115 / 550
第二章
異議のある者7
しおりを挟む
「な、何してるんですか!?」
フードを外してリュードが上の服を脱ぐ。
女の子たちがキャーキャーしているが別に変なことをしようというのではない。
「わあ……角カッケー」
フードを外すと当然リュードが隠していたツノがあらわになる。
怖がられるかなと思っていたけれど男の子たちはリュードのツノを見て目を輝かせている。
女の子たちもリュードを怖がることはなく、むしろ鍛えられているリュードの体を頬を赤らめて見ている。
リノシンも頬を赤らめているのでアコウィは面白くない顔をしているが、そこは許してほしいとリュードは思う。
「少し離れてて」
そのまま真人族の姿で暴れて犯罪者になると厄介なことになる。
黒いツノのある男なんて特徴的過ぎてすぐに身バレしてしまう。
激しい戦いになる可能性も大きいし姿を誤魔化しつつ、最初から全力で行くつもりだった。
「か……カッケェー!」
リュードは子供たちの前で竜人化した。
怖がられるかもしれないと思っていたのだけれど反応は予想外のものだった。
怖がって引いているような子は何人かいるけれど男の子はリュードの姿にむしろ好意的な反応を見せている。
女の子も冷静で怖がっている様子の子は少なかった。
「それじゃあみんな、秘密にする約束、頼むぞ?」
服を腰につけたマジックボックスのかかった袋に突っ込んで窓から離れる。
子供たちにウインクして見せると、男の子たちは任せて!と興奮している。
とりあえずエミナのようにパニックになる子がいなくてよかった。
「よし」
軽く体を伸ばして心の準備をする。
「行くぞ!」
リュードは走り出す。
窓枠に足をかけるとそのまま大きく窓から跳躍して外に飛び出した。
上を見上げている人なんていないのでリュードに気づいている人はいない。
思いの外跳べたな近づく教会を見ながら思った。
腕をクロスして身を守り、衝撃に備える。
子供たちが自慢していた女神のステンドグラスを突き破り、リュードは教会の中に入った。
「ではこの結婚に異議のある者は」
ガラスが割れる音の向こうで声が聞こえた。
異議のある者?
当然この結婚には異議がある。
誘拐して政治の道具として女の子を利用するだなんて許せるわけがない。
「ここに異議のある者がいるぞ!」
教会入ってすぐの大聖堂。
結婚式が行われているど真ん中にリュードは着地した。
その場にいた全員の視線が飛び込んできたリュードに集まる。
まだ誓いは終わっていない。
なんとか間に合ったようだ。
式場の中にまで物々しい警備の兵はいない。
敵が援護を呼んでくるまでに時間はあるとすぐに状況を把握する。
「リュード……さん?」
「エミナ、迎えに来たぞ」
ちょうどリュードの正面方向に純白の結婚衣装に身を包んだエミナがいた。
隣にはうすらハゲの太った年配の男性。
あれがキンミッコだとすぐにわかった。
「望まない結婚を強制するのは良くないぞ。俺はこの結婚に反対だ!」
「お前は何者だ!」
「俺はシュー……シュバルリュイード、だ!」
ご先祖様、ごめんなさいとリュードは心の中で謝った。
自分の名前をうっかりと口に出してしまいそうになったリュード。
しかしこんな場所で自分の名前を言うわけにはいかない。
適当に名前を言えばいいものをうっかりご先祖様の名前を出してしまった。
「シュバルリュイードだと? 魔人族の英雄の名前を出して何を企んでいる!」
「俺は……正義を成しに来た!」
「…………はぁっ?」
空気が凍りつく。
堂々と目的を言うつもりだったのだが思い直した。
エミナにはこの先もトキュネスで生活することもあるかもしれない。
下手に関係を匂わせるような発言はしないほうがいい。
あくまでリュードの独断での行動ということにしておけばエミナの方で言い訳もできるかもしれない。
それに口から出てしまった言葉はもう引っ込めることはできないのでこのまま押し切る。
「望まぬ結婚を己の欲望のために押し付ける不貞の輩に正義の鉄槌を落としに来た!」
勢いでしゃべっているとはいえ、これはひどいと自分でも思う。
直接エミナのために来たと言わないようにするために思いついたままに口に出しているが、もっとまともな言い訳があったろうと思わざるを得ない。
この場で感動しているのはエミナだけ。
なんで感動しているのかは謎である。
「さあ、その子を返してもらおうか」
「……そいつを捕らえろ! どこの手のものなのか聞き出すんだ!」
「まあ、そうなるよな」
交渉決裂。
こんな風に来ておいて穏便に住むはずもないけど、穏便に済めばと一度言葉で返すようには試みておいただけである。
ダメだったのでさっさと実力行使でエミナを返してもらう。
リュードはエミナに向かって走り出す。
そんな風にしている間にも後ろからゾロゾロと兵士たちが入ってきているが、兵士たちも状況が分かっていない。
敵襲と聞いて来てみれば魔人族の英雄を名乗る怪しい奴が1人いる。
何が起きたのか困惑していた。
「行かせぬ!」
「行かせてもらうよ!」
キンミッコの近くに控えていた重装備の兵士がハルバードをリュードに向かって振り下ろす。
それをリュードは素手でハルバードの柄を受け止める。
リュードがハルバードを掴んだまま手をひねるとハルバードの先端の斧の部分が折れてしまう。
「なっ……」
少しだけ手が衝撃で痛むけれどダメージはほとんどない。
相手に驚く間も与えずリュードは逆の手で相手の顔面をヘルムごと殴りつける。
ガシャンとけたたましく音を立てて重装備の兵士が吹き飛んでいく。
ヘルムが歪んで頭が抜けなくなるかもしれないけど頑張ってほしい。
「あれ? あのクソジジイは?」
振り返るともうそこにキンミッコはいなかった。
「逃げました」
花嫁を置いて逃げるとはなんとも情けない。
追いかけて殴りつけたいところであるが今はエミナの方が優先である。
「まあいい、じゃあ行こうか」
「……どこにですか?」
エミナが視線を教会の入り口に向ける。
リュードたちは入ってきた兵士たちに完全に包囲されていた。
「に、逃げられないぞ」
すでに結婚式の客は避難して、大聖堂いっぱいに兵士が集まっている。
「本当に私にかかってくるつもりか?」
兵士に向き直り、ピンと胸を張って少し正義の使徒っぽく演じる。
この人数を前に怯むともないリュードの姿に兵士たちの方が怖気付いている。
フードを外してリュードが上の服を脱ぐ。
女の子たちがキャーキャーしているが別に変なことをしようというのではない。
「わあ……角カッケー」
フードを外すと当然リュードが隠していたツノがあらわになる。
怖がられるかなと思っていたけれど男の子たちはリュードのツノを見て目を輝かせている。
女の子たちもリュードを怖がることはなく、むしろ鍛えられているリュードの体を頬を赤らめて見ている。
リノシンも頬を赤らめているのでアコウィは面白くない顔をしているが、そこは許してほしいとリュードは思う。
「少し離れてて」
そのまま真人族の姿で暴れて犯罪者になると厄介なことになる。
黒いツノのある男なんて特徴的過ぎてすぐに身バレしてしまう。
激しい戦いになる可能性も大きいし姿を誤魔化しつつ、最初から全力で行くつもりだった。
「か……カッケェー!」
リュードは子供たちの前で竜人化した。
怖がられるかもしれないと思っていたのだけれど反応は予想外のものだった。
怖がって引いているような子は何人かいるけれど男の子はリュードの姿にむしろ好意的な反応を見せている。
女の子も冷静で怖がっている様子の子は少なかった。
「それじゃあみんな、秘密にする約束、頼むぞ?」
服を腰につけたマジックボックスのかかった袋に突っ込んで窓から離れる。
子供たちにウインクして見せると、男の子たちは任せて!と興奮している。
とりあえずエミナのようにパニックになる子がいなくてよかった。
「よし」
軽く体を伸ばして心の準備をする。
「行くぞ!」
リュードは走り出す。
窓枠に足をかけるとそのまま大きく窓から跳躍して外に飛び出した。
上を見上げている人なんていないのでリュードに気づいている人はいない。
思いの外跳べたな近づく教会を見ながら思った。
腕をクロスして身を守り、衝撃に備える。
子供たちが自慢していた女神のステンドグラスを突き破り、リュードは教会の中に入った。
「ではこの結婚に異議のある者は」
ガラスが割れる音の向こうで声が聞こえた。
異議のある者?
当然この結婚には異議がある。
誘拐して政治の道具として女の子を利用するだなんて許せるわけがない。
「ここに異議のある者がいるぞ!」
教会入ってすぐの大聖堂。
結婚式が行われているど真ん中にリュードは着地した。
その場にいた全員の視線が飛び込んできたリュードに集まる。
まだ誓いは終わっていない。
なんとか間に合ったようだ。
式場の中にまで物々しい警備の兵はいない。
敵が援護を呼んでくるまでに時間はあるとすぐに状況を把握する。
「リュード……さん?」
「エミナ、迎えに来たぞ」
ちょうどリュードの正面方向に純白の結婚衣装に身を包んだエミナがいた。
隣にはうすらハゲの太った年配の男性。
あれがキンミッコだとすぐにわかった。
「望まない結婚を強制するのは良くないぞ。俺はこの結婚に反対だ!」
「お前は何者だ!」
「俺はシュー……シュバルリュイード、だ!」
ご先祖様、ごめんなさいとリュードは心の中で謝った。
自分の名前をうっかりと口に出してしまいそうになったリュード。
しかしこんな場所で自分の名前を言うわけにはいかない。
適当に名前を言えばいいものをうっかりご先祖様の名前を出してしまった。
「シュバルリュイードだと? 魔人族の英雄の名前を出して何を企んでいる!」
「俺は……正義を成しに来た!」
「…………はぁっ?」
空気が凍りつく。
堂々と目的を言うつもりだったのだが思い直した。
エミナにはこの先もトキュネスで生活することもあるかもしれない。
下手に関係を匂わせるような発言はしないほうがいい。
あくまでリュードの独断での行動ということにしておけばエミナの方で言い訳もできるかもしれない。
それに口から出てしまった言葉はもう引っ込めることはできないのでこのまま押し切る。
「望まぬ結婚を己の欲望のために押し付ける不貞の輩に正義の鉄槌を落としに来た!」
勢いでしゃべっているとはいえ、これはひどいと自分でも思う。
直接エミナのために来たと言わないようにするために思いついたままに口に出しているが、もっとまともな言い訳があったろうと思わざるを得ない。
この場で感動しているのはエミナだけ。
なんで感動しているのかは謎である。
「さあ、その子を返してもらおうか」
「……そいつを捕らえろ! どこの手のものなのか聞き出すんだ!」
「まあ、そうなるよな」
交渉決裂。
こんな風に来ておいて穏便に住むはずもないけど、穏便に済めばと一度言葉で返すようには試みておいただけである。
ダメだったのでさっさと実力行使でエミナを返してもらう。
リュードはエミナに向かって走り出す。
そんな風にしている間にも後ろからゾロゾロと兵士たちが入ってきているが、兵士たちも状況が分かっていない。
敵襲と聞いて来てみれば魔人族の英雄を名乗る怪しい奴が1人いる。
何が起きたのか困惑していた。
「行かせぬ!」
「行かせてもらうよ!」
キンミッコの近くに控えていた重装備の兵士がハルバードをリュードに向かって振り下ろす。
それをリュードは素手でハルバードの柄を受け止める。
リュードがハルバードを掴んだまま手をひねるとハルバードの先端の斧の部分が折れてしまう。
「なっ……」
少しだけ手が衝撃で痛むけれどダメージはほとんどない。
相手に驚く間も与えずリュードは逆の手で相手の顔面をヘルムごと殴りつける。
ガシャンとけたたましく音を立てて重装備の兵士が吹き飛んでいく。
ヘルムが歪んで頭が抜けなくなるかもしれないけど頑張ってほしい。
「あれ? あのクソジジイは?」
振り返るともうそこにキンミッコはいなかった。
「逃げました」
花嫁を置いて逃げるとはなんとも情けない。
追いかけて殴りつけたいところであるが今はエミナの方が優先である。
「まあいい、じゃあ行こうか」
「……どこにですか?」
エミナが視線を教会の入り口に向ける。
リュードたちは入ってきた兵士たちに完全に包囲されていた。
「に、逃げられないぞ」
すでに結婚式の客は避難して、大聖堂いっぱいに兵士が集まっている。
「本当に私にかかってくるつもりか?」
兵士に向き直り、ピンと胸を張って少し正義の使徒っぽく演じる。
この人数を前に怯むともないリュードの姿に兵士たちの方が怖気付いている。
34
あなたにおすすめの小説
人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~
犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。
塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。
弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。
けれども違ったのだ。
この世の中、強い奴ほど才能がなかった。
これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。
見抜いて、育てる。
育てて、恩を売って、いい暮らしをする。
誰もが知らない才能を見抜け。
そしてこの世界を生き残れ。
なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。
更新不定期
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる