301 / 550
第四章
次の旅へ2
しおりを挟む
守り抜いて、そして最後までドワガルは落ちることがなかった。
しかし国は守れても多くの者が亡くなった。
深い悲しみと真人族への恨みはドワーフを鎖国へと導いた。
魔人族へは直接の恨みなくても戦争は真人族と魔人族の間に起きたものであったので、そうした側面から魔人族への恨みもあった。
長い時間をかけてもドワーフは他種族への不信感を忘れず、真人族への強い恨みはいつしか他の種族全体への不信感になって残った。
つまるところ、黒重鉄を扱えるような職人がドワーフにはいるかもしれないけれど、ドワーフに武器を直してほしいとお願いしても聞き入れてはくれないという話なのだ。
「普通の人ならドワガルに入ることすらできないだろうな。だが我々は違う」
ヴァンはニヤリと笑う。
「血人族はドワーフと交流があるのだ」
血人族は奴隷とされていた他の種族を助けて吸収することで自由と国を勝ち取りティアローザを興した。
奴隷とされていた者の中には少なからずドワーフもいたのである。
真魔大戦が終わり、戦争の影響が落ち着く中でティアローザはわざわざ護衛をつけてドワーフをドワガルに返しまでした。
恨みは忘れない。
けれど受けた恩も忘れない。
ティアローザはドワガルにとって数少ない友好国であったのである。
ヴィッツから黒重鉄なる金属のことを聞いた時ヴァンはすぐにドワーフのことを思いついた。
ドワーフに紹介してほしいとせがんでくる輩は大勢いる。
武器だろうが防具だろうがドワーフ製のものは今や手の届かない貴重なもので誰しもが憧れを持つ。
「我々の紹介なら武器の修繕くらいの融通はきかせてくれるはずだ。自分の足で行ってもらう必要はあるがな。どうだ、これはお礼になるかな?」
「もちろんです!」
ドワーフが存在していることは知っていたので一度会ってみたいとは思っていた。
同時にドワーフたちがどのような態度で他種族を見ているかも知っていたので会うことも厳しいと分かっていた。
このような形でのお礼になるとはリュードも予想しなかったが悪くない話である。
「どう思う、ルフォン」
「うーんとね、私はいい包丁が欲しいかな?」
「賛成みたいだな」
質問の答えとしては一歩先を行き過ぎている。
ルフォンはドワーフの国に行くことを前提にして答えてリュードは思わず笑ってしまう。
以前どこかでドワーフが作った包丁は切れ味の高さとそれが衰えないことで有名だと聞いた。
今の包丁も悪くないけどより良いものがあると聞いたら欲しくなってしまうのは当然のことだ。
「どこにしてもリューちゃんが行くところが私の行くところだからね!」
「分かったよ。でもルフォンの行きたくないところは俺の行きたくないところでもあることは覚えといてくれよ?」
「うん、もちろん!」
自分のことを考えてくれるリュードにルフォンも笑顔になる。
「話はまとまりました。是非ともドワーフにご紹介していただければと思います」
次はどこに行こうか悩んでいたところだ。
これで目的地もできるしちょうどいい。
「そうかそうか。お礼と言っておいてなんだが一つお願いがあるのだ」
「お願いですか? 俺たちにできることなら手伝いますけど……」
お礼としてドワーフのことを紹介するのにそこに加えてお願いするのは不躾なことである。
だがドワーフのところに行くのならとお願いしてみることにした。
「…………」
「……ええと?」
とりあえず聞いてみるだけ聞いてみようとリュードは聞く体勢なのだが、ヴァンはスッと目をつぶって言葉を発さない。
「お願いとは、ラストを一緒に連れて行ってやってくれないかということだ」
「お父様!?」
呼び出されたはいいけど蚊帳の外にいたラストが予想外の言葉に驚いた。
ラストはきっと二人に対する用事が終わったら次に話があるのだと思って寂しそうにリュードとルフォンを見ていた。
話を聞けば聞くほどお別れの時であると寂しさとか悲しさが心を占めて、重たい気分になっていた。
ところがいきなり名前を出されて慌てた。
しかもその内容が内容なだけにポカンとした顔でヴァンのことを見つめている。
「ドワーフたちは警戒心が強いからな。紹介状だけではお礼を果たせるか、どうにも不安でな。血人族の王の娘が来たとあればドワーフでも雑に扱えはしない」
「……それだけではない、ですよね?」
ヴァンの口にした理由が取ってつけたように感じられるのはリュードだけでない。
名前を出されたラストも納得がいっていない顔をしている。
王の娘が来たならドワーフも丁寧な対応をするだろうが、そこまでする理由はなくちゃんとした使者を同行させるのでもよいだろう。
「やはりこれでは納得してくれんか?」
「俺はそれでも構いませんが……」
リュードがラストを見る。
別に嫌ではないのだけどそんな理由で、とは思わざるを得ない複雑な顔をしているラスト。
行かされる本人が納得していない。
「……私は間違っていた。ここで色々なことを学び、大領主として実際の経営も学ぶことによってそれで十分であると考えてきた。けれど今回の事件で思ったのだ。
世の中は広く、思い通りにならないことの方が多い。それでも時には突き進んでいくことは大事であるし、その気概を持つことが大切なのである。そのためには世界をもっと広い視野で見る必要がある」
ゆっくりと息を吐き出したヴァンは本音を語る。
しかし国は守れても多くの者が亡くなった。
深い悲しみと真人族への恨みはドワーフを鎖国へと導いた。
魔人族へは直接の恨みなくても戦争は真人族と魔人族の間に起きたものであったので、そうした側面から魔人族への恨みもあった。
長い時間をかけてもドワーフは他種族への不信感を忘れず、真人族への強い恨みはいつしか他の種族全体への不信感になって残った。
つまるところ、黒重鉄を扱えるような職人がドワーフにはいるかもしれないけれど、ドワーフに武器を直してほしいとお願いしても聞き入れてはくれないという話なのだ。
「普通の人ならドワガルに入ることすらできないだろうな。だが我々は違う」
ヴァンはニヤリと笑う。
「血人族はドワーフと交流があるのだ」
血人族は奴隷とされていた他の種族を助けて吸収することで自由と国を勝ち取りティアローザを興した。
奴隷とされていた者の中には少なからずドワーフもいたのである。
真魔大戦が終わり、戦争の影響が落ち着く中でティアローザはわざわざ護衛をつけてドワーフをドワガルに返しまでした。
恨みは忘れない。
けれど受けた恩も忘れない。
ティアローザはドワガルにとって数少ない友好国であったのである。
ヴィッツから黒重鉄なる金属のことを聞いた時ヴァンはすぐにドワーフのことを思いついた。
ドワーフに紹介してほしいとせがんでくる輩は大勢いる。
武器だろうが防具だろうがドワーフ製のものは今や手の届かない貴重なもので誰しもが憧れを持つ。
「我々の紹介なら武器の修繕くらいの融通はきかせてくれるはずだ。自分の足で行ってもらう必要はあるがな。どうだ、これはお礼になるかな?」
「もちろんです!」
ドワーフが存在していることは知っていたので一度会ってみたいとは思っていた。
同時にドワーフたちがどのような態度で他種族を見ているかも知っていたので会うことも厳しいと分かっていた。
このような形でのお礼になるとはリュードも予想しなかったが悪くない話である。
「どう思う、ルフォン」
「うーんとね、私はいい包丁が欲しいかな?」
「賛成みたいだな」
質問の答えとしては一歩先を行き過ぎている。
ルフォンはドワーフの国に行くことを前提にして答えてリュードは思わず笑ってしまう。
以前どこかでドワーフが作った包丁は切れ味の高さとそれが衰えないことで有名だと聞いた。
今の包丁も悪くないけどより良いものがあると聞いたら欲しくなってしまうのは当然のことだ。
「どこにしてもリューちゃんが行くところが私の行くところだからね!」
「分かったよ。でもルフォンの行きたくないところは俺の行きたくないところでもあることは覚えといてくれよ?」
「うん、もちろん!」
自分のことを考えてくれるリュードにルフォンも笑顔になる。
「話はまとまりました。是非ともドワーフにご紹介していただければと思います」
次はどこに行こうか悩んでいたところだ。
これで目的地もできるしちょうどいい。
「そうかそうか。お礼と言っておいてなんだが一つお願いがあるのだ」
「お願いですか? 俺たちにできることなら手伝いますけど……」
お礼としてドワーフのことを紹介するのにそこに加えてお願いするのは不躾なことである。
だがドワーフのところに行くのならとお願いしてみることにした。
「…………」
「……ええと?」
とりあえず聞いてみるだけ聞いてみようとリュードは聞く体勢なのだが、ヴァンはスッと目をつぶって言葉を発さない。
「お願いとは、ラストを一緒に連れて行ってやってくれないかということだ」
「お父様!?」
呼び出されたはいいけど蚊帳の外にいたラストが予想外の言葉に驚いた。
ラストはきっと二人に対する用事が終わったら次に話があるのだと思って寂しそうにリュードとルフォンを見ていた。
話を聞けば聞くほどお別れの時であると寂しさとか悲しさが心を占めて、重たい気分になっていた。
ところがいきなり名前を出されて慌てた。
しかもその内容が内容なだけにポカンとした顔でヴァンのことを見つめている。
「ドワーフたちは警戒心が強いからな。紹介状だけではお礼を果たせるか、どうにも不安でな。血人族の王の娘が来たとあればドワーフでも雑に扱えはしない」
「……それだけではない、ですよね?」
ヴァンの口にした理由が取ってつけたように感じられるのはリュードだけでない。
名前を出されたラストも納得がいっていない顔をしている。
王の娘が来たならドワーフも丁寧な対応をするだろうが、そこまでする理由はなくちゃんとした使者を同行させるのでもよいだろう。
「やはりこれでは納得してくれんか?」
「俺はそれでも構いませんが……」
リュードがラストを見る。
別に嫌ではないのだけどそんな理由で、とは思わざるを得ない複雑な顔をしているラスト。
行かされる本人が納得していない。
「……私は間違っていた。ここで色々なことを学び、大領主として実際の経営も学ぶことによってそれで十分であると考えてきた。けれど今回の事件で思ったのだ。
世の中は広く、思い通りにならないことの方が多い。それでも時には突き進んでいくことは大事であるし、その気概を持つことが大切なのである。そのためには世界をもっと広い視野で見る必要がある」
ゆっくりと息を吐き出したヴァンは本音を語る。
12
あなたにおすすめの小説
人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~
犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。
塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。
弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。
けれども違ったのだ。
この世の中、強い奴ほど才能がなかった。
これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。
見抜いて、育てる。
育てて、恩を売って、いい暮らしをする。
誰もが知らない才能を見抜け。
そしてこの世界を生き残れ。
なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。
更新不定期
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる