魔王の求める白い冬

猫宮乾

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*** 過去:Ⅱ ***

【047】過去――魔王一年目②

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 それから二人で城へと戻ると、僕はダイニングへと促された。

 中へと入ると、魔術の花火が至るところで上がった。
 何事だろうかと目を瞬かせると、満面の笑みでシモンが笑った。

「魔王様、一歳のお誕生日、誠におめでとうございます」
「あ……」

 そうか、一年が経ったと言うことは、僕はこの世界において、一歳になったと言うことだ。しかしまさか祝ってもらえるなんて思わなかったから、周囲を見渡す。

 まずは背後で、穏やかにロビンが笑っていた。
 果実酒の前では、多忙だろうにワースが立っていて、優しい顔でこちらを見ている。

「魔王様、自信作なんだ!」

 ばーんと料理に向かって手を指し示したのは、リクスだった。彼の後ろであきれ顔のシェフ長と、キラキラした瞳をしているサリア少年が見える。

 大勢の使用人達がいて、皆新たな花火を上げていた。

「有難う」

 思わずそう呟くと、リクスが料理を切り分けてくれた。
 僕はなんだか凄く幸せだなと思った。

 個人的には十九歳になった気分だったのだけれど、成長も止まっているようだし、実際にこの世界に転生してからは、一歳だ。まだまだ未熟者で、出来ることと出来ないことの区別すらついていないのではないかと思う。

 そんな僕についてきてくれるみんなのことが、本当に大切に思えた。

「本当に、有難うね」

 気づけば僕は、泣いていた。

 一生懸命何かしなければ、何かしたい、と思って張り詰めていたものが、プツンと途切れたような気分だった。僕は、一人じゃない。みんなが側にいてくれる。僕は、僕に出来ることを、精一杯頑張ろうと、再決意した。

「魔王様、ほら泣いてないで! 折角の料理が冷めちまう」

 リクスにそう言われ、僕は皿を受け取った。
 城の料理の味は、一年前とは大分違う。

 多分僕の好みに合わせてくれているのだと思う。反面、リクスが和食にこり出したというのも、意外な変化だった。サリアはパン作りにはまっていて、果物から酵母を作っている。シェフ長は、フレンチがお気に入りらしい。僕が魔術でレシピ本を出現させて、この土地の言葉に翻訳したのだ。

 まだまだ《ソドム》の識字率は低い。
 けれど城にいる人は、皆、文字が読めた。
 今年の課題は、水路の整備と学校の設置かな、なんて思う。

 今は氾濫しやすい川には、テトラポット――のような僕の想像物を置いて、更に防波堤を築いてあるだけなのだ。だけど、それらを作るという仕事で募集をしたら、城下街にいる魔族達は、生き生きと働いてくれた。この春からは、本格的な農耕と、出来れば酪農も始めたいと考えている。やりたいことは盛りだくさんだ。何処まで出来るかは分からないけど、僕には時間だけはたっぷりある。その点魔族や魔神というのは、便利だななんて考えた。

 料理の味を楽しみ、祝ってくれたみんなそれぞれと言葉を交わす。
 本当に嬉しかった。

 それから僕は、私室へと戻った。

 ゆっくりと寝台に横たわり、僕は枕に頭を預けて、シーツを掛けた。
 この一年――多分、色々なことがあったのだけれど、色々なことが有りすぎて、一つ一つが濃密で新鮮で、きっと僕は楽しかったのだと思う。

 僕は、みんなの役に立てただろうか?

 みんなに、良くしてくれたみんなに報いることが出来たのだろうか?

 僕はまだまだ力のない魔王だけれど、それでもこの《ソドム》の地を良くしたいと願っている。それだけは、間違いなく本当だ。本心だった。


 ――ああ……だけど、どうして白い冬は来なかったのだろう?


 それ以後も、何年経とうとも、《ソドム》に雪が降ることはなかった。


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