きっかけとその先に

天井つむぎ

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躾られたい3

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 なんとかサキの姿が視認出来るまで起き上がり、シャワーの蛇口を捻ろうとすると、
『まだ手は洗わないでね。今度はそれを潤滑剤にするから』
「潤滑剤?」
 機械の動きを良くするあれだろうか。円滑に物事を進める時の人や物を指す場合もある。そもそもどこに使用するのか。たった一度の射精で熱に浮かされた目は、彼が微笑むのを捉えた。
『お尻に使うの 』
(今、なんて。お、お尻……?)
『そう、お尻。アナルって説明した方が分かる?』
「アナルなんて聞いた事ないです……」
『そっか。なら、お尻の穴。そこを弄るとさらに気持ち良くなるんだよ』
 通常の状態ならきっと「お尻の穴を弄るのは汚いですよ」と、口に出さずとも躊躇するかもしれない。
 ただ今の自分はまだ知らない快楽を求め、サキに褒められる気持ち良さを知っている。
「もっと……」
 生唾を飲んだ音がはっきり分かる。鼓膜も脳も震える。些細な反応すら見逃さなかったサキは頷いた。
『そう。もう、おちんちんだけじゃ足りないくらい……ね。気持ち良いところを沢山知ったら幸せになれるんだよ』
「幸せになれる」
『も、ち、ろ、ん~。鑑賞する私も幸せいっぱいになれるの』
 反芻する唇が止まる。
 サキもただ指示を出すだけじゃつまらないはずだ。日和は甘い誘惑に乗った。
「挑戦します」
『じゃあ、ソープを多めに足して……そう。それで、四つん這いになりながら私にお尻を見せて?』
 少し泡立つ両手をマットへつき、四つん這いになる。右手はもうにゅるにゅるで、力を込めなければすぐ滑りそうだ。
「見え……ますか?」
 彼の方にお尻を向けるだなんて破廉恥だと思う。
 しかし、『初心者の日和さんが持つ不安を取り除けたらいいな』と最もらしい理由をつけられ、戸惑った。アンダーケアまで配慮が行き届いていない場所だし、腹の次に肉の付きやすい部分だ。
『早く』
 急かす言葉に背筋がぞわりぞわり。意を決して己の汚いデカ尻を彼に向ける。屁を出さないように腹に力を入れた。
『うん。よく見えるよ、ぷりっもたっとした大きな尻だね。可愛い』
 サキは声の調子を下げるどころか、溶けたチョコのように甘くゆったりとした声色になった。
「あ……ありがとうございます……」
 他人に尻なんか褒めて貰ったことがない。高校の時、しゃがむなり制服のスラックスが破けたこともあれば、今でも机の角に当たってしまったり、一年前に購入したズボンが引っかかる大尻。
「サキさんに褒めて貰えると、自分の嫌いな部位も好きになれそうです」
『う、本心で言っちゃうんだもんなあ……』
「どうかしましたか?」
『……いや何も。それじゃあ、ぬるぬるとろとろの手でお尻の縁をなぞってみて?』
 右手を動かそうとすれば『一本だけでいいよ』と補足され、人差し指を尻の谷間に埋めた。とろりとした冷たい感触にビクッとしたが、それでも言われた通りになぞる。
(……ここがアナルか……)
 何度も行き来する間に、ふにふにのところが見つかった。己の排泄口なのに直に触れたことはない。
『そうそう、上手上手。良い子だね。もう一回ソープを足して……次は第一関節だけをゆっくり挿入するの』
「はいっ! う、いっ…!!」
 押し込めば割いたような痛みが走る。
『こらこら、ゆっくり。最初は馴染むようにちょっとずつね』
 痛いのは嫌だけど、丁寧に指示されたらもうやるしかなかった。
「う……っ、ぁ……」
 本の少しだけ入った。関節ともいえない先っぽが少しだけ。
『調子はどうかな?』
「熱くて柔らかい……? い、異物感があ……パンパンで、僕、あの……」
『便が出そう?』
(なんで……なんで……!? 僕、まだ何も言ってないのに……!)
 的を得た返しに、心臓の音が煩くなっていく。音は腹にも響き、どんどん下に行き──、
 ずぷん。
「うっ、あ…っ! あっ!!」
 第一関節まで挿入った。もともとの指が太いせいか、内側からの圧迫感がさらに強くなる。アナルを弄ることはこんなにも大変なのかと涙が出そうだ。
『日和さんは本当に頑張り屋さんだね。辛いのによく入れられたね』
「……ぁっ!!」
『頑張る日和さん、だーいすきだよ』
 (そんな、そんな褒め方をされたら……)
「つ、次は……どうし、たらいい……ですか? サキさん……っ!」
『……なら、指腹で押し広げるイメージで解して?』
 微弱な動きでくにくに弄ると、ぐちゅぐちゅした音が静かな浴室内に響く。オナニーする時と変わらない泡立つ音。開発しなかった場所を自分の手で行っている。
『そう……そう。そうだよ、良い子ね』
 恥ずかしい。恥ずかしいのに、サキにもっと褒めて貰いたい。
(いっぱい褒めてくれるサキさんにも幸せを届けられるなら)
「はぁ……っ、はっ、はぁ……」
 続けていたら、指と肛門の間に隙間が出来る。
(指をもっと入れるのかな?)
 もう指を進めてもいいと指示されるはずだ。先手を取り、さらに押し進めようとした時だった。
 ピンポーン。
──ずぼっ。
「はうっ……!?」
 第一関節よりも太くなった部分がナカに入ってきた。ナカはじんわりとした熱帯で、壁はデリケートな柔らかさ。本の少しでも暴れれば傷が残るのだと確信した。
 ピンポーン、ピンポーン。
「で、出ま……っ」
『そのまま、出し入れしてみて? ずっと抜いていたり、ずっと入れっぱなしじゃダメだからね』
「……っ!?」
 驚きだけで声が出なかった訳ではない。指を挿入したことの圧迫感、ゆっくり抜かなくてはいけない緊張さ諸々が混ざっていたからだ。
『どうしたの。無理そう?』
「あっ………」
 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
(サキさんにはチャイムの音が聞こえない?)
 この浴室を出た右は玄関だが、スマホ越しだから音を通しにくいのかもしれない。
(出なきゃ。出ないと変に思われる。多分、あれは……悠治君だ)
 出ないと。チャイムを連続で押すのは意地悪な行為ではなく、良心でやっている。いつからだったか。
(夜遅くに訪ねてきたことないのに……)
「で……、サキさ……」
 ずぷっ。
「うおっ、ひ……!?」
 尻に力を入れるとさらに指が進んでしまった。予期せぬ出来事に涙目になりつつ、プレイを一時中止して貰うよう乞わなければ。
 二人で決めたセーフワードが頭の中に過ぎる。食べ物ではない。自分の身を守るために使う言葉。
「い……、イき、た……」
『まだイッちゃだーめ。ほら、お尻をフリフリして、抜き出しして、アナルを開いてみせて?』
 伝わらない。それどころか言葉も上手く発することが出来ない。ナカにある異物感に苦しさが出てきてしまう。
 ピンポーン、ピンポーン……ドンドン、ドンドン!
『日和さん、自分では分からないかもしれないけど、雄っぱいからは白いとろとろの液体がぽとぽと落ちてきて、おちんちんからは精液の残りがタラタラと零れているんだよ?』
(そん、な……ぁ……!!)
 尻ばかりに気を取られていたが、確かにさっき弄ったところから漏れてる感じは絶えずあった。吹き出す汗かと思っていたが、変態過ぎる。
『新しく開発されるお尻にぷっくり乳首もちょこっとペニスも羨ましがっているのかな。もっと弄ってあげないとダメだよ。二つの部位も日和さんが弄んだところなんだからね』
 何より、いつも日和の気持ちを汲み取るサキが、意地悪ばかり言うのが信じられなかった。
(言わなきゃ、言わなきゃいけないのに……!!)
 尻を突き出すように胸で全身を支え、やっと顔を出した乳首と短小ペニスをもう片方の手で触れる。
「どっひも、えっちなお汁を溢れさせているっ。手が足りない……っ!」
 濡れた箇所を擦っただけで気持ち良い。アナルに入れた指がきゅうきゅう締まる。
 ドンドン、ドン、ドン!! ガチャ、ガチャ!!
 悠治に合鍵は渡していない。けれど、家主に相談なんてされたら──!
「さ、さきさ……っ」
 『──日和さん。私ね、ほら……日和さんを見てすっごく感じてるんだよ』
 布を取る音が背後から聞こえてくる。振り向こうとすれば『日和さんは集中して』と注意されてしまった。
『ほら、もう私のパンパンだぁ』
 布が擦れたり、粘着質な音が聞こえてくる。どうなっているのか目に焼き付けたい。けど見ることを許されない。サキにとてもいやらしいことをさせて、お預けを食らう自分にやきもきし、腕を使って片耳を押さえた。
『日和さんのナカに挿入れたいな』
 ドクンッ。
『このパンパンになったモノを日和さんのナカに挿入れてぐちゃぐちゃにしてあげたい。前立腺を乱暴に潰してあげてあなたを乱れさせたい。喘ぐことしか脳がない生き物にしてあげたい』
 絶えず耳から入るえっちな欲望。本当にあのサキが口にしているのだろうか?
(ナチュラルなピンク色をしたサキさんの唇……。柔らかくて、ふわふわしていて、いい匂いで、優しい言葉を言ってくれるあの人が……)
 ナカがキュンと締まり、指を離さない。その様子は咥えてるようで、彼の言葉に返事でもするかのように。
『優しいね、日和さんは。でもそれだと私、やめられないかも。一秒足りとも忘れられないほどたーくさん、私の存在を刻み込んであげて……孕ませちゃうかも』
 ドクンッ!
「うっぁ……あ……っ!!」
 指がようやく抜けてもアナルが開閉する。
 びゅ、るるるっ……!!
「はっ、はぁ……はっ……!! あ……っぁ……!?」
 びちょびちょ、しょああああっ……。
 勝手に片足まであげてしまい、射精だけでなく放尿まで披露した自分は、なんて醜く汚い生き物なんだろう。
「おし、おしっ……こぉ……!! いきたく、な……い!!」
 しょおおお……びちょ、びちょ……。
『見いひんといて……、あかっ。また漏らしてごめんなさ、気持ち良いっ……!』
 自分でも何を言ってるのか分からない。ただ、いつにも増して長く続き、最後の一滴が落ちる時には天井からの露なのか判断出来なかった。
「はぁ……っ、はぁ、はあっ………!!」
 両手と膝をつき、立ち上がろうとしても腰がくだけてふにゃりと寝転んでしまう。
 産まれたての子鹿。そんな状態だった。
『頑張ったね。良い子、良い子』
「はぁ……っ、はぁ……、は……っ」
 脱力感と疲労感に襲われ、意識がふわふわとしてきて瞼が重くなっていく。腰もひどく重い。
『初体験なのによくやったよ。私好みだった。これじゃあ、お手伝いと言うより躾に近いね』
(躾……。躾られたい。もっと、もっとサキさん好みに躾られたら……)
 脱力感と幸福感、疲労が体力のない体に広がる。舌が、へっ、へっ、と出た。犬の方がまだ愛らしい。
 アンモニア臭とイカくさい臭いが鼻に纏わりつく。
『……は……、たい……ね』
(なん、て……言ったんだろ……。も、気持ち良いいからいいや)
 日和は耐えきれず目蓋を閉じた。
 
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