32 / 84
*** 過去:Ⅰ ***
【033】過去――魔王二日目⑧
しおりを挟む
「ただし魔王様に余計なことを吹き込まないで下さい」
そう言うと、ロビンが歩き出した。
「ほら魔王様もちゃっちゃと歩く!」
「あ、はい!」
「うーん。魔王の心得その一は、あれだな。この城にも、《ソドム》にも、お前より下の立場の魔族しかいないんだから、敬語をやめろ」
「え」
「魔王様に敬語を使われる方が心臓に悪い奴も沢山いると思うがねぇ」
そう言うものなのかと思いつつ、僕は歩いた。
それから暫く歩くと、僕の部屋ではなく、豪奢な本物の応接間へと辿り着いた。
ふかふかのソファに座った僕は、正面で膝を組み、両腕をソファの背に回してくつろいでいるバルバトス侯爵さんを眺める。
「喉が渇いたなぁ」
それを聴いて、僕が用意をしようと思っていたら、ロビンが先に声を上げた。
「すぐにお持ちいたします」
ロビンは僕の方をじっと見ていた。僕に用意させたくないとその瞳が語っているようだった。よく分からないが、ロビンは彼が嫌いなのだろうか?
それからメイドさんが、僕らの前に、それぞれジュースを置いてくれた。
「しっかしまた、メイガスとは大分印象が違う魔王様だな」
「メイガス?」
「前魔王。俺の悪友だった」
「え、バルバトス侯爵さんの?」
「バルでいい」
「何でそんなに若いんですか?」
「ほら、だから敬語禁止。若いかぁ……そりゃ、魔力量の違いだな。魔力が強ければ強いほど、老化は遅くなる」
「そうなんだ」
努めて敬語をやめ、僕は頷いた。
「メイガスの話、聞きたいか?」
「ちょっとだけ」
「貴方が話したいだけでしょう?」
ロビンがバルを睨め付けた。すると喉で、バルが笑う。
「まぁな。それで、メイガスだけどなぁ、そりゃぁもう、魔王らしい魔王だった」
「魔王らしい魔王?」
「気にくわない奴はその場で殺した。魔族も人間も。アイツの恐怖政治で、荒れ狂ってた魔族達も、秩序を取り戻した。俺みたいに常に理性がある魔族からすれば、喜ばしいことだったな。実際アイツが勇者に倒された後から、魔族の多くはまた狂った」
「狂う?」
そう言えばロビンもそう言っていたなと思って僕は首を傾げた。
「例えば、人間を襲って戯れに殺したり、魔族同士で共食いしたり」
「!」
「血を飲むのを楽しんだり、殺すのを喜んだり――まぁこの二つは俺もたまにやるけどねぇ」
「……そ、そうなんだ」
「ま、俺の場合は趣味。狂ってる奴らは、抑えきれないらしいな。ただメイガスは、恐怖で、そいつらの意識を縛り付けて、一応まともにさせることに成功したんだよ。それに慣れた後は、誰もそう言うことはしなくなったんだけど、いなくなったらまたおかしくなっていった。だから――魔王様には期待してる」
「……」
僕には恐怖政治なんて出来そうにない。
楽しそうに笑っているバルを見て、僕は俯いた。
「自信がないんなら、俺を宰相にしろよ。代わりに、恐ろしい政治をしてやる」
「バル!!」
するとロビンが声を上げた。愛称で呼んでいる辺り、実は仲が良いのかもしれない。
「冗談だって冗談。誰がそんな面倒くさいことをやるかっていうの。前々魔王様の代で宰相やって、もう飽き飽きしてるんだよ、俺は」
「前々魔王様?」
そんなに長生きなのかと僕が首を傾げると、バルが頷いた。
そう言うと、ロビンが歩き出した。
「ほら魔王様もちゃっちゃと歩く!」
「あ、はい!」
「うーん。魔王の心得その一は、あれだな。この城にも、《ソドム》にも、お前より下の立場の魔族しかいないんだから、敬語をやめろ」
「え」
「魔王様に敬語を使われる方が心臓に悪い奴も沢山いると思うがねぇ」
そう言うものなのかと思いつつ、僕は歩いた。
それから暫く歩くと、僕の部屋ではなく、豪奢な本物の応接間へと辿り着いた。
ふかふかのソファに座った僕は、正面で膝を組み、両腕をソファの背に回してくつろいでいるバルバトス侯爵さんを眺める。
「喉が渇いたなぁ」
それを聴いて、僕が用意をしようと思っていたら、ロビンが先に声を上げた。
「すぐにお持ちいたします」
ロビンは僕の方をじっと見ていた。僕に用意させたくないとその瞳が語っているようだった。よく分からないが、ロビンは彼が嫌いなのだろうか?
それからメイドさんが、僕らの前に、それぞれジュースを置いてくれた。
「しっかしまた、メイガスとは大分印象が違う魔王様だな」
「メイガス?」
「前魔王。俺の悪友だった」
「え、バルバトス侯爵さんの?」
「バルでいい」
「何でそんなに若いんですか?」
「ほら、だから敬語禁止。若いかぁ……そりゃ、魔力量の違いだな。魔力が強ければ強いほど、老化は遅くなる」
「そうなんだ」
努めて敬語をやめ、僕は頷いた。
「メイガスの話、聞きたいか?」
「ちょっとだけ」
「貴方が話したいだけでしょう?」
ロビンがバルを睨め付けた。すると喉で、バルが笑う。
「まぁな。それで、メイガスだけどなぁ、そりゃぁもう、魔王らしい魔王だった」
「魔王らしい魔王?」
「気にくわない奴はその場で殺した。魔族も人間も。アイツの恐怖政治で、荒れ狂ってた魔族達も、秩序を取り戻した。俺みたいに常に理性がある魔族からすれば、喜ばしいことだったな。実際アイツが勇者に倒された後から、魔族の多くはまた狂った」
「狂う?」
そう言えばロビンもそう言っていたなと思って僕は首を傾げた。
「例えば、人間を襲って戯れに殺したり、魔族同士で共食いしたり」
「!」
「血を飲むのを楽しんだり、殺すのを喜んだり――まぁこの二つは俺もたまにやるけどねぇ」
「……そ、そうなんだ」
「ま、俺の場合は趣味。狂ってる奴らは、抑えきれないらしいな。ただメイガスは、恐怖で、そいつらの意識を縛り付けて、一応まともにさせることに成功したんだよ。それに慣れた後は、誰もそう言うことはしなくなったんだけど、いなくなったらまたおかしくなっていった。だから――魔王様には期待してる」
「……」
僕には恐怖政治なんて出来そうにない。
楽しそうに笑っているバルを見て、僕は俯いた。
「自信がないんなら、俺を宰相にしろよ。代わりに、恐ろしい政治をしてやる」
「バル!!」
するとロビンが声を上げた。愛称で呼んでいる辺り、実は仲が良いのかもしれない。
「冗談だって冗談。誰がそんな面倒くさいことをやるかっていうの。前々魔王様の代で宰相やって、もう飽き飽きしてるんだよ、俺は」
「前々魔王様?」
そんなに長生きなのかと僕が首を傾げると、バルが頷いた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ぼくが風になるまえに――
まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」
学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。
――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。
精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。
「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」
異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。
切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。
ダレン×フロル
どうぞよろしくお願いいたします。
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる