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嘘はつけない
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「お疲れ様でした……っわ」
ドン! そんな効果音が似合うほどレジの上に大量の本が二列も積まれた。
「こ、今週も何か好きなものあった……?」
「はい。鹿川先生作の教師と生徒の恋愛物語が今度映画化されるとSNSで知りまして、買わねば! と思い全巻。ヤマガミ先生の後輩と先輩の純情小説シリーズが復刊されましたのでそれらを中心に十五冊です」
「毎度お買い上げありがとう……ございます」
「あ、全部カバー付きで」
「わっ分かりました」
せっせとバーコードを通し、奥の引き出しから大きさの違う紙を持ってくる。カバーの柄は一種類で、黄色の表紙に鉛筆と本が中央にプリントされていた。
(上手く出来ますように……)
未だカバー付けは緊張してしまう。真っ直ぐ折れているかとか、破れていないかとか不安になってしまう。
五冊目に入ろうとすると、息を吸い込む音が聞こえた。
「……変、ですか?」
「うん? 何が?」
手を止めないよう、耳を傾ける。
「根暗JKが大量のBL本と百合小説買うの」
声のトーンと顔がさっきよりも下がる。二つのつむじがよく見えた。
カバーを作ることに夢中になってそこまで気にしていなかったが、改めて表紙に目を向けると、
筋肉のついた男性が手ブラを恥ずかしがっていて、隣には女の子同士が手を合わせている表紙があった。
「変じゃないと思うよ」
日和と坂下を隔てる山積みの本を上から二冊取る。まだ彼女は俯いたままだ。
「好きなものをちゃんと楽しめるのって、凄く素敵だと思う。買い物している時の坂下さん、キラキラしてるよ」
本当のことだった。真剣に吟味する時もあれば、スマホを見つめながら顔に花を咲かせ、潔く本を選び終わる時もある。横顔をチラリと覗いてみれば瞳がキラキラと輝いており、微笑ましい。
それこそカバーを付け終わるのを待つ間も普段より目尻が下がっており、話しかけやすくなる。
坂下の刺々しい目は若干慣れないが、一人の本を愛する人の目はいつ見てもいい。
(本当に好きなんだろうな。両方好きな子も周りにいると思うんだけど……)
坂下が日和にはじめて声を掛けてきたのも、たまたま読んでいたBL本のタイトルが気になる、からだった。まさか二日後に「うちはSubです」と告白されると思いもしなかったが。
「……あっ、リガト、ござい……マス」
坂下が顎に下げたマスクを直し、おさげが上下に激しく揺れた。
「お待たせしました。これ、重いから気をつけてね。外まで持っていこうか?」
「いいです。自分で持てます」
「そう? こちら商品です」
「あの」
いくら毎週慣れた量でもさすがに重いのだろう。レジから出ようと背を向ければ「そうじゃなくて」と止められた。
「うん?」
「バレンタイン。ショコラで大丈夫ですよね」
今度は紫色のマフラーで口元を包んでいた。
「今年もいいの!?」
驚いていると「店長にもデスケド」
どうしてまだ片言なのかはわからない。
「わあ。去年のチョコ、凄く美味しかったから嬉しいよ。うん、僕は大歓迎だよ」
正社員のアラサー男に気を遣うバイト女子高生。文字にするとドン引きするが、気に掛けてくれる優しさが泣きそうなほど嬉しかった。
「わっかり、ました……。味に期待はしないでくだ……さい」
だが義理チョコとはいえ、二人分も用意するなんて。ありがたいどころでは済まされない。材料費もタダではないし、作るのだって大変なはずだ。
(坂下さんの彼氏さんは幸せだろうな)
本の片付けをしてる際、彼氏がいると聞いたことがあった。
自分なんかにも接してくれる坂下には絶対、幸せになってもらいたい。
「あと」
「ん? 買い忘れあった?」
風がドアを強く叩いた。店長に相談して奥の部屋で待機してもらう方がいいのかな、と思ったその時。
「う、うちは! BLとか百合が好きなのは素晴らしい物語だからで、リアルのホントはしょ、少女漫画みたいな恋が好きですから!!」
突然大声で伝えられた意味を理解する前に、「それでは失礼しました!」と逃げるように帰ってしまった。
「……お、お疲れ、さま? でした……?」
「んーー、青春だねえー」
「あ、店長、お疲れ様です」
ん、と伸びをしてる店長に挨拶をする。二階の倉庫から降りてきたのだろう。
「はい、お疲れー」
ポケットから袋に入ったチョコレートが出てきて、手に乗せられた。ミルク味と書いてある。
「糖分補給してもいいよ?」
「ありがとうございます!」
口の中に入れると甘い世界が広がり、疲れた体に染み渡る。
「去年はどんなお返しした?」
「ホワイトデーですね。キャラクターの缶に入ったクッキーにしました。好きなブタさんのキャラクターがいるみたいで。今も愛用してくれてこっちか有難い気持ちになりますね」
「クッキー……ね」
店長の指が唇から離れていく。タバコを辞めても癖は残っているのかもしれない。 店長の目は細まりどこか遠く見つめていた。
「……今年はちゃんと考えなくちゃね」
「そうですよね。今度は普段使い出来るものにします。店長はどんなーー」
「それで、樫クン。……今朝はどうしたのかな?」
アーモンドの瞳が僕を捉える。
煙の苦い香りが濃くなった。
ドン! そんな効果音が似合うほどレジの上に大量の本が二列も積まれた。
「こ、今週も何か好きなものあった……?」
「はい。鹿川先生作の教師と生徒の恋愛物語が今度映画化されるとSNSで知りまして、買わねば! と思い全巻。ヤマガミ先生の後輩と先輩の純情小説シリーズが復刊されましたのでそれらを中心に十五冊です」
「毎度お買い上げありがとう……ございます」
「あ、全部カバー付きで」
「わっ分かりました」
せっせとバーコードを通し、奥の引き出しから大きさの違う紙を持ってくる。カバーの柄は一種類で、黄色の表紙に鉛筆と本が中央にプリントされていた。
(上手く出来ますように……)
未だカバー付けは緊張してしまう。真っ直ぐ折れているかとか、破れていないかとか不安になってしまう。
五冊目に入ろうとすると、息を吸い込む音が聞こえた。
「……変、ですか?」
「うん? 何が?」
手を止めないよう、耳を傾ける。
「根暗JKが大量のBL本と百合小説買うの」
声のトーンと顔がさっきよりも下がる。二つのつむじがよく見えた。
カバーを作ることに夢中になってそこまで気にしていなかったが、改めて表紙に目を向けると、
筋肉のついた男性が手ブラを恥ずかしがっていて、隣には女の子同士が手を合わせている表紙があった。
「変じゃないと思うよ」
日和と坂下を隔てる山積みの本を上から二冊取る。まだ彼女は俯いたままだ。
「好きなものをちゃんと楽しめるのって、凄く素敵だと思う。買い物している時の坂下さん、キラキラしてるよ」
本当のことだった。真剣に吟味する時もあれば、スマホを見つめながら顔に花を咲かせ、潔く本を選び終わる時もある。横顔をチラリと覗いてみれば瞳がキラキラと輝いており、微笑ましい。
それこそカバーを付け終わるのを待つ間も普段より目尻が下がっており、話しかけやすくなる。
坂下の刺々しい目は若干慣れないが、一人の本を愛する人の目はいつ見てもいい。
(本当に好きなんだろうな。両方好きな子も周りにいると思うんだけど……)
坂下が日和にはじめて声を掛けてきたのも、たまたま読んでいたBL本のタイトルが気になる、からだった。まさか二日後に「うちはSubです」と告白されると思いもしなかったが。
「……あっ、リガト、ござい……マス」
坂下が顎に下げたマスクを直し、おさげが上下に激しく揺れた。
「お待たせしました。これ、重いから気をつけてね。外まで持っていこうか?」
「いいです。自分で持てます」
「そう? こちら商品です」
「あの」
いくら毎週慣れた量でもさすがに重いのだろう。レジから出ようと背を向ければ「そうじゃなくて」と止められた。
「うん?」
「バレンタイン。ショコラで大丈夫ですよね」
今度は紫色のマフラーで口元を包んでいた。
「今年もいいの!?」
驚いていると「店長にもデスケド」
どうしてまだ片言なのかはわからない。
「わあ。去年のチョコ、凄く美味しかったから嬉しいよ。うん、僕は大歓迎だよ」
正社員のアラサー男に気を遣うバイト女子高生。文字にするとドン引きするが、気に掛けてくれる優しさが泣きそうなほど嬉しかった。
「わっかり、ました……。味に期待はしないでくだ……さい」
だが義理チョコとはいえ、二人分も用意するなんて。ありがたいどころでは済まされない。材料費もタダではないし、作るのだって大変なはずだ。
(坂下さんの彼氏さんは幸せだろうな)
本の片付けをしてる際、彼氏がいると聞いたことがあった。
自分なんかにも接してくれる坂下には絶対、幸せになってもらいたい。
「あと」
「ん? 買い忘れあった?」
風がドアを強く叩いた。店長に相談して奥の部屋で待機してもらう方がいいのかな、と思ったその時。
「う、うちは! BLとか百合が好きなのは素晴らしい物語だからで、リアルのホントはしょ、少女漫画みたいな恋が好きですから!!」
突然大声で伝えられた意味を理解する前に、「それでは失礼しました!」と逃げるように帰ってしまった。
「……お、お疲れ、さま? でした……?」
「んーー、青春だねえー」
「あ、店長、お疲れ様です」
ん、と伸びをしてる店長に挨拶をする。二階の倉庫から降りてきたのだろう。
「はい、お疲れー」
ポケットから袋に入ったチョコレートが出てきて、手に乗せられた。ミルク味と書いてある。
「糖分補給してもいいよ?」
「ありがとうございます!」
口の中に入れると甘い世界が広がり、疲れた体に染み渡る。
「去年はどんなお返しした?」
「ホワイトデーですね。キャラクターの缶に入ったクッキーにしました。好きなブタさんのキャラクターがいるみたいで。今も愛用してくれてこっちか有難い気持ちになりますね」
「クッキー……ね」
店長の指が唇から離れていく。タバコを辞めても癖は残っているのかもしれない。 店長の目は細まりどこか遠く見つめていた。
「……今年はちゃんと考えなくちゃね」
「そうですよね。今度は普段使い出来るものにします。店長はどんなーー」
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煙の苦い香りが濃くなった。
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