魔王の求める白い冬

猫宮乾

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*** 過去:Ⅱ ***

【046】過去――魔王一年目①

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 僕が魔王になってから、一年が経った。
 僕は三ヶ月ほど悩んだ末、半年前に、季節を作ることを決意したのである。

 最初は夏らしい暑い気候を利用して、サトウキビやら珈琲やらを作ってみようかとも考えていたのだが、人間の土地に出たことのあるというワースやシモンに聞いたところ、大陸の他の土地には、暑さと寒さが交互に巡ってくると知ったのだ。恐らく季節だと思う。

 だとすれば、それに合わせた方が、何かと苗を譲り受けるなど今後する場合があるかもしれないので、良いんじゃないかと思ったのだ。

 ――しかし。

「え、どうして?」

 僕は、桜の木を見上げながら、思わず眉を顰めた。
 夏は良い。最初から夏だった。
 その次には、無事に秋が巡ってきて、木々は紅葉で色づいた。

 だが……来るはずの冬が無く、桜が咲き、フキノトウが顔を出し、ツクシが伸びている現在である。冬がなければ、それらは咲かないはずだし、僕はちゃんと四季を想像した。

 なのにどうして、冬だけ抜けてしまったのだろう?
 雪が降るところを念じてみたが、何も起こらなかった。
 もしかするとこの世界には、冬はないのだろうか?

 ただ、冬が無くとも、問題なく植物は育っている。確かに、そこに問題がないのは、非常に助かる。だけど、冬がないというのが衝撃的すぎて、僕は動揺を隠せなかった。
ある意味で、初めての、魔術の失敗だったからなのかもしれない。

「どうかなさったのですか、魔王様」

 桜を見上げていると、ロビンが隣に立った。

「可憐な花ですね」
「うん……僕は、この花が好きなんだ」
「そうなのですか。何という花ですか?」
「桜だよ」
「サクラですか――……何か、悲しい思い出でもおありなのですか?」

 ロビンの言葉に驚いて、僕は隣を見た。

「どうして?」
「いえ、差し出がましいことを申しました。ただ、魔王様のお顔が悲しそうに見えたため……」

 確かに僕は、冬が来なかったことに思いの外動揺しているのかも知れない。
 けれどロビンの言葉に、自分が死んだ時のことを思い出していた。
 まだ桜の蕾が見て取れ、雪が残っていた、そんな季節だった。

 最も僕が事故にあった場所には、どちらもなかったけれど。学校付近は少なくともそうだった。もうすぐ春が来るはずだった、冬の頃合い。あれからもう、丁度一年経つんだなと僕は思った。

「悲しいわけじゃないんだ、ロビン。有難う」
「いえ」

 ロビンはそう言うと、手を伸ばして、薄紅色の花びらを一つ手に取った。
 それが雪みたいに見えた。
 無性に冬が恋しかった。

 あの白い世界が。


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