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―― 第五章 ――
【073】月だけが見ていた、それを
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「俺は、お前が考えてるほど、綺麗な人間じゃない」
「え?」
「魔王だろうがそうじゃなかろうが、お前のことが好きなんだ。多分、最初から。月を見て泣いているお前に惹かれた、理由は分からない。ただ、自分の物にしたいと思った、一緒にいたいと思った。だから連れてきた。お前に世界を見せたいとか、何もかも、きっと全部口実だ。ただ俺が、一緒にいたかっただけなんだ」
オニキスの腕の力が強まり、目を伏せ涙を零したままの僕は、額を彼の胸に預けた。
「そもそも、だ」
「?」
「勇者が魔王を倒さなきゃならないなんて、誰が決めたんだよ」
吐き捨てるようにオニキスはそう言うと、溜息をついた。
「まぁ、それは追々探ればいいか。今のお前は、俺に倒されたことになってるんだしな」
「オニキス……」
「なんだ?」
「オニキスは、どうして僕の側にいてくれるの?」
「だから、初めてあった時から、俺の物にしたいって思ったからだって、さっきも言っただろ」
「――外見が好きって事?」
そう言えばそんな加護を貰ったのだったなと、また僕は思い出した。
「違う。泣いてる表情、何か苦しそうで、俺まで辛くなった。笑わせてやりたいって、そう思ったんだよ。旅をしていく内に、その想いはどんどん強くなってなぁ……多分俺は、アルトのことを幸せにしたいんだ、幸せだって感じて欲しいんだ。俺と一緒にいる時に」
そう告げ、苦笑するように、頬を持ち上げてから、オニキスが再び僕の髪を撫でた。
「お前はさ――さっき、無理だって言ってたけどな、俺と一緒にいて、俺を幸せにしてくれないか? 俺は、お前が側にいてくれるだけで、幸せになれる」
「オニキス、っ、あ、僕は、僕なんか――」
「なんか、じゃない。お前がいいんだよ、アルト」
そう口にしてから、オニキスが僕に触れるだけのキスをした。
「過去に何があったのか、俺は聞かない」
「……」
「アルトがいつか、話せると思った日に改めて聞く」
「……いいの?」
「ああ。だから、お前も『今』を見てくれ」
「っ」
「俺とのことを真剣に考えてくれ」
そう言うと、オニキスが更に腕に力を込めた。
「好きだ。好きなんだ」
「っ、オニキス」
「答えは急がないから」
苦笑しながら言い、オニキスは自分のベッドへと戻っていった。
呆然としながら、再び布団に体を預けて、僕は考える。
――好き?
――本当に?
ぐるぐると思考が回る。
何故、どうして? そんな思いが強かったから、先ほどのオニキスの言葉を思い出す。
泣いている表情に魅力を感じたと言っていた。
その理由が、そもそもよく分からない。
布団を頭までかけ、暗闇の中で、僕は自問した。
――なら、自分は?
己がオニキスのことが明確に好きなのか、分からない。
何せこの世界に来るまでも、もう大分年数が経つが日本にいた時すら、恋なんてしたことがなかったからだ。
ただ――いつか、殺して貰うわけであるとしても、オニキスが口にした通り、今だけを考えるのならば……多分、一緒にいたい。いたいのだ。そんな思いが許されるはずはないのに。
きっと、その気持ちは、恋という名前をしているのだろうと思った。
窓から差し込むそんな僕を、きっと月だけが見ていた。
「え?」
「魔王だろうがそうじゃなかろうが、お前のことが好きなんだ。多分、最初から。月を見て泣いているお前に惹かれた、理由は分からない。ただ、自分の物にしたいと思った、一緒にいたいと思った。だから連れてきた。お前に世界を見せたいとか、何もかも、きっと全部口実だ。ただ俺が、一緒にいたかっただけなんだ」
オニキスの腕の力が強まり、目を伏せ涙を零したままの僕は、額を彼の胸に預けた。
「そもそも、だ」
「?」
「勇者が魔王を倒さなきゃならないなんて、誰が決めたんだよ」
吐き捨てるようにオニキスはそう言うと、溜息をついた。
「まぁ、それは追々探ればいいか。今のお前は、俺に倒されたことになってるんだしな」
「オニキス……」
「なんだ?」
「オニキスは、どうして僕の側にいてくれるの?」
「だから、初めてあった時から、俺の物にしたいって思ったからだって、さっきも言っただろ」
「――外見が好きって事?」
そう言えばそんな加護を貰ったのだったなと、また僕は思い出した。
「違う。泣いてる表情、何か苦しそうで、俺まで辛くなった。笑わせてやりたいって、そう思ったんだよ。旅をしていく内に、その想いはどんどん強くなってなぁ……多分俺は、アルトのことを幸せにしたいんだ、幸せだって感じて欲しいんだ。俺と一緒にいる時に」
そう告げ、苦笑するように、頬を持ち上げてから、オニキスが再び僕の髪を撫でた。
「お前はさ――さっき、無理だって言ってたけどな、俺と一緒にいて、俺を幸せにしてくれないか? 俺は、お前が側にいてくれるだけで、幸せになれる」
「オニキス、っ、あ、僕は、僕なんか――」
「なんか、じゃない。お前がいいんだよ、アルト」
そう口にしてから、オニキスが僕に触れるだけのキスをした。
「過去に何があったのか、俺は聞かない」
「……」
「アルトがいつか、話せると思った日に改めて聞く」
「……いいの?」
「ああ。だから、お前も『今』を見てくれ」
「っ」
「俺とのことを真剣に考えてくれ」
そう言うと、オニキスが更に腕に力を込めた。
「好きだ。好きなんだ」
「っ、オニキス」
「答えは急がないから」
苦笑しながら言い、オニキスは自分のベッドへと戻っていった。
呆然としながら、再び布団に体を預けて、僕は考える。
――好き?
――本当に?
ぐるぐると思考が回る。
何故、どうして? そんな思いが強かったから、先ほどのオニキスの言葉を思い出す。
泣いている表情に魅力を感じたと言っていた。
その理由が、そもそもよく分からない。
布団を頭までかけ、暗闇の中で、僕は自問した。
――なら、自分は?
己がオニキスのことが明確に好きなのか、分からない。
何せこの世界に来るまでも、もう大分年数が経つが日本にいた時すら、恋なんてしたことがなかったからだ。
ただ――いつか、殺して貰うわけであるとしても、オニキスが口にした通り、今だけを考えるのならば……多分、一緒にいたい。いたいのだ。そんな思いが許されるはずはないのに。
きっと、その気持ちは、恋という名前をしているのだろうと思った。
窓から差し込むそんな僕を、きっと月だけが見ていた。
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