「じゃあ、冷たい飲み物を……」

 いた少女が、ポットの脇に用意してあった瓶から、水を注いだ。水、だと思う。きっと炭酸水なのだろう。泡がポツポツと浮かんでいた。そこに少女は、木苺をいれて、僕の前へとグラスを差し出した。

 一口飲んでみると、不思議な味の、ただ決して不味くはない、甘さと酸味を持つジュースのような飲み物だった。そして僕は思いの外喉が渇いていたらしく、グラスを傾ける。

「ごめん、もう一杯もらえるかな?」

 僕の言葉に、メイドさんは頷いて、更にジュースを作ってくれた。
 今度はそれをゆっくりと飲みながら、僕は正面へと視線を戻した。

 特に誰も言葉を発しない。

 そこで僕は、皆のことを観察することにした。

 まず、城の管理をしているという、シモンさん。白髪頭に、焦げ茶色の肌をしていて、まるで執事のような格好をしている。ややふっくらとした体格で、身長は多分僕よりも低い。七十歳以上だろう、確実に。目尻の皺が優しく見えるのだが、多分怒らせると怖い。


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