人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜

犬型大

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第二章

異議のある者7

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「な、何してるんですか!?」

 フードを外してリュードが上の服を脱ぐ。
 女の子たちがキャーキャーしているが別に変なことをしようというのではない。

「わあ……角カッケー」

 フードを外すと当然リュードが隠していたツノがあらわになる。
 怖がられるかなと思っていたけれど男の子たちはリュードのツノを見て目を輝かせている。

 女の子たちもリュードを怖がることはなく、むしろ鍛えられているリュードの体を頬を赤らめて見ている。
 リノシンも頬を赤らめているのでアコウィは面白くない顔をしているが、そこは許してほしいとリュードは思う。

「少し離れてて」

 そのまま真人族の姿で暴れて犯罪者になると厄介なことになる。
 黒いツノのある男なんて特徴的過ぎてすぐに身バレしてしまう。

 激しい戦いになる可能性も大きいし姿を誤魔化しつつ、最初から全力で行くつもりだった。

「か……カッケェー!」

 リュードは子供たちの前で竜人化した。
 怖がられるかもしれないと思っていたのだけれど反応は予想外のものだった。

 怖がって引いているような子は何人かいるけれど男の子はリュードの姿にむしろ好意的な反応を見せている。
 女の子も冷静で怖がっている様子の子は少なかった。

「それじゃあみんな、秘密にする約束、頼むぞ?」

 服を腰につけたマジックボックスのかかった袋に突っ込んで窓から離れる。
 子供たちにウインクして見せると、男の子たちは任せて!と興奮している。

 とりあえずエミナのようにパニックになる子がいなくてよかった。

「よし」

 軽く体を伸ばして心の準備をする。

「行くぞ!」

 リュードは走り出す。
 窓枠に足をかけるとそのまま大きく窓から跳躍して外に飛び出した。

 上を見上げている人なんていないのでリュードに気づいている人はいない。
 思いの外跳べたな近づく教会を見ながら思った。

 腕をクロスして身を守り、衝撃に備える。
 子供たちが自慢していた女神のステンドグラスを突き破り、リュードは教会の中に入った。

「ではこの結婚に異議のある者は」

 ガラスが割れる音の向こうで声が聞こえた。
 異議のある者?

 当然この結婚には異議がある。
 誘拐して政治の道具として女の子を利用するだなんて許せるわけがない。

「ここに異議のある者がいるぞ!」

 教会入ってすぐの大聖堂。
 結婚式が行われているど真ん中にリュードは着地した。
 その場にいた全員の視線が飛び込んできたリュードに集まる。

 まだ誓いは終わっていない。
 なんとか間に合ったようだ。

 式場の中にまで物々しい警備の兵はいない。
 敵が援護を呼んでくるまでに時間はあるとすぐに状況を把握する。

「リュード……さん?」

「エミナ、迎えに来たぞ」

 ちょうどリュードの正面方向に純白の結婚衣装に身を包んだエミナがいた。
 隣にはうすらハゲの太った年配の男性。

 あれがキンミッコだとすぐにわかった。

「望まない結婚を強制するのは良くないぞ。俺はこの結婚に反対だ!」

「お前は何者だ!」

「俺はシュー……シュバルリュイード、だ!」

 ご先祖様、ごめんなさいとリュードは心の中で謝った。
 自分の名前をうっかりと口に出してしまいそうになったリュード。

 しかしこんな場所で自分の名前を言うわけにはいかない。
 適当に名前を言えばいいものをうっかりご先祖様の名前を出してしまった。

「シュバルリュイードだと? 魔人族の英雄の名前を出して何を企んでいる!」

「俺は……正義を成しに来た!」

「…………はぁっ?」

 空気が凍りつく。
 堂々と目的を言うつもりだったのだが思い直した。

 エミナにはこの先もトキュネスで生活することもあるかもしれない。
 下手に関係を匂わせるような発言はしないほうがいい。

 あくまでリュードの独断での行動ということにしておけばエミナの方で言い訳もできるかもしれない。
 それに口から出てしまった言葉はもう引っ込めることはできないのでこのまま押し切る。

「望まぬ結婚を己の欲望のために押し付ける不貞の輩に正義の鉄槌を落としに来た!」

 勢いでしゃべっているとはいえ、これはひどいと自分でも思う。
 直接エミナのために来たと言わないようにするために思いついたままに口に出しているが、もっとまともな言い訳があったろうと思わざるを得ない。

 この場で感動しているのはエミナだけ。
 なんで感動しているのかは謎である。

「さあ、その子を返してもらおうか」

「……そいつを捕らえろ! どこの手のものなのか聞き出すんだ!」

「まあ、そうなるよな」

 交渉決裂。
 こんな風に来ておいて穏便に住むはずもないけど、穏便に済めばと一度言葉で返すようには試みておいただけである。
 
 ダメだったのでさっさと実力行使でエミナを返してもらう。
 リュードはエミナに向かって走り出す。

 そんな風にしている間にも後ろからゾロゾロと兵士たちが入ってきているが、兵士たちも状況が分かっていない。
 敵襲と聞いて来てみれば魔人族の英雄を名乗る怪しい奴が1人いる。

 何が起きたのか困惑していた。

「行かせぬ!」

「行かせてもらうよ!」

 キンミッコの近くに控えていた重装備の兵士がハルバードをリュードに向かって振り下ろす。
 それをリュードは素手でハルバードの柄を受け止める。

 リュードがハルバードを掴んだまま手をひねるとハルバードの先端の斧の部分が折れてしまう。

「なっ……」

 少しだけ手が衝撃で痛むけれどダメージはほとんどない。
 相手に驚く間も与えずリュードは逆の手で相手の顔面をヘルムごと殴りつける。

 ガシャンとけたたましく音を立てて重装備の兵士が吹き飛んでいく。
 ヘルムが歪んで頭が抜けなくなるかもしれないけど頑張ってほしい。

「あれ? あのクソジジイは?」

 振り返るともうそこにキンミッコはいなかった。

「逃げました」

 花嫁を置いて逃げるとはなんとも情けない。
 追いかけて殴りつけたいところであるが今はエミナの方が優先である。

「まあいい、じゃあ行こうか」

「……どこにですか?」

 エミナが視線を教会の入り口に向ける。
 リュードたちは入ってきた兵士たちに完全に包囲されていた。

「に、逃げられないぞ」

 すでに結婚式の客は避難して、大聖堂いっぱいに兵士が集まっている。

「本当に私にかかってくるつもりか?」

 兵士に向き直り、ピンと胸を張って少し正義の使徒っぽく演じる。
 この人数を前に怯むともないリュードの姿に兵士たちの方が怖気付いている。
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