魔王の求める白い冬

猫宮乾

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―― 第五章 ――

【074】《学都:セントジョーンズワート》

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 翌日からも旅を続け、僕は初めて、都へと足を踏み入れた。
 最後に泣いて抱きしめられて以来、僕とオニキスは、通常通りの関係に戻ったのだと思う。

 オニキスは必要以上に僕には触れないし、元々僕から触れることなど無かった。
 ――ここは《学都:セントジョーンズワート》である。

 人間の世界で一番巨大な図書館があると聞いていた。
 街へと門を潜ってはいると、目につく正面の中央には、巨大な噴水があった。

 灰色の煉瓦で構成された街並みは、何処か繊細さを持っているのに、優雅だ。現状の年代から鑑みても、決して古くさくは思えない。

「……何処か、行きたいところでもあるのか?」

 久方ぶりに、事務連絡以外の言葉をオニキスが放った。

「え、僕、この街――学都の事を、あんまり知らないから……でも、図書館には行ってみたいんだ」

 僕がそう言うと、杖で肩を叩きながら、フランが、遠くへと視線を向ける。

「俺は、〝魔術師の塔〟に顔出してくるわ。一応あのジジイ……俺の恩師がまだいるはずだから」
「僕は、宿を取ってから、最寄りの教会に挨拶してきます」

 ルイはそう言って朗らかに笑うと歩き始めた。手を振り、フランも歩いていく。
 残された僕は、オニキスを見上げた。

「オニキスはどうするの?」
「特に用事は無いな」
「じゃあ、街の観光とか?」
「……お前についていったら迷惑か?」
「え、あ、いや、そんな事はないけど……」

 最近二人きりになることなどほとんど無かったから、緊張してしまう。
 だが、そのまま二人で、図書館へと出向くことになった。



 流石は《学都》の図書館だけあって、広い館内には、数多の書籍が並んでいた。
 独特の紙の匂いに、なんだか頬が緩んでくる。

「本が好きなのか?」

 オニキスに聞かれ、僕は顔を上げた。

「嫌いじゃないけど、どうして?」
「……アルトの笑顔を久しぶりに見た」

 果たしてそうだっただろうかと考えたのだが、僕は思い出せなかった。

「どんな本が好きなんだ?」
「歴史書かな」
「歴史書?」
「最近では、全部倒されてきたのは僕なのに、一回一回違う性格の魔王として書いてあるんだ」

 苦笑しながら僕が告げると、オニキスが溜息をついた。それから、不意に目を瞠った。

「お前の前にも、魔王はいたのか?」
「うん、そう聞いてるよ」

 答えながら、僕もまた、気がついたことがあって息を飲んだ。

 神様は、一人だけ、現在では魔術師に転職した魔王がいると言っていたが、他の魔王は恐らく皆倒されているのだ。そうだと思う。だとすれば、皆が〝本物〟の勇者に巡り会い、倒されたのだろう。

 ――では、魔術師に転職した魔王に対峙するための勇者はどうなったのだろう?

 そして同時に思い出した。

 あの時神様は言っていた。僕に心から愛する人が出来た時、僕は死ねるようになるのだと。多分僕は、オニキスの胸の中で心が騒いでから、ここに来るまでの間に、相応に彼のことが好きになっている。ならば、ならばだ。
僕は、オニキスに恋をしても構わないのかもしれない。

 それもまた、それでもまた、僕は死ぬことが出来るのだ。


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