きっかけとその先に

天井つむぎ

文字の大きさ
17 / 28

送信

しおりを挟む

「よーし、終わったあ~」
 腕を上げ、くん、と伸びをする。
 商品を売る為にはその商品を「良いものだと」分かって貰う必要がある。文房具の場合、試しに書けるサンプルを置いたりする。落書きをされていてもそれはそれだ。
「前よりは絵が上手くなった気がするな~!」
 レジ近くにある絵本コーナー用のPOPにクマを描いていた。左右目の大きさは違っていたが、練習したおかげかクマっぽく見える。これで小さな子達に泣かれなく済む。
「あと、一時間か」
 クマだらけのページを閉じようと時間を見ると約束の時間まで残り一時間を切っていた。
「……復習しておいた方がいいかな」
 新規のページを開き、単語を打っていく。漢字かどうか分からないので平仮名で検索すると、カタカナで出てきた。きっとこう読むんだろう。
 日和は基本的に物覚えが悪い。例えば仕事。中村書店現正社員の日和だが、元は高校時からのアルバイトだった。特にバイト初日はあれだけ「人偏はいらない中村だからね」と注意された癖に「中村」を「仲村」と間違えてサインする暗黒歴史を残した。正社員になった後は部数を間違えて発注し、零一つ多めの在庫を抱えた。バイトでも経験を積んだはずのブックカバー掛けも未だ苦手。
 隙間時間を使って、先日教えて貰ったアナルの勉強をした方がいい。
「有料の動画もあるのか……ん? 通販ページ?」
 動画サイトの一番下にある広告。声に出したら変に脳と手が反応し、あっという間に通販ページに飛ばされた。全体的にピンク色のデザインで「あなたは十八歳以上ですか?」と表示される。迷うことなく「はい」をクリックすると黒いボツボツとした突起の道具が出てきた。
「あ、これ。サキさんの部屋で見たオブジェとそっくりだ」
 どうやら前立腺を開発するために作られた大人の玩具のよう。
 サキの部屋では一つや二つではなく、三角馬を囲むように置かれ、印象的だった。忘れるはずがない。
「状況も状況だったから前立腺とか全く意識しなかったな」
 そういえば彼はアナルを弄ると気持ち良いことを事前に知っていた。経験者でなければ分からないだろうに。
 雪のような滑らかな肌にピンク色のリボンの下着が映え、床に設置したアレに向かって腰を下ろし……。
(何を考えてるんだろ、僕は……!!)
 すぐさま浮かんだ妄想を手でかき消す。彼はDomだ。
「でも……」
『私は赤ずきんの格好をした狼さん。ノンケな日和さんをパクパク食べちゃいたいと思います』
 サキはどんな風に喘ぐんだろう。いつも自分ばかり食べられては大声で喘いでたから、彼の嬌声はおろか快楽に溺れ堕ちた声を聞いたことがない。
 男性同士で性行為するとしたら、どのようにするんだろうか。代わりにアナルを使うんだろうか?
「サキさんはどっちをしたいのかな……」
 もし、サキDomがされる側を望むのなら日和Subは応えられるだろうか。昔の自分はノンケだったわけで。
「今夜話題に出したら不自然かな。……ん、アナニー初心者セット?」
 スクロールしていけば、黒袋のアブノーマルセット、ピンク袋の初心者セットというものがあった。
「とりあえず買ってみよう」
 サキとする時に役立つかもしれない。
 半分建前で、本音は『頑張ったね、復習して良い子だね』の言葉を心待ちしている。
 会員登録も済ませ、購入ボタンを押した直後、机から通知音が鳴った。
「あ、サキさんだ!」
 うさぎのアイコンが画面にスマホに表示され、新着メッセージがあります、とあった。急いで中身を確認すると土下座するうさぎスタンプが先に目に入った。
『ごめんなさい。今回は忙しいのでまた今度にしましょう』
「そ……っかぁ。サキさんも仕事忙しいですよね」
 とりあえず、「大丈夫です。お仕事頑張ってください」と送ってはみたが既読はつかなかった。
「仕事が多忙なだけ。今度出来るんだから!」
 心の中に発生した薄暗い重いモヤを弾き飛ばすくらい出した明るい声は、二十三時半の部屋に響いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。 Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。 抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。 しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。 ※Dom/Subユニバース独自設定有り ※やんわりモブレ有り ※Usual✕Sub ※ダイナミクスの変異あり

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

待てって言われたから…

ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~

Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい 俺だけに命令して欲しい 俺の全てをあげるから 俺以外を見ないで欲しい 俺だけを愛して……… Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、 でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ 俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です! Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。 こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!

処理中です...