魔王の求める白い冬

猫宮乾

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―― 第五章 ――

【075】心からの愛と死

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 だけど、心から愛して、一緒にいたいと思うという事が、どういう事なのか、いまいち僕には、まだ分からない。そんなの未知の感情だ。

 ただ――好きになっても構わないのだと、その時許された気がして、気がつけば、心臓が早鐘を打った。

 でも、だ。オニキスは返事を急がないとは言っていたが、本当にまだ僕を好きだと言ってくれるのだろうか。ここのところ、特に何もない。

 多分僕は、初めての恋心をどうしていいのか分からないのだ。

 僕の堕とされたこの世界であれ、最早記憶が曖昧な日本の世界であれ、それだけは僕には経験がない。けれど僕なんかが、勇者であるオニキスの隣に、いて良い理由が、何よりも思いつかない。そこにはきっと、僕の居場所なんて無いのだ。

 頭を振ってそんな思考を打ち消した。

「――オニキスは、本が好きなの?」

 着いてきたのだからきっとそうなのだろうと思い、僕は顔を上げた。

「まぁな」
「どんな本が好き?」

 僕の言葉に、今度は俯きがちにオニキスが言った。

「――冬が舞台の本なんだ」
「冬?」

 その声に、ドクンとまた鼓動が音を立てた。

「不思議なもので、俺はよく、冬の夢を見るんだよ。雪が降りしきっていて、俺はその時どうしようもなく大切なモノを、失って、嘆いているんだ。だが現実には、そんな過去なんか無いんだよ。ただその夢を見る度に、俺は苦しくなって、飛び起きる」

 オニキスはその時笑っていたのに、本当に苦しそうな顔をしているように見えた。
 今度は冬だとか雪だとか、そんな単語ではなくて、その表情に僕は辛くなった。

「だから、俺もお前と一緒に雪が見たいんだ。アルトと一緒に冬を過ごしたい」

 それからオニキスが僕を見て、微笑んだ。
 多分僕は、オニキスの笑っている顔が好きなんだと思う。

 なのに何故なのか、逆に僕は泣きたくなってしまった。どうしてそんなに切ない顔をするのだろう。僕に出来ることは何か無いのか。胸がじくじくと痛み出し、唇を気づけば噛みしめていた。

「そうしたら、俺は失った何かを、現実でも見つけられる気がするんだ。お前と一緒なら」
「僕にはそんな力なんて無い」
「いいんだ、ただ側にいてくれればそれで」

 人気のない一角に立っていた僕達は、気づけばじっと見つめ合っていた。
 僕は少しだけ上を向いていて、オニキスの金色の瞳を見据えた。
 強い眼差しが返ってくる。

「――そんな顔をするなよ」

 オニキスが、泣きそうな顔で笑ってから、僕の頭を静かに撫でてくれた。
 僕こそ、そう言いたかった。だけど、上手い言葉が見つからない。

「キスしたくなる」

 響いたオニキスの声を認識した瞬間には、抱きしめられていた。


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