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―― 第三章 ――
【048】日差し
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朝の日差しの中、僕は目を覚ました。
白いレースのカーテンから、光が漏れてくる。僕は後何度、朝を迎えるのだろう。上半身を起こして窓の外を見れば、穏やかな初夏の光に溢れていた。緑の木々には、小鳥が止まっている。この土地の風景は、美しい。そう思うくらいの感性は、僕にも残っている。
見慣れた城の窓とは異なる外。
ぼんやりとそれを見据えていると、扉をノックされ、振り向いた時には勇者がそこに立っていた。
「起きていたのか」
「うん」
「朝食だ。食べたら、すぐに発つ」
簡潔にそれだけ言うと、オニキスは部屋を出て行った。
階段の軋む音が響いてくる。
魔神である僕には、食事は必要ないという暇もなかった。今僕はお金には困っていないけれど、旅をしていくと言うことは、それなりに節制していかなければならないだろうから、僕の分の食費は削った方が良いんじゃないかと思う。旅をしたことがないからよく分からないけど。
魔術で身支度を調えてから、僕は階下にある食堂へと向かった。
机に突っ伏して魔術師のフランが、半分寝ていた。
神官のルイは、すっきりした顔をしている。
「おはようございます、アルトさん」
昨日までとはうって変わって、何かが吹っ切れたのか、ルイが明るく挨拶してくれた。
「はよ」
フランが目を擦りながら言う。
「あ、フランは朝に弱いんですよ。夜型だから」
そんな説明を聞きながら、僕はフードを被りなおし、静かに告げる。
「おはよう」
朝の挨拶は、魔族も人間も変わらないのだなと、一つ学んだ気がした。恐らくは、日本から召喚された勇者が、過去に広めたのだろうと思う。
「パンが柔らかいな」
既に朝食を食べ始めていたオニキスが、ポツリと呟いた。
確かに僕も最初に、魔王としてこの土地へやってきた時は、パンが固くて吃驚した覚えがある。
「それにこのジャム、凄く美味しい。それに、バター? チーズ? 旅に出る前に買いたいなぁ」
ルイがうっとりしたように呟いた。
僕はそれらを自然なものとして考えていたから、嘆息した。旅をすると言うのは、食生活が大変なのだろう。
「スープも美味い、なんだこれ」
漸く目を覚ました様子で、フランがスプーンを手に取った。
僕はぼんやりと彼らの食事風景を眺める。
「城の食事は兎も角、宿でもこのクオリティなのか」
オニキスの言葉に、僕は何度か瞬きをしながら俯いた。
昔から、決して昔からそうだったはずじゃない。だけど僕はもう、いつの間にか、これを自然なものとして考えるようになっていた。多分そうなるまでの間には、色々なことがあったのだと思う。なのに思い出せない自分が悲しかった。僕が忘れてしまったのであれば、それはそこに生きそこで死んでいったみんなのことも忘れてしまったと言うことだからだ。
「――食べないのか?」
オニキスに言われて、僕は顔を上げた。《ソドム》を発つ前最後の食事なのだからと、僕はスプーンを動かすことにした。
優しい味がした気がする。
白いレースのカーテンから、光が漏れてくる。僕は後何度、朝を迎えるのだろう。上半身を起こして窓の外を見れば、穏やかな初夏の光に溢れていた。緑の木々には、小鳥が止まっている。この土地の風景は、美しい。そう思うくらいの感性は、僕にも残っている。
見慣れた城の窓とは異なる外。
ぼんやりとそれを見据えていると、扉をノックされ、振り向いた時には勇者がそこに立っていた。
「起きていたのか」
「うん」
「朝食だ。食べたら、すぐに発つ」
簡潔にそれだけ言うと、オニキスは部屋を出て行った。
階段の軋む音が響いてくる。
魔神である僕には、食事は必要ないという暇もなかった。今僕はお金には困っていないけれど、旅をしていくと言うことは、それなりに節制していかなければならないだろうから、僕の分の食費は削った方が良いんじゃないかと思う。旅をしたことがないからよく分からないけど。
魔術で身支度を調えてから、僕は階下にある食堂へと向かった。
机に突っ伏して魔術師のフランが、半分寝ていた。
神官のルイは、すっきりした顔をしている。
「おはようございます、アルトさん」
昨日までとはうって変わって、何かが吹っ切れたのか、ルイが明るく挨拶してくれた。
「はよ」
フランが目を擦りながら言う。
「あ、フランは朝に弱いんですよ。夜型だから」
そんな説明を聞きながら、僕はフードを被りなおし、静かに告げる。
「おはよう」
朝の挨拶は、魔族も人間も変わらないのだなと、一つ学んだ気がした。恐らくは、日本から召喚された勇者が、過去に広めたのだろうと思う。
「パンが柔らかいな」
既に朝食を食べ始めていたオニキスが、ポツリと呟いた。
確かに僕も最初に、魔王としてこの土地へやってきた時は、パンが固くて吃驚した覚えがある。
「それにこのジャム、凄く美味しい。それに、バター? チーズ? 旅に出る前に買いたいなぁ」
ルイがうっとりしたように呟いた。
僕はそれらを自然なものとして考えていたから、嘆息した。旅をすると言うのは、食生活が大変なのだろう。
「スープも美味い、なんだこれ」
漸く目を覚ました様子で、フランがスプーンを手に取った。
僕はぼんやりと彼らの食事風景を眺める。
「城の食事は兎も角、宿でもこのクオリティなのか」
オニキスの言葉に、僕は何度か瞬きをしながら俯いた。
昔から、決して昔からそうだったはずじゃない。だけど僕はもう、いつの間にか、これを自然なものとして考えるようになっていた。多分そうなるまでの間には、色々なことがあったのだと思う。なのに思い出せない自分が悲しかった。僕が忘れてしまったのであれば、それはそこに生きそこで死んでいったみんなのことも忘れてしまったと言うことだからだ。
「――食べないのか?」
オニキスに言われて、僕は顔を上げた。《ソドム》を発つ前最後の食事なのだからと、僕はスプーンを動かすことにした。
優しい味がした気がする。
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