魔王の求める白い冬

猫宮乾

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*** 過去:Ⅰ ***

【023】過去――魔王一日目⑦

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 ドライヤーを出してもコンセントとプラグがないから駄目だろうと考え、髪の毛が乾くように念じたら、髪も乾いた。

 応接間のふかふかのソファに座りながら、僕は喉が渇いたなと思う。
 すると麦茶の入った硝子のポットが現れて、側にコップも現れた。
 さすがに此処まで何でも自由になると、楽しくてしかたがない。

 良い気分でソファに深々と背を預け、僕は麦茶を飲んだ。
 体が弛緩していて、疲れが取れた気がした。
 その時、コンコンとノックの音がした。

「は、はい!」

 僕は慌てて背筋を伸ばし、扉の方を見た。

「魔王様、お目覚めですか?」
「はい! あ、どうぞ中に入って下さいッ!」

 急いで扉まで向かい、僕はそれを開けた。
 すると驚いたような顔をしているロビンがいた。

「……」

 何故なのか、若干頬を朱くして、彼は視線を逸らした。そこで僕は漸く、自分がバスローブ姿だと気がついた。多分この格好が面白すぎて笑いを堪えているのだろう。なんだか恥ずかしくなりつつも、着替えがなかったので仕方ないと、僕は自分の思考を誤魔化した。

「……光栄です」

 それから一礼して、ロビンが入ってきた。
 ソファに促して、僕は、コップをもう一つ用意して、麦茶を差し出した。
 完全にこの城の気温は、真夏だ。

 いきなり冬から夏に変わったので、なんだか不思議な感覚だ。

「ええと、何か用ですか?」
「はい、お食事の用意が整っております」
「え、こんなに遅い時間なのにですか?」
「? 魔王様のご命令と有れば、いついかなる時でも、私どもは従わせていただきます」
「はぁ……」

 魔王って凄いんだなと僕は改めて思った。

 ただ、空腹を感じていないことが何とも申し訳ない。いやしかし、目の前に美味しそうな食べ物があったら、きっと僕は食べると思う。

「ダイニングにご案内する前に、ご希望の肉類を伺いに参りました」
「有難うございます」
「人間、エルフ、魔獣のどれが宜しいですか?」
「――は?」

 僕は思わず目を見開いた。エルフだの魔獣だのは、きっとファンタジックな存在だろうと思う。だが僕の僅かなファンタジー知識的に、エルフとは人間とそんなに変わらない、耳がとがった人々なのだろうと思う。それより、選択肢に、人間が入っている。

「魔族って、人間を食べるの?」
「娯楽ですので、食べる者はそれなりにいます」
「嘘……ロビンも食べるの?」
「いいえ。私は食べません」
「良かった……え、だけど、鶏肉とか豚肉とか牛肉とか魚とかは食べないんですか?」
「それらは下層の魔族が食す物ですので、とても魔王様のお口には……」
「いや、あの、全然そっちを食べたいです」
「承知しました。何が宜しいですか?」
「……ええと、じゃあ、豚肉で」

 僕がそう答えると、ロビンは、ブツブツと呪文らしき物を呟いた。

「手配いたしました。それではご案内いたします」

 ダイニングまでは、三十分ほどかかるという。どれだけこのお城は大きいんだろう。

「あの、ロビン?」
「なんでございましょう」

 歩いている間ひたすら無言なのも気まずかったので、僕は、残りの疑問を聞いてみることにした。

「どうしてこのお城には、窓がないんですか?」
「勇者や魔王位を狙う不届き者から魔王様をお守りするため、地下に建設されているからです。この場所は、宰相閣下と、城の内部にいる者、他には少数の貴族しか知りません」
「――勇者?」
「ええ。前の魔王様も、勇者に倒され、お亡くなりになりました。嘆かわしいことです」

 ロビンはそう言うと、溜息をついた。


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