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―― 第五章 ――
【077】僕のせいで。
しおりを挟むそれ以降だった。
オニキスの些細な表情変化を見る度に、僕は何か伝えたくて慰めたくなって、だけど結局何も出来なかった。
《学都》での日々を数日過ごし、旅を再開してからというもの、一々僕は、オニキスの表情が、顔色が、気になって仕方が無くなった。
それは今まで以上であり、初めての心境であり、感情だった。
これが――恋人となることなのだろうか?
僕にはそれがよく分からない。
ただ、それでもだけど。
やっぱり恐らく僕は、恋をしているのだろうと、最近では実感しつつある。
一体何処を好きなのかと聞かれることが在れば、恐らくは上手く答える事なんて出来ないのだろうけれど。僕には契機なんて、何一つ無かったから。
――ただ優しくしてくれたからなのか。
――好きだと言われたから、意識して貰ったからなのか。
――あるいは死ぬために、愛する者を見つけなければならないと考えているからなのか。
何一つ僕には分からない。
足がすくむように、いつだって、途惑ってばかりだった。
「やっぱり都で一息つくと落ち着くよな」
旅を再開して直ぐに、フランがそんな事を言った。
「魔族の危険もありませんしね……っ、あ、その」
頷いてからルイが、気まずそうに僕を見た。
ふるふると首を振り、気にしていないと微笑して見せた。僕のそんな様子に、安堵するようにルイが嘆息する。
――その時のことだった。
「俺と、アルトは付き合うことになった」
不意にオニキスがそう告げた。
するとフランとルイが目を見開いた。まさかこんな風に告げられるとは思っていなかったし、恋人同士とは付き合っていると言うことになるのだと、僕は漸くその時悟って、ハッとした。
「――そうか。え、いつから?」
「昨日だ。学都の図書館で」
「じゃあ今夜はお祝いですね」
三人のそんなやりとりを、まるで僕はこの場から乖離してしまったように、聞いていた。
自分が此処にいることに、壮絶な違和感を覚えた。
「大切にしてやれよ、お互いな」
フランが右側の口角を持ち上げて笑うと、左肩を杖で叩いた。
「僕は正直、オニキスの片思いで終わるかと思ってました」
クスクスとルイが笑う。
そこに流れていたのは、平穏で温かい空気だった。
だが僕はいつかこの空間が失われるのだろうと、確信していた。
僕は勇者に消滅させられる運命にある。それがオニキスだったらいいと、恋人同士だと思えばなおさら感じるのだ。愛する人……多分、に、その手にかけられて、死ねるのならば、どんなに幸せなのだろう。
後は僕が死にたくないと、ずっとオニキスと一緒にいたいと、この胸の煩い動悸を昇華させれば、いつでも死ねるようになるはずなのだ。
また、そうなれば、別に誰の手にかからなくたって、自殺だって出来るようになる。
――ただ、僕はこの旅を始めてから、多分贅沢になっていると思うのだ。
もう少しだけ、もう少しで良いから。
みんなと一緒にいてみたいだなんて、そんな事を考えるようになった。
人間では無くなった僕だけれど、それでも、人間関係を構築し、時に笑うようなそんな空間を知りたいだなんて思うのだ。
日本で生きていた嘗てはそれが上手くできなかった現実がある。
僕は、人見知りのコミュ障で、何一つ見ては居なかったのだ。
長い時を生きてきて、それだけは、少しだけ学んだように思う。きっと側にいてくれたロビンが、教えてくれたのではないかと思うのだ。
だからロビンに僕が死んだ時のために、魔術で残した手紙が届く前に、もう少しだけ、この生を楽しんでみたいと思った。そんな感覚、初めてだった。
僕は、此処にいても良いのだろうか。許されるのだろうか。
今でも頻繁にそれを考えるのだけれど、そんな事すら考えないように、自分を許容してくれる彼等の存在が嬉しくてならない。いつだって涙がこぼれそうになる。
僕には幸せを甘受する資格など無いはずなのに、なのに、なのにそれでも、一緒にいてみたいと我が儘なことに思ってしまうのだ。
僕は人――魔族をいっぱい死なせてしまったのに、僕のせいで。
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