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第一章
両手で救える人1
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首都ではないが国の中では大きな規模の町についた。
グレンネルまで直線的に進むのならやや回り道となるがちゃんと目的があってのことだった。
用事があるからとついてこようとするキリアンとは宿で別れてテシアがハニアスを引き連れてやってきたのはビノシ商会。
この町に来たのはビノシ商会の支部があるからだった。
「セルディアナと申します。黒いコインの貴人にお会いできて光栄です」
支部長は若い女性だった。
ハニアスは支部長が若い女性なことに少し驚いていた。
こうした商会の責任者となれる人は大体年配の男性であることが多いからである。
しかしビノシ商会に必要なのは能力であって年齢ではない。
若かろうが女性だろうが能力があるのなら責任を任される。
これはテシアが望んだビノシ商会としての方針でもある。
たとえ若い女性ということだけで軽んじる人がいたとしても、そんな人とは取引しなければいいのだ。
「事前に連絡を受けておりますので資金の用意はしてあります。必要な消耗品もお教えいただければすぐに準備いたします。
こちらは周辺国や道の状況をまとめた資料になります」
若い自分でもこうして抜擢されたのは黒いコインの貴人のおかげであると知っているセルディアナはテシアに尊敬の眼差しを向けている。
安全に旅をする上でも情報は大切である。
ただお金や旅に必要な物を受け取るだけじゃなく事前に次の支部までの情報を調べておいてもらっていた。
「ありがとう。それと調べてほしいものがあるんだ」
「なんでもお調べします!」
調べてほしいこととは以前あった危険な因習を持つ村がどうなったかということである。
メリノがどのような判断を下したのか気にならないといえばウソになる。
「分かりました!」
「消耗品の準備と合わせてどれぐらいかかりそうかな?」
「三日ほどくだされば全てご用意いたします」
「なら三日後にまた来るよ」
「それと……」
「ん? 何かあるのかい?」
セルディアナは少し困ったような表情を浮かべた。
表情を見て何かお願いがあるのだなとテシアは察した。
「実は困ったことがありまして。自力での解決も試みているのですが黒いコインの貴人が訪ねてくるのなら頼ってみてはどうかと総会長に言われたのです」
「ガルシアードが? ……まあ何があったのか話すだけ話してくれ。どうするかは聞いてからだ」
「ありがとうございます! 実は山賊に悩まされていまして」
「山賊ですか?」
「はい。古くからいくつか山賊がいるのですが少し前に衝突があったんです。その結果倒された山賊の方が吸収されることになって、規模が大きくなったのです」
どこにでも盗賊や山賊のようなものはいる。
いくら叩き潰しても新しくこうした人は出てくるのだから根絶は難しいのだ。
「これまではいくらか通行料を払っていたのですが山賊の規模が大きくなって気が大きくなったのか通行料も大きく値上げしたんです。必要経費と割り切るにも額が大きくなってしまいまして」
金で安全に通してくれるような山賊ならばお金さえ払えば余計な危険もなく、むしろ道中の安全が確保されているように割り切ることもできる。
しかし他の山賊を吸収して大きくなった山賊は通行料の値上げを一方的に要求した。
流石に利益から考えた時に損失が大きいと言わざるを得なくなった。
そこでビノシ商会では人を募って山賊を討伐するつもりであった。
「人はそれなりに集まったのですがこの辺りに教会がなく、神官の助けを得られなかったのです」
人の怪我などを治したり支援をしたりすることができる不思議な力である神聖力を使える神官は戦いにいるのといないのでは大きな違いがある。
山賊を倒せるだけの人員は確保できたけれどよりリスクを下げるためには神官の助けも欲しい。
しかし町には教会もなく、周辺の町でも同様に教会がなかった。
そのために教会に支援を要請できなかったのである。
そこに現れたのがテシアとハニアスだった。
「なるほどね。そういうことなら協力しよう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「それで、いつ討伐に?」
「……明日です」
ーーーーー
「ジャミルです。よろしくお願いします」
体つきのいいヒゲ面の中年男性が手を差し出してきてテシアはそれに応じて握手をする。
今回の討伐隊のリーダーをする傭兵の男性である。
急遽神官が同行してくれることになってジャミルのテシアたちに対する態度も柔らかい。
戦場で戦ったことがあるものにとって後ろに神官がいてくれることは大きな意味を持つのだ。
「僕はテシア、こちらがハニアスでキリアン。僕とハニアスが神官だ」
「お二人も来てくださったのですか。神に感謝ですね」
いきなり明日と言われたけれど、テシアたちに用事があるわけではない。
キリアンにも話したところぜひ手伝わせてほしいと申し出てくれたのでキリアンにも同行してもらった。
「出来る限りお手を煩わせないようにしますが、いざという時にはお願いします」
「こうして来た以上僕たちも全力を尽くすよ」
「心強いです」
ビノシ商会によって集められた討伐隊に同行してテシアたちも町を出発した。
グレンネルまで直線的に進むのならやや回り道となるがちゃんと目的があってのことだった。
用事があるからとついてこようとするキリアンとは宿で別れてテシアがハニアスを引き連れてやってきたのはビノシ商会。
この町に来たのはビノシ商会の支部があるからだった。
「セルディアナと申します。黒いコインの貴人にお会いできて光栄です」
支部長は若い女性だった。
ハニアスは支部長が若い女性なことに少し驚いていた。
こうした商会の責任者となれる人は大体年配の男性であることが多いからである。
しかしビノシ商会に必要なのは能力であって年齢ではない。
若かろうが女性だろうが能力があるのなら責任を任される。
これはテシアが望んだビノシ商会としての方針でもある。
たとえ若い女性ということだけで軽んじる人がいたとしても、そんな人とは取引しなければいいのだ。
「事前に連絡を受けておりますので資金の用意はしてあります。必要な消耗品もお教えいただければすぐに準備いたします。
こちらは周辺国や道の状況をまとめた資料になります」
若い自分でもこうして抜擢されたのは黒いコインの貴人のおかげであると知っているセルディアナはテシアに尊敬の眼差しを向けている。
安全に旅をする上でも情報は大切である。
ただお金や旅に必要な物を受け取るだけじゃなく事前に次の支部までの情報を調べておいてもらっていた。
「ありがとう。それと調べてほしいものがあるんだ」
「なんでもお調べします!」
調べてほしいこととは以前あった危険な因習を持つ村がどうなったかということである。
メリノがどのような判断を下したのか気にならないといえばウソになる。
「分かりました!」
「消耗品の準備と合わせてどれぐらいかかりそうかな?」
「三日ほどくだされば全てご用意いたします」
「なら三日後にまた来るよ」
「それと……」
「ん? 何かあるのかい?」
セルディアナは少し困ったような表情を浮かべた。
表情を見て何かお願いがあるのだなとテシアは察した。
「実は困ったことがありまして。自力での解決も試みているのですが黒いコインの貴人が訪ねてくるのなら頼ってみてはどうかと総会長に言われたのです」
「ガルシアードが? ……まあ何があったのか話すだけ話してくれ。どうするかは聞いてからだ」
「ありがとうございます! 実は山賊に悩まされていまして」
「山賊ですか?」
「はい。古くからいくつか山賊がいるのですが少し前に衝突があったんです。その結果倒された山賊の方が吸収されることになって、規模が大きくなったのです」
どこにでも盗賊や山賊のようなものはいる。
いくら叩き潰しても新しくこうした人は出てくるのだから根絶は難しいのだ。
「これまではいくらか通行料を払っていたのですが山賊の規模が大きくなって気が大きくなったのか通行料も大きく値上げしたんです。必要経費と割り切るにも額が大きくなってしまいまして」
金で安全に通してくれるような山賊ならばお金さえ払えば余計な危険もなく、むしろ道中の安全が確保されているように割り切ることもできる。
しかし他の山賊を吸収して大きくなった山賊は通行料の値上げを一方的に要求した。
流石に利益から考えた時に損失が大きいと言わざるを得なくなった。
そこでビノシ商会では人を募って山賊を討伐するつもりであった。
「人はそれなりに集まったのですがこの辺りに教会がなく、神官の助けを得られなかったのです」
人の怪我などを治したり支援をしたりすることができる不思議な力である神聖力を使える神官は戦いにいるのといないのでは大きな違いがある。
山賊を倒せるだけの人員は確保できたけれどよりリスクを下げるためには神官の助けも欲しい。
しかし町には教会もなく、周辺の町でも同様に教会がなかった。
そのために教会に支援を要請できなかったのである。
そこに現れたのがテシアとハニアスだった。
「なるほどね。そういうことなら協力しよう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「それで、いつ討伐に?」
「……明日です」
ーーーーー
「ジャミルです。よろしくお願いします」
体つきのいいヒゲ面の中年男性が手を差し出してきてテシアはそれに応じて握手をする。
今回の討伐隊のリーダーをする傭兵の男性である。
急遽神官が同行してくれることになってジャミルのテシアたちに対する態度も柔らかい。
戦場で戦ったことがあるものにとって後ろに神官がいてくれることは大きな意味を持つのだ。
「僕はテシア、こちらがハニアスでキリアン。僕とハニアスが神官だ」
「お二人も来てくださったのですか。神に感謝ですね」
いきなり明日と言われたけれど、テシアたちに用事があるわけではない。
キリアンにも話したところぜひ手伝わせてほしいと申し出てくれたのでキリアンにも同行してもらった。
「出来る限りお手を煩わせないようにしますが、いざという時にはお願いします」
「こうして来た以上僕たちも全力を尽くすよ」
「心強いです」
ビノシ商会によって集められた討伐隊に同行してテシアたちも町を出発した。
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