魔王の求める白い冬

猫宮乾

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―― 第五章 ――

【078】恋人

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 僕は、僕が魔王であるせいで、《ソドム》に置いて数多の者を死なせてしまった。
 直接的にではなく、間接的であるにしろ、やはりそれは、きっと僕の責任だ。

 本来であれば、そんな僕がこんな幸せな空間にいて良いはずがないし、ましてや恋などしてはならないし、恋人なんて作ることなどおこがましい。

 次の街に着くと、フランとルイがふらりと出かけた。
 僕とオニキスは、噴水の前に置き去りにされて、再び二人きりになった。

「言ってもよかったか?」

 するとオニキスがそんな事を言った。僕には、何が正解か何て分からない。

 ただ――少なくとも、オニキスに恋人だと思ってもらえていると勧化れば、胸が痛いほど疼くのだ。

「……うん。ただオニキスが、僕なんかと付き合った過去があると知られることは、余りよくないかもしれない」
「過去? 過去になんかする気はない。俺はずっとお前と一緒にいる」

 ずっと。そんな事は有り得ないと僕は良く知っていたから、苦笑してしまった。
 僕は、果たしていつまで彼と一緒にいられるのだろう。

「それとも、俺が一緒じゃ嫌か?」
「そんな事無いよ」

 僕らがそんなやりとりをしていると、フラン達が戻ってきた。
 両手には、紙袋が抱えられている。

 それから宿へと向かうと、二人が紙袋から、酒やツマミを机の上に並べていった。

「今日は、オニキスとアルトの幸せを願って乾杯」

 フランが楽しそうに笑ってそう言うと、オニキスとルイが酒の浸るグラスを傾けた。
 慌てて僕も、グラスを持つ。
 硝子同士が重なって高い音を立てた。

 様々なチーズやサラミが並んでいる机の上を見据えながら、僕は一口お酒を飲んだ。

「で、オニキスの何処に惚れたんだ?」
「え、あ」

 フランに聞かれると、途端に羞恥が募ってきて、僕は上手く答えられなかった。

 それから、フランとルイが部屋に戻るまでの間、散々僕は質問攻めにされて、困りながら、酒の性で頬が熱いのか、それとも恥ずかしくて、頬が熱くなっているのか分からなくなった。二人が自分達の部屋へと帰り、オニキスと二人きりになった頃には、既に日付が変わっていた。


「――アルト」

 先に風呂に入ったオニキスに、僕は髪をタオルで拭きながら、声をかけられた。

「何?」
「髪を拭いてやるから、こっちに来いよ」
「べ、別に良いよ」
「恋人が、風邪を引いたら困る」

 続いたオニキスの声に、恋人同士とはそう言うものなのだろうかと考えて、僕は静かに歩み寄った。すると寝台の上へと腕を引かれ、僕は転ぶようにして、崩した正座のような状態で、寝台の上に座った。

 僕からタオルを受け取ったオニキスが、髪を拭いてくれる。
 なんだか気恥ずかしくなって、僕は俯いた。

 そうして暫く大人しくしていたら、オニキスがタオルを投げたので、僕は櫛を取り出した。

 静かに髪を梳いていると、苦笑するようにオニキスが嘆息した。

「なぁ」
「何?」
「良い香りがする」
「同じシャンプー使ってるのに?」

 僕が首を傾げてから、櫛をサイドテーブルに置くと、その瞬間腕を引かれた。

「っ」

 そのままオニキスの上へと僕が倒れ込むと、無理矢理位置を反転させられて、オニキスが、気づけば僕の真上にいた。

「お前が欲しい」
「え?」

 恋人同士になったのだから、一応僕はオニキスのものであるのではないかと考える。
 そうして首を傾げていると、首筋に、唇が振ってきた。

「ッ」

 驚いて目を見開くと、切ない表情でオニキスが笑った。

「嫌か?」
「え?」

 意味が分からず困惑していると、唇に触れるだけの鱚が振ってきた。

「俺は、率直に言って、お前を抱きたい」
「……ッ!」

 瞬時に意味を理解して、僕は真っ赤になってしまった。

「駄目か? 嫌なら、我慢する」
「そ、その……」

 なんと答えればいいのか分からないまま、頬がただ熱くなっていく。

「やっぱり無理だ。我慢なんて出来るはずがないんだよ、もう」


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