魔王の求める白い冬

猫宮乾

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*** 過去:Ⅰ ***

【024】過去――魔王一日目⑧

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「私は直接お会いしたことはないのですが」

 それはまぁ、前の魔王がいつ亡くなったのかは分からないが、四千年以上も前魔王歴が続いていたのだから、会ったことが無い方が自然に思えた。普通寿命は百歳くらいだ。

「シモン様やワース様は、前魔王様の腹心の部下だったと聞いております」
「え?」

 それって凄い長生き、を通り越して、ちょっとあり得ない年齢なのではないかと、僕は驚いた。

「あの二人は、おいくつなんですか?」
「詳細は分かりません。申し訳ありません。ただお二人とも二千歳以上です。前の魔王様が亡くなったのが、丁度二千年年程前だと聞いておりますので」
「魔族って寿命が無いんですか?」
「基本的には、ございません。自然より、唐突に産まれるのが魔族です。ただし怪我や病を患えば、死にます。またかなり緩やかではありますが、老化も致します」
「そ、そうなんですか。え、ロビンはいくつ?」
「五十歳程度です。まだまだ若輩者です」

 どこからどう見ても二十代にしか見えないというのに……僕は呆気にとられるしかない。まだまだ知らないことばかりだ。

 そうしてダイニングへと入ると、そこには白いテーブルクロスが掛けられた、細長いテーブルがあった。映画などで見たことがあるような代物だ。燭台には火がともっている。

「うわぁ……」

 用意されていたのは、かなり大きい豚肉の丸焼きと、見たことのない葉っぱの集合体――恐らくサラダのようなものなのだろう品と、紫色のスープだった。見ただけで食欲が失せた。しかし、もしかしたら美味しいのかも知れない。

 僕は、案内された席に座り、ナプキンを膝の上に置いた。ナイフやフォーク、スプーンなどは、日本で使っていたものと全く同じだった。箸もあるのだろうか?

 それから僕は恐る恐るスープを飲んでみた。
 そして吹き出した。
 とんでもなく不味かった。ボディーソープを飲んだら、きっとこんな感じなのだと思う。


【025】過去――魔王一日目⑨


「お気に召しませんでしたか?」

 ロビンが僕にタオルを差し出してくれる。
 それで口元を拭いながら、僕は曖昧に笑った。

 次に豚の丸焼きを小さく切り分けて、一口食べた。味がしなかった。しかしこれはまだ、食べられる。最後に葉っぱを食べると、雑草を噛んでいる感じで、こちらも味がしなかった。もう一度豚の丸焼きを口に含み、なんとか舌を紛らわせる。

「すみません、折角用意していただいたんですが、残してもいいですか?」
「ええ、構いません。お口に合わなかったのでしたら、すぐにシェフを処刑いたしましょうか?」
「へ? いや、処刑とか止めて下さい!」
「――魔王様の御心の広さに、私は正直、感動いたしております」

 僕の言葉に、首を傾げるようにして、ロビンがそう言った。

「え、僕は普通だと思うけど」
「前魔王様は、気にくわないことが有れば、即座に処刑していたと聞いております……あ、た、大変失礼いたしました。比較するようなことを申しまして……」
「いや、全然大丈夫です……ただ僕は、処刑とかはちょっと……それが魔王の仕事だとしても、多分出来ないです……それと人間とかも食べられないです」

 魔王業とは案外大変なのではと、僕は憂鬱な気分になった。

「承知いたしました。全ては魔王様の御心のままに。魔王様のお言葉には、何でも従いますので」

 しかしロビンがそう言ってくれたので、僕は安堵しながら、立ち上がった。

 それにしても、飲み物は比較的美味しかったというのに、この食事、なんとかならないものだろうか。

「……本当に従ってもらえるんですか?」
「勿論です」
「それじゃあ明日、買い物に付き合っていただいても……?」

 僕は自称神様にお金も頼んだので、きっと買い物が出来ると思う。

「承知しました。ただ、何かご入り用のものがあるのでしたら、お申し付け頂ければこちらで用意いたしますが」
「外のことも何も知らないし、勉強がてら自分自身の手で買いたいんだ。駄目ですか?」

 だってそうしなければ、僕が望む食材が買えないと思うのだ。
 例えば肉を頼んで、食用の人間などを買ってこられても困る。

 僕は、明日になれば本気で空腹になるかも知れないから、なんとしても食物だけは、食べられる物を作らなければと決意していた。

 これが、僕の手による改革じみた行いの始まりだった。



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