魔王の求める白い冬

猫宮乾

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―― 第五章 ――

【082】《聖都:ローズマリー》

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 数日後、無事に目的地である《聖都:ローズマリー》へとつくと、そこは歓喜の声で溢れていた。それは全て、元凶たる魔王を対峙して戻った勇者一行への讃辞だった。

 そのまま、僕の存在も不思議に思われないまま、王宮へと連れて行かれた。

「よくぞ戻った勇者よ。魔王討伐を誇りに思う」

 人間の世界の国王がそう述べた。

 僕は王冠を眺めながら、頭にあんな重そうなモノをのせていて、首が痛くならないのかと首を傾げそうになる。

「これで平穏が訪れよう、娘の姫との婚姻を」

 国王の言葉に、しかし、勇者であるオニキスが首を振った。

「俺には既に愛する恋人がおりますので」

 誰だろう……僕はそう考えてから、思わず息を飲んだ。もしも僕のことだったらどうしよう。自意識過剰かもしれないけれど。

「それよりも」

 その時周囲に冷気と威圧感が漏れた。
 思わず僕ですら息を飲むほどの強い気配だった。

「――何故俺の家族――両親も妹弟を殺したのですか?」

 聖都の法王であり、この国の王である壮年の男はその言葉に頬杖をついた。

「誰からそんな嘘を吹き込まれたのだ?」
「嘘、ですか……」
「勇者オニキスよ。お前の村は、魔族が勇者を狙い襲撃して、災難にあったのだ。それが事実だ」

 僕は思った。
 全部僕の嘘だと思って、この場でオニキスが僕の首を刎ねてくればいいのだと。

 今では多分僕は、オニキスとずっと一緒にいたいと思っているから。
 だから、もう死ねるはずなのだ。

「――その通りだよ。君は今まで、魔族や魔王の戯れ言に騙されていたんだ」

 僕は精一杯、嘲笑を浮かべることに尽力した。

「馬鹿げた勇者だな、本当に滑稽でならない。さっさと魔王を殺せばよかったものを」

 そう告げ、僕は声を上げて笑った。
 ただそれだけが、僕がオニキスにしてあげられることだと思ったのだ。

「っ」

 すると息を飲んで、オニキスが僕を見た。相変わらず、その眼差しは強い。
 それから、スッとオニキスが眼差しを険しくする。

「彼は、人間が悪いとは一言も言わず、魔族の悪しき部分を糾弾してくれた大切な仲間です」

 その時国王に向かい、僕を一瞥してからオニキスが告げた。

「そうか。良い友を得たな」

 飄々と王は言う。

「友ではありません。私の愛おしい相手です」

 そう宣言したオニキスが、いきなり僕の腰へと手を回し抱きしめた。

「陛下、貴方の言葉が真であろうが否が、俺は構わない。ただ、コイツだけは、俺が貰う」

 その声に、国王が目を眇めた。

「……そうか。姫よりも、同性のそやつを選ぶというのか?」
「もう俺は貴方の指示を受けるだけの勇者じゃない。これからは、好きに生きる。邪魔をすれば、見ていろ――……この意味が分かるよな」

 言い切ったオニキスが、不意に僕の手首を掴んだ。

「行くぞ」

 そのまま彼が歩き出したものだから、僕は仰け反るように引っ張られ、玉座の間を後にするしかない。
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