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013:大人のおもちゃとミミックくん

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 キングラットのコレクションにされちゃった私。
 逃げたいけど……どうやって逃げればいいのよっ!!

 キングラットは全然ここから離れてくれないし。
 見張りのネズミさんもといスモールラットは多いし。 (100匹は軽く超えてるよね)

 ああーもう。何でこうなっちゃったのよー。
 って、さっきから何かが私の背中に刺さってるんですけど?
 ものすごく気になる。ちょっとだけ動くか。

 私はキングラットたちに気付かれないように、そっと体を動かした。
 もし気付かれたとしても山のようにもられた宝の山だ。ズレただけだと思われるだけで済むだろう。

 ふぅー。
 バレずに体をズラすことに成功したぞ。
 で、さっきから私の背中に刺さってたものは一体何?

 って!!!!
 おいおいおいおいおい!
 何で、何でこんなものがこの世界に!!
 これって……まさか、いや、絶対にそうだ。
 私が見間違えるわけない。
 これは……私の背中に刺さってたものは……大人のおもちゃだ。 (女性用のっ)
 ピーにピーしてピーするピーのやつ!!

 まさか異世界でも大人のおもちゃを見ることになるとはね。
 どの世界もこういうのは共通なんだね。
 人間って不思議だっ。

 あと、キングラットさーん。
 金銀財宝の山に大人のおもちゃは相応しくないと思いますよー。
 スモールラットさんの中に変態さんが混じってるかもですよー。
 まったく、どこから拾ってきたんだよ。

 なんか、何とかなりそうな気がしてきた。
 隙を見て逃げ出そう。

 さて、出口はどっちだったかな……ん?
 あ、あなたは!?

 私の瞳にの姿が映った。

 私以外にもミミックがいた!
 初めて見たぞ!
 そうか、キングラットに捕まってしまっていたのか。
 おーい! おーい! ミミックー!
 って、心の声が聞こえるわけないか。
 思念伝達みたいなのを期待したけど、さすがにそんな能力ミミックにはないよね。

 ん~、どうにかして私に気付いて欲しいな。
 私一人より二人の方が、ここから脱出できる可能性も上がると思うんだよね。
 是が非でも協力願いたいっ。

 さっきみたいにずり落ちていけば、ミミックに近付くことは可能だな。
 でもどうやって会話すればいいんだろう。
 ミミックの言葉とかわかんないし、そもそもこの体じゃ日本語も喋ることすらできないし。
 キィイイとか、カパカパとか、ギィギィとかしか声出せないからなぁ。
 でも意外と喋ってみたら伝わったりしてー。異世界あるある的な感じでさ。 (勝手に翻訳される感じのあれね)

 とりあえずやってみる価値はある。
 気付かれないようにゆっくりと近付くぞっ。

 ――ズルズルズルズルッ……

 私は時間をかけてゆっくりと金銀財宝の山を滑り降りた。
 そしてミミックの隣にまで来たのだった。
 ピッタリくっついちゃったのは予想外だったけど。 (滑りすぎた)
 なんか突然密着しちゃって恥ずかしいなぁ。
 よーくみたら何だか男の子っぽい見た目のミミックよね。
 青とか赤とか金色とか、かっこいい装飾だし。絶対男の子のミミックだ。
 どうしよう。とっても優しい男の子だったら。私年下の男の子大好きなのよね。
 イケメン冒険者やイケメン勇者様ほどではないけど……ミミックもありね。
 な、何だか緊張してきたわ。合コンで変に緊張しちゃった時みたい。 (あの頃は若かった)

 と、とにかくまずは挨拶よね。
 ゴホンッ。

「キ、キィィィ…… (こ、こんにちは……)」

 キングラットたちにバレないように小声で挨拶。
 何だかコソコソしてる感じもドキドキしちゃうわ。
 も、もしかしてこれって恋ってやつ!?
 きゃーっ。恋ってこんな感じなのね。
 キングラットから一緒に逃げ出す感じもロマンティックよね。

 って、あれ?
 おかしいな。返事がない。
 きっとあれかキングラットに警戒しているのね。
 でも大丈夫よ。さっきくらいの小声ならキングラットにバレたりしないわ。

「キィィィィィ。 (小声なら大丈夫よ)」

 う~ん。返事はなしか。
 もしかして恥ずかしいのかな?
 いきなりお姉さんに話しかけられて恥ずかしがってるのかもっ!
 なんて可愛いミミックくんなの!?
 すごくいい! すごくいいぞ。

 ――じゅるりっ。

 おっと、興奮しすぎてよだれが出てしまった。
 これじゃあのゴブリンと一緒だな。反省しないと。

 とにかく、声をかけても返事がないんだ。
 なら今度は体を使ってツンツンとする作戦はどうかな?
 男の子ってそういうのに弱いって聞いたことあるし。
 よしっ。やってみるか。

 宝箱の角の部分で~、ツンツン、っと。
 ど、どうかな?
 何かしらのリアクションをしてくれると助かるんだけど……

 おっ!?
 ミミックくんが動き出したぞ!
 そうそう。緊張しなくていいんだよ。
 私はとっても優しいお姉さんミミックなんだから。
 決してあなたを食べようとしてる怪しいミミックちゃんじゃないんだからね。

 ――ズリズリズリズリ……

 って、ミミックくん!?
 動きすぎじゃない?
 というか滑り落ちていってない?

 ――ズルズルズルズルズルッ!!!

 ミミックくん!?

 ――バァゴンッ!!!

 宝の山から滑り落ちたミミックは激しく地面に落下。
 体は砕け、宝箱の形を成していない。見るも無残な姿へとなってしまった。

 わ、私が……ミミックくんを殺してしまった!?
 そ、そんな……初めての同胞だったのに……。
 ごめんミミックくん。そんなに弱っていただなんて知らなくて……。
 だから返事もなかったのね。返事する体力なんて微塵もなかったから。
 うぅ……どうしよう。取り返しのつかないことを……。
 せめて粒子になって消える前に祈りを捧げないと。

 きっとあなたは天国に逝くでしょう。
 キングラットの脅威に一人で耐えたのだから。
 安らかにお眠りください。

 って、あ、あれ?
 全然消えないぞ?
 というか、ミミックの特徴的な舌は? 牙は?
 え……?
 もしかして私、ただの宝箱に話しかけてた?
 そして恋に落ちてた?

 うっわ!!
 恥ずかしすぎる。
 何やっちゃってんの私!
 キングラットのコレクションにされちゃって気が動転してたのかも。 (正常な判断ができないほどに)
 落ちたのは恋じゃなくてタダの宝箱じゃんかー!

 ――いてっ! な、何!?

 ショックを受けていた私の頭に何かが当たった。
 ミミックくんが落ちた衝撃のせいで、宝の山から何かが落下してきたのだろう。
 その落下物は私の横でブォオオオオオオンッ、と振動しながら音を鳴らし続けていた。
 大人のおもちゃだ。

 大人のおもちゃはもういいってー!!
 何の因果か大人のおもちゃは私の傍にいてくれた。 (恥ずかしいんだけど!)
 その振動音は落ち込む私を励ましているかのようにも聞こえた。 (幻聴)
 でもうるさいから静かにしてくれるとありがたいんだけど……。
 誰か大人のおもちゃのスイッチを切ってくれ!
 キングラットに警戒されてしまう。

 いや、待てよ。
 そうか。その手があったか。
 大人のおもちゃを使えばいいんだ。
 うん。大人のおもちゃを使おう! 
 今、ここで!

 大丈夫。
 もう気は動転してない。正常な判断だっ!!
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