魔王の求める白い冬

猫宮乾

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―― 第三章 ――

【052】山脈の洞窟

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 丁度日が落ちた頃、都合の良い洞窟を見つけて、僕たちは野宿をすることになった。
 僕にとっては、初の野宿だ。

 二人一組で仮眠を取ることになり、残りの一組は、火の番と獣の襲来に備えることとなった。先に僕とオニキスが仮眠を取ったため、現在は二人で、夜更けの星空を見上げながら、火の番をしている。

 獣自体は、フランが結界を張ってくれているから、滅多に寄りつかないだろうとのことだった。それからフランが余っていたのだという杖を、一本僕に貸してくれた。杖を無しに魔術を使うと目立つらしい。

 夕食には、目玉焼きと厚切りベーコンを食べた。
 朝ご飯は、キノコのシチューだそうだ。

 旅とは中々豪華だなと思っていたら、街をたってすぐは豪華で、徐々に徐々に食べる物が少なくなっていくと聞いた。そうなったら今度こそ、僕は食べないようにしようと思う。それに僕は、基本的には眠るが、寝なくても魔術で体力を回復できるため、皆の疲労が溜まってきたら、一人でも寝ずの番が出来るようになりたいと考えていた。

「眠くないか?」

 その時不意にオニキスに話しかけられた。

「うん」
「――じゃあ、少し訊いても良いか?」
「なに?」

 僕が首を傾げると、座ったままオニキスが、こちらに向き直った。

「俺は、人間と魔族は、全く違う生き物だと考えていた」
「実際に違うんじゃない?」
「……じゃあ何故、さっき人間の村を助けたんだ?」
「命には代わりがないからかな」

 オニキスが何を訊きたいのか、僕にはよく分からない。
 勿論僕だって、僕がしたことなんて、ただの偽善だって事はよく分かっている。
 あの村一つ救ったからと言って、何が変わるわけでもない。

 そもそも救ったと考えること自体がおこがましいだろう。
 あれは結局、ただの僕の自己満足の結果だ。

「あの村をそのまま見過ごせば、お前が口頭で説明しなくても、魔王が討伐されてなお災害が起きると、周囲の街に知らしめることが出来た」
「ごめん……邪魔をして」
「いいや。見過ごしていたらと、今考えてもゾッとする。それでは、俺の故郷を滅ぼした奴らと何も変わらない。俺を勇者たらしめるために、村を滅ぼした《聖都》の人間と」
「そうかな」

 僕はたき火の炎を眺めながら、俯いた。パチパチと枝が燃える音がする。

「――どうしてお前は、そんな風に、寂しい顔をしているんだ?」
「え?」

 唐突に言われ、首を傾げた。思いの外、明るい声が出てしまう。なのに僕は、笑うことは出来なかった。

「アルト。お前は、正しいことをした。良いことをした。俺が保証する」

 オニキスはそう言うと、僕の方まで歩み寄ってきて、隣に腰を下ろした。

 それからゆっくりと頭を撫でてくれた。僕の方がずっと年上なのだから、なんだか気恥ずかしい気がした。誰かに頭を撫でられた記憶なんて、ほとんど思い出せない。

「俺はな、恐らく魔王を倒すことで、みんなを救いたいと思っていたんだ。そのはずだった」
「うん」

 それは正しいと僕も思う。

「だから、これから償いの旅をする中で、そしてお前に人間の世界を見てもらう旅の中で――救える人々がいたら、助けたい。協力してくれないか?」
「僕が?」

 僕に出来る事なんて、限られている。何も出来ないことの方が多いかもしれない。


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